49. Shadow of despair 前編

偽物にせもの』とは、本物を真似まねて作られた物のこと。

 偽造ぎぞう・コピー・海賊版かいぞくばん・フェイク・影武者など、呼び方や目的は様々である。

 ネガティブなイメージが強いが、技術の向上のため、本物を手本に模造もぞうをする場合もある。

 しかし……


◇◆◇◆◇◆



 復活したバグゼクスによって、俺とアスモダイは異次元に閉じ込められてしまった。

 奴は既に外へと移動、フォックスオードリーを疾走しっそうしはじめている。

 身動きの取れない状況で、次元獣の魔の手がトールに忍び寄る。


「まずいぞアスモダイ!このままじゃトールが!」


「落ち着け、あせってもどうにもならんぞ。しかし、この空間は強固すぎる。余程のエネルギーを一気に放出し、力の薄い部分を貫ければ…あるいは」


 ドラゴンのパワーを持ってしても、突破することの出来ない空間。

 次元が違いすぎて、俺の出る幕がない。

 くそ!ここで見ていることしか出来ないのか。



"学術都市 フォックスオードリー"


 奴の視界が、トールの姿をとらえた。

 俺の姿のままで接触してしまったら、トールは疑うことも無く消されてしまう。

 一歩、また一歩と、奴が迫っていく。


『トール!無事だったか?ここは危ない、すぐに逃げるぞ!』


 異次元空間に、外の会話が聞こえてくる。

 遂にバグゼクスがトールに声をかけてしまった。

 俺が聞いてもソックリだ、奴の擬態ぎたいは完璧だってのか。


『図書館から、正体不明のモンスターが現れて暴れている。さぁ、オレと一緒に来るんだ!』


 バシッ!


 なんだ?トールがバグゼクスの手を払い除けた。

 普段、俺に見せたことのない、警戒の眼差しを向けている。


『それっぽく喋ってるけど、言葉の端々はしばしに知性を感じる。あなた誰?タスクじゃないね』


 ひっでぇ!俺の喋りにゃ知性が感じられないってのか。

 トールは変なところで感が良い。

 そういえば、前にMAOの変装も一発で見破っていた。


『お、おい…オレは…タスク』


『全然違うよ!声も雰囲気も全部違う。教えて、タスクはどこ?そんな格好してるってことは、タスクに何か起こってるんでしょ!』


 カラーン……カラカラ。


 バグゼクスの手から、ブラフマンが落ちる。


好機こうきだタスク!バグゼクスの力が弱まった。脱出するぞ」


 何が起こった?奴が動揺しているのか。

 いや、考えている暇は無い。


「最大出力の全力ドラゴンブレスだ。吹き飛ばされんよう、しっかり踏ん張れ。次元の狭間はざまに取り残されると、ニンゲンの寿命では出られんぞ」


 アスモダイの着ている衣服が燃え上がり、竜人の姿へと変化する。

 俺と戦った時に見せた、本気モードの形態。

 とんでもない力をビリビリ感じやがる。


 キュイーーーーン!キュイーーン!キュインキュイン……ズバババババババ!!


 なんちゅう極太のビームなんだ。

 溜めに溜めたエネルギーが、一気に放出された。

 真っ白な空間を、凄まじい威力のブレスが焼き切っていく。


 パリィーン!!


幽閉する次元プリズンディメンションが崩れ去った】


 バグゼクスの作り出した空間からの脱出。

 見えていた映像の場所と繋がっていたようだ。

 すぐさまブラフマンを拾い上げ、トールの側へと駆け寄る。


「でかしたトール!よく偽物に気付いたな?」


「何?どういうこと?もう何がなんだか」


「話はあとだ!スクリプトを構えろ!あいつが敵だ!」


 これで魔法を駆使して戦える。

 俺達の戦闘は、常に連携が基本だ。

 何よりアスモダイがいるという絶対的な安心感。


「人を馬鹿にしやがって!合わせろトール、アスモダイ!小説家スキル『疾筆しっぴつ』」


「うん!結構久しぶり、ファイヤーボール!!」


「ケホ、のどを火傷した。ブレスは無理だが、魔力増幅をかけてやろう」


 もはや定番のコンビネーション。

 小説家と声優の合体魔法、更にドラゴンのブーストが乗る。

 火球はその形を、炎の竜へと変化させた。


 ギャオォォォォン!!!!


「おいおいおい!そんな大技食らってたまるかよ!死んじまうっての」


 喋り方が俺そのものなので、すごくやりにくい。

 だが、モノマネもここまでだ。

 うねる炎龍は、完全にバグゼクスへ直撃コースだ。


「なーんてな!一つくらい異次元を壊したからって、調子に乗るなよ?オレの力はこんなもんじゃねぇ!」


 奴が右手を振ると、何もない空間を叩き割り、ぽっかりと穴を出現させた。

 俺とアスモダイを閉じ込めた次元技か?

 魔法はみるみる、そこに飲み込まれていく。


「炎は異次元にご案内。そして、もう一度こっちの次元に繋げると、どうなると思う?」


 バグゼクスは開いた穴を閉じる。

 今度は反対の手で、同じことをやりはじめた。

 やっべぇ!そうなると当然の如く…


 ギャオォォォォン!!!!


「あぁ!やっぱり!渾身こんしんの合体技が返ってきやがった!」


「わわわわわ!強化されてるから、メチャクチャ強そうだよ!」


 バトルにおいて、一番カッコ悪いやられ方、それが自滅。

 強力な攻撃は、それだけ跳ね返された時のリスクが高い。

 炎の竜は、大口を開けて、こちらへと襲いかかってくる。


「スキル『ガナッシュゲイザー』チョララララ!!」


「…スキル『エアータービン』…」


 バシュ!バシュ!バシュ!


 間一髪のところで、炎は鎮火する。

 駆け付けたプラリネとハーディアスが、スキルで炎を搔き消したのだ。

 今日の俺には、どうやら幸運の女神がついてるらしい。


「タスク君!パーティーメンバーを呼んできたわ!」


 心配したリアが、仲間を呼んできてくれたようだ。

 グッジョブ!俺にとっての女神様、最高のアシストだぜ。


「オマエ、また厄介なことに巻き込まれてんのか!」


「うちのリーダーは…騒ぎを起こさないと…気が済まないようだ…」


【パーティーメンバーが集結した】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る