51. Trouble Traveler 後編

"ラーンワイズ邸"


 場面はトールの家に移動したか。

 どうやらトールがリトルタスクを連れて帰ってきたようだ。


「おかえりトール。あら、お友達ができたの?」


 トールの母親、キョーカさんだ。

 今とほとんど変わらない超美人。


「うん、たっくぅだよ!木の上にいたの」


「木の上?おかしな子ね。二人とも泥だらけじゃない。お風呂に入ってきなさい」


 リトルタスクの手を引っ張り、風呂に向かうトール。

 おいおい、一緒に入るのか?まぁ子供同士だしいいか。


「なんだ、お前ホントに女だったのか」


「だからそう言ってゆのに!もう、これからは聞かないことは答えてあげないんだから!」


 ん、これが聞かないんだもん!の始まり?


「あなた達、お風呂で騒がないでよ?さぁ、ピッカピカに綺麗にしてあげるわ」


 まずい!キョーカさんが入ってくる。

 小さいトールはともかく、キョーカさんの裸を見るわけにはいかん。

 スキップだ!シーンをスキップしてくれ。


 ザザザ……ザザザザザー


【シーンがスキップした】


 あぶねぇ、ギリギリセーフだった。


「なぁ、トオルは他に友達いないのか?」


「いるよ、ほらここに。いつも一緒にいるんだぁ」


「これ、トオルの……いや、確かに友達だな」


 他に人影は見えないが、地面を見ながら何の話をしているんだ。


「じゃあ、もっとリアルに設定をつけてやらないとな」


「リア?私の友達になにすゆの?」


「リアル!そいつがどんな奴か、ちゃんと知ってあげないと可哀想だろ。どんな友達なんだ?」


「うーんとね、私と同じ女の子!」


「じゃあ髪が長くて、積極的な年上の女の子だ」


「何で髪が長くて年上?」


「何でって、長いほうが好きなんだよ。お姉さんって感じするだろ?」


「えー、そうなんだ…じゃあ、私も伸ばす!」


 本当に何の話してんだ?


 ザザザ……ザザザザザー


 あぁ、またかよ。


【シーンがスキップした】


「ボボボ……ボボボ…ボボボボボボ」


「うん、ねがいごとは叶ったよ。友達いっぱい増えたんだ」


 このボソボソ声、バグゼクスか?

 人の形ではなく、らめいた何かと話すトール。

 これが奴の本来の姿なのか。


「トオル!そいつから離れろ!」


 リトルタスクがトールの手を掴み、走って逃げる。


「どぉしたのたっくぅ!あの人は願いを叶えてくれるんだよ?」


「今グランから聞いてきた!あいつは願いを叶えて、トオルを殺す気なんだ!」


「え!?そんな…でも…叶っちゃったし。逃げたら、友達がいなくなっちゃう!」


「友達!?逃げていなくなる友達なんていねーよ!俺を信じろ!」


 トールを連れて、学区がっく疾走しっそうする。

 目指すは都市の中央にある賢樹か。



 "フォックスオードリー 賢樹"


わらべよ、異端の娘を連れてきてどうする。その子は、世界のために消える存在。この世界にあるものは、決して神の決めた王道に背くことはできない」


 グランから残酷な言葉が告げられる。

 神ってのは奴が言ってた創造主のことか。

 グリモワールはバグゼクスへの対抗策じゃなかったのか。


「そんな王道があるもんか!弱きを助け、強大な敵に立ち向かうのが王道だろう!だったら、こっちにも考えがあるぞ!」


 学習帳を取り出し、何かを書き殴りはじめるリトルタスク。

 何て純粋で熱い少年の瞳。

 俺は何でこのピュアな心を失ったんだろう…大人になってしまったんだろう。


「書けた!オホン…頼む賢者よ!あなたの力を貸してはくれまいか?そして、いたいけな少女の命を救ってほしい!…勇者は一生懸命にお願いし、ついに賢者は少女を助ける決意をするのだった」


「なんじゃと!?世界の王道をしまおうてか!この発想力はっそうりょくはいったい…」


 ドドーン!ズドーン!


 賢樹が揺れる、このけたたましい音はなんだ。

 学術都市を見下ろすと、いくつもの大きな火の玉が建物を破壊していくのが見える。


「バカな…どこかの火山と次元を繋げたのか。今までバグゼクスが、こんな動きをしたことはない。何が起こっていると言うのじゃ」


「賢者は、この都市を守っているんじゃないのか?トオルはここで生まれて、ここで育ってきたんだぞ!」


 燃えていくフォックスオードリーを見て、グランの表情がくもる。

 やがて、何かを決意したかのように、ブラフマンを取り出した。


「フッ…これも運命か。勇者殿の頼みとあらば、断るわけにはいきませぬな!ルーンの真髄しんずいを、お見せしよう!」


 賢樹の壁にルーンを描くグラン。


六道次元りくどうじげんを操る力は神のスキル。神の使いであるバグゼクスも、神の力を借りて次元跳躍じげんちょうやくを行うのだ。これに対抗するには、最上級の古代言語。神のルーン『アンスール』しかない!」


「よし!行くとするか!!」


 次元を跳躍する神のルーン、これならバグゼクスを逃がすことなく追い詰めることが出来る。


 ザザザ……ザザザザザー


【シーンがスキップした】


「ボボボ…ボボボボ…」


「攻撃を仕掛ける隙もない。やはり、神には勝てぬのか…」


 相対するグランとバグゼクス。

 フォックスオードリーは火の海、戦いは劣勢れっせいのようだ

 いやスキップし過ぎだ!いつの間にかバグゼクスは人型になってるし。


「にゃろう!トオルには指一本さわらせねーぞ!衝撃のルーン、ウルズ!!」


「ボボ?…ボッボボボボ!!」


 リトルタスクが鉛筆を振ったところで、何も起こらない。

 逆にバグゼクスの放った衝撃波で、壁に叩きつけられてしまう。


「ゲホッ…トオル、逃げろ…」


 絶体絶命、ここからどうやって勝てるっていうんだ。


「たっくぅ……う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああん!!」


 耳をつんざくような叫び。

 トールの声にバグゼクスの動きが止まる。


「なんという魔力…いや、表現力ひょうげんりょくと言うべきか。これが世界を変えてしまう異端の力。勝負を賭けるならここじゃ!あかきルーンよ舞い上がれ、千本紅葉せんぼんもみじ!」


 グランがブラフマンを振るうと、そこら中の落ち葉が舞い上がり、バグゼクスの動きを封じる。

 俺のワイズマンと同じ発想、元祖がんそというべきか。


「奴の魔力を三つに分割し、アンスールで無理やり器にブチ込む!童、腰のポーチに『魔封まふうじの玉』が二つ入っておる。それを取り出すのじゃ!」


「うぇー!玉が二つはシャレにならないんだけど」


「四の五の言わずに、両手に持ってかかげるのじゃ!」


 ポーチから取り出した玉を、リトルタスクが掲げた瞬間。


「ボッボボボッボ…ボッボ!」


 パリィーーーン!!


 バグゼクスから放たれた攻撃によって、二つとも破壊されてしまう。


「あぁ!?わしの玉がぁーー!!」


 粉々に砕け散った二つの玉。


「壊れちまった…どうするんだこれ?」


「どうもならんわい、わしらの負けじゃ。封印の器が壊れてしもうた」


「あんな割れやすいものを使うからだろ!代わりの物を使え!代わりの物を!」


「あるわけなかろう!ありゃ神器級のアイテムじゃぞ!」


 現場げんば只今ただいま、非常にカオスな状況になっております。

 口喧嘩してる場合じゃない。

 確か、バグゼクスが封印されていたものは。


「無いなら作るまでだ!ここまでの話は全て書きつづった!最後の一文は『怪物は本に封印され、女の子の危機は去ったのでした。めでたしめでたし』だ!」


「ヌウゥ……発想力で常識をじ曲げるのか。あの少女は、とんでもないものを呼び出したのかもしれん。こうなりゃヤケクソ!封印式の一、魔力を本に!」


 バグゼクスの一部が、ノートへと吸い込まれていく。


「封印式のニ、実体をブラフマンに!」


 今度はブラフマンの中へと封じられていく。


「しかし残念じゃ。最後に奴の意思を封じる器がない……」


「いや、ある…俺だ!俺の体に封印してしまえ!」


「バカを言うな!いくらなんでも無茶じゃ!」


「もう結末を書いちまったんだ!ここでトオルを救えないなんて話があるか!勇者なんてホラ吹いた手前、カッコつけないわけにはいかないんだよ!」


「童…いや、もう童とは呼べぬか。封印式の三、意思をタスクの肉体に!」


「あ、やっぱちょっと怖い…チキショウ!ドンとこいやぁーー!!」


「ボボボボボ!ボォーーーーーー!!」


 最後の抵抗を見せるバグゼクス。

 それを抑え込むグラン。


「あと一息じゃ!そぉれ、アンスール最大出力!」


「うおぉぉぉぉぉぉ!!」


 残った部分も、リトルタスクの体へと吸い込まれていく。


【バグゼクスは封印された】

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