49. Shadow of despair 後編

 パーティーメンバー全員集合。

 更にリアとアスモダイまで参戦。

 矢でも鉄砲でも持ってこいってんだ。


「おおっしゃ!これで流れは完全にこっちだ!さぁ、やるとするか!」


 トールの命がかかっている以上、手段を選んでいる場合じゃない。

 総力戦のボスバトル、ちょっと卑怯だが数で勝負だ。


たばになってかかれば倒せるってか?オレをナメてもらっちゃ困るぜ!」


 バグゼクスの姿が異次元へと吸い込まれる。


「気をつけろ、奴は次元を渡って瞬間移動してくるぞ」


 さすが物知りアスモダイ、この推察すいさつは的中する。

 再び奴が姿を現した場所は、大胆にもこちらのド真ん中。


「わかっていても無駄なことだ!オレの出現する場所が特定できなければ…ムギャ!!」


「ひゃあ!?」


 異次元から飛び出してきたバグゼクス。

 だが、勢いがつきすぎて、トールの胸に顔から激突してしまった。

 声優、驚異の胸部装甲!威力は絶大…なのだろうか。


「しまった!トールを狙うあまり、目測もくそくあやまったか!」


「もう!わざとじゃ無いでしょうね!?」


 慌ててバグゼクスを突き飛ばすトール。


「あんまタスクと変わんねーな!セクハラ野郎が!ぶっ飛ばしてやるぞ!チョララァ!」


 う、何か俺が言われてるみたいで胸が痛い。


 シュシュン!シュン!


 パンチを瞬間移動でかわしていくバグゼクス。

 現れては消え、また現れては消えるという厄介な技。

 プラリネの背後から現れ、猛然もうぜんと襲いかかる


「お前は…女しか狙わないのか…タスクの…嫌らしさだけが…形になったような奴だ…」


 ギュイイイィィィイイィィン!


「くそ!コンビネーションは完璧ってか」


 ハーディアスがドリルで襲撃を阻止。

 瞬間移動で距離を取るバグゼクス。

 俺はというと、まだ何もしてないけど、既に精神的ダメージが酷い。


「だったら、これならどうよ?」


 瞬間移動、奴が現れたのは俺の目の前だった。

 胸ぐらをつかまれ、そのまま一緒に異次元空間へとダイブ。

 元の場所に戻った時、バグゼクスの手には偽物のブラフマンが。


「「やばい!これじゃどっちが本物か見分けがつかない!…は!?」」


 セリフまでしっかりコピーされてしまった。

 どうにか…どうにか俺が本物だと伝えなければ。


「いいこと思いついちゃった!そぉりゃ!!」


 ズバァーーーーン!!!!


「ヘブバババッ!!」


 ヒラリとひるがえるスカート、スラリと細い足。

 その健脚けんきゃくは、目の前で華麗かれいな曲線を描く。

 トールの強烈なハイキックが、見事に顔面に炸裂したのだった。


「イッデデ!何でオレが分かるんだよ!チキショー!」


 見事にバグゼクスの方を蹴り倒していた。

 良く見分けがついたもんだ。

 やはり、トールに偽装は通じないのか。


「タスクなら、蹴っちゃってもいいかなって思って。結果的に当たり引けて良かったね」


「良かったね、じゃねぇよ!でもまぁ、俺達に姑息こそくな手は通用しないってことだ!ハッキリ言って弱いぜ!」


 これなら、今まで戦ってきた相手のほうが手強てごわかった。

 何度も困難を乗り越えてきた俺達の敵じゃない。

 正直な話、拍子抜けだぜ。


「くそ!偶然力に振り回されているのか?それとも、ニンゲンに封印されていたから、力の制御が完全じゃないのか」


「おい!もう尻尾しっぽを巻いて、時空の果てに帰りやがれ!これ以上トールをストーカーするなら、一斉攻撃を食らうことになる」


 完全包囲、チェックメイトだ。

 全員、攻撃の照準をバグゼクスへと向ける。

 少しでも抵抗すれば、容赦なくスキルを叩き込ませていただく。



大誤算だいごさんだ…認めよう、お前達は強い。正面からやり合うのは、諦めたほうが良さそうだ」


 偽ブラフマンと、あのノートを捨て、両手を上げるバグゼクス。

 どうやら観念したようだな。


「やり方を変えるとしよう。トールを排除するかどうかは………お前達で決めるが良い!」


 パチン!!


 右手の指を、頭上で弾いて鳴らす。

 何かを仕掛けた?いい度胸じゃねぇか。

 バグゼクスにスキルを叩き込むべく、全員が一斉に動き出す。


「うわっとと!?」 「っ!!…」


 プラリネが踏み出した瞬間、偶然にも落ちていた石につまずいてしまった。

 なんとかハーディアスが支え、転倒は防げたが。


 がっちん!!


「「いっだぁ!!」」


 一方、俺とトールにも偶然が襲いかかる。

 同時に同じ方向に走り出したため、頭と頭が激突。

 お互い、地面にへたり込む。


 必ず起こる偶然?仕組まれた不運?

 バターが塗られた食パンを落とすと、必ず塗られた方から着地してしまうような気分の悪さ。


「何か様子がおかしい。タスク、油断するな」


 アスモダイが冷静に状況を観察している。

 既にバグゼクスは異次元へと姿を消したようだ。


「なんだ?何をしたんだ、バグゼクス!」


 急に辺りが暗くなりはじめる。

 まだ日没までには、時間があるはずだ。

 いったい、何が起こっているんだ。


「なぁに、ズレていた世界の法則をバーストしてやっただけさ。オマエを中心に、世界中で起こっている偶然は、どんどん加速していく。この『混沌の太陽シャドウオブインフィニティ』がある限りな」


 バグゼクスの声だけが響き渡る。

 見上げると空から、太陽が黒い光を放っている。

 寒気がするほど不気味な光景だ。


「混沌の太陽は偶然力を増幅させ、世界中にそれをまき散らす。地震や雷、悪魔の活性化。そして最後には大地に衝突し、生きとし生けるもの全てを燃やし尽くす」


 おいおいおい、シャレにならんぞ。

 あの黒い太陽を落として、無差別大量殺戮するつもりかよ。

 この世界の、どこにも逃げ場が無い。


「七日だ、混沌の太陽が完成するまで七日やろう。オマエ達に残された道は二つ。七日の間、天変地異てんぺんちいに苦しみながら、最後の時を迎えるか。または、トールの命を差し出し、世界に平穏を取り戻すかだ。一か全、好きな方を選ぶがいい」


 俺の偶然を引き起こす力を利用して、バグゼクスが作り出した黒い太陽。

 突きつけられた、残酷な選択肢。

 今の俺には、空を見上げることしか出来なかった。


【世界の法則が激しく乱れていく】

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