50. Heart and Soul 後編
"学術都市 フォックスオードリー"
世界に
全てが終わる前に、バグゼクスへの対抗策を見つけなければ。
「タスク、グリモワールを探すのだ。その娘を救ってやれ」
「アスモダイ…やっぱり、他に手は無いのか?あんただって、この世界の命の一つだろう!」
アスモダイは少しだけ
命をかける覚悟は出来ているというのか。
「おいおい!待ちやがれドラゴン!」
騒ぎを聞きつけて、人々が集まってくる。
先頭を切って
「やいドラゴン!お前がカンニングを止めたせいで、難しい勉強をする羽目になったんだ!更には
「ヴァイル、出来の悪い教え子だが、別れとなれば
「勝手に教えて、勝手に消えるなんて、どれほど身勝手なんだ!まだテストで成果も出していないんだぞ!ダイ先生には、教えてほしいことが山ほど……」
「短い間だったが、最低限の知識は詰め込んだ。お前はもう、どこででも立派に生きていくだけの力がある。これからは、胸を張って前を向け」
アスモダイの体が少しずつ崩れていく。
肉体を捨て、霊体を解放しているのか。
中からは、ドラゴンを
「自信を持て。正しい道を行け。
「だ……ダイぜぇんぜぇー!」
感動的な別れのシーン。
俺たちは完全に置いてけぼりを食らっている。
この二人にも、
「さて、あまり時間をかけてもいられまい。
アスモダイの霊体から、オーラが噴き上がる。
その姿は、
「やはり…霊体は実世界では安定しないな。すまないが、
声に余裕がない。
最強のドラゴンであっても、このスキルは難しいのか。
「謝らないでください!あなたは学術都市の守り神。それが今や私の娘を救うために命まで…我らも力を合わせましょうぞ!」
声を上げたのはトールの父親、そして教職ジョブの人々。
「フフ…利口な者どもか。だがドラゴンのスキルは、ニンゲンのキャパシティで、どうこう出来るものではない。下がっていろ」
「退けませぬな!あなたが霊体を維持する助けは、理論的には出来るはずなのです。教職ジョブが総出で精神構造をアナライズし、こちらでスピリチュアル演算を行えば…あるいは」
「ほう、人数を集めて思考の並列回路を組み、霊体維持のコントロールをそちらで行う。そんな手があったか。これならば、私はスキルに専念できる」
「カオスの定理を代入してウンタラカンタラ。ゾディアックランゲージを接続してアータラコータラ」
「ふむ、一理ある。まさかニンゲンにそこまで理解している者がいるとは。ならばコーリングヴェーダをピーチクパーチク。ドラゴン曲線における反復関数系がシュラシュシュシュ。そこからビーフウェリントンをスターゲイジーパイに…」
頭の良い人が専門用語で盛り上がっちゃってるよ。
待って!最後のほう料理名じゃなかったか?
こんなこと言ったらアレだけど、
「精霊の力を科学的に理解してエネルギーに変換する!教授スキル『エレメンタルコントロール』」
「いいぞ、霊体が安定している。やはりニンゲンの成長とは目覚ましいものがあるな。
嬉しそうなアスモダイに対し、ベンを始めとする教職連中の顔に余裕がない。
早いとこグリモワールを見つけないと、ベン達がもたないかも。
「頼むぞタスク。全てはお前に
しれっとプレッシャーかけてくるじゃん。
人との交流を通して、だいぶ性格が変わったんじゃなかろうか。
人を愛し、愛されるドラゴンか。
それは黒い太陽へと飛び立ち、空一面を覆いつくしていく。
気付けば、いつもと変わらない、フォックスオードリーの夕暮れが広がっていた。
【世界の危機が、一時的に過ぎ去った】
ここから先は時間との勝負。
バグゼクスへの対抗策を見つけなければ、世界もトールも救うことはできない。
「うっし!気合入った!グリモワール、見つけ出してやんぜ!」
「今から探すの?もう日が沈んじゃうよ?どこにあるか、心当たりでもあるの?」
「心当たりは無い。でも、ちょっと特殊なアテがあってな」
「じゃあ私も行く。フォックスオードリーなら、どこでも案内できるよ」
手を引き、探索に向かおうとするトールを
「これ、ワーカーライセンスじゃない?なんでこれを私に?」
「持っててくれ、俺の全財産が入ってる。グリモワールは俺が必ず見つけてくる。だからトール達は、ここでアスモダイをサポートする教職連中の世話を頼む」
ベンを含む教職ジョブの面々は、今にも頭の血管が切れそうな表情でスキルを維持している。
さすがにこれを放っておくわけにはいかない。
「でも、なんでライセンスを?これがないと何もできないよ?」
「確信があるわけじゃないけど、お金が余計なんだ。いいから持ってろ、俺を信じろ」
頭に
さぁ行くか、あいつを探さないことには、話が始まらない。
【グリモワールの探索を開始した】
"フォックスオードリー 賢樹"
よっこらどっこい!都市の中央に高々とそびえ立つ賢樹を登る。
トールの昔からの遊び場、イグ樹に匹敵する大きさの大樹だ。
巨大な枝が足場を作り、展望台のように学術都市を見渡すことができる。
「ひぃひぃ、トールは子供の頃からこれに登ってんだよな。猿の遺伝子でも入ってんじゃないか?」
幹に寄りかかり、呼吸を整える。
トールの基礎体力の高さは、この賢樹の上り下りで鍛えられた
ひゅうーーーーー!!
冷たい風が吹き、葉を揺らしていく。
さて、俺の思惑通り、あいつは現れてくれますやら。
「ここにゃ誰もいないし、俺は無一文だ!出てきてもらえないか?」
真っ直ぐ賢樹の方を向き、無人の枝葉に呼びかける。
本来ここは、都市の人間は近づかないとトールは言っていた。
それでも俺には、何となく予感のようなものがあったのだ。
ガサガサガサガサ!!
「おやタスク殿、まだ生きていたんだねぇ。ヒェッヒェ、オマイサンの方から、ワシを見つけに来るとは、込み入った事情がありそうじゃないか」
呼びかけた場所とは別方向から、モゾモゾと這い出る人物。
シワシワ顔をフードから覗かせ、ニヤニヤと楽しそうにからかってくる。
チクショウ!誰も見てないからいいけど、ちょっとカッコ悪い。
「良かった、本当に会えるなんて、俺の運もまだまだ捨てたもんじゃない。力を貸してくれないか、シモン」
【占い師のシモンが現れた】
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