48. Get out of here 前編

次元じげん』とは、空間の広がりを表す指標しひょうのこと。

 難しい理論はさておき、現実世界が三次元、アニメなどが二次元という認識で良いだろう。

 さる大泥棒の相棒の腕利きガンマンのことではない。

 しかし…


◇◆◇◆◇◆



"黄金山 山頂"


 時空の果てから、世界を正すために現れる謎の存在。

 変革の申し子の願いを叶え、そしてその命を奪う。

 バグゼクスの狙いはトールだってのか。


「いや......いや、違う!トールと出会ってから、もう半年ぐらい経つんだぞ!あいつが標的のはずがない!」


「私も少々驚いている。死んだと思っていた娘が、大人の姿で私の前に現れたのだからな。一驚いっきょうっさずにはおれん」


「何の話をしている?それじゃまるで、トールは子供の頃に...」


「14年前、あの娘に初めて出会った時、既にバグゼクスの気配を宿やどしていた。生きているはずがない。あの後、奴の気配は消えたのだから」


 バグゼクスは目的を果たし、時空の果てに帰っていった?


「いやいや、トールは生きてるし、俺が召喚されたタイミングとも合わない。言ってること無茶苦茶だぞ?」


「お前の時空レコードに、フォックスオードリーの痕跡こんせきが残っている。おそらく、この世界に来たのは、これが二度目だということだ」


 どういうことだ?この世界に来るのが二度目?

 話がどんどん怪しい方向に向かっている。


「じゃあ14年前のフォックスオードリーに、俺は一度召喚されてたってのか?」


「お前のレコードは、不自然にバラついていて見えにくいが、そういうことだ」


 自分の記憶に自信が無くなってきた。

 いくら子供の頃の出来事とはいえ、異世界に召喚されたことを忘れるものだろうか。


「いったいトールは、何を願ったんだろう......」


「あの娘が持つ、けた外れの表現力は留まることを知らない。秀でた才能は誇るべきだが、あまりに強い力は、他者を遠ざけるものだ。ドラゴンである私がそうであるように、あの娘も孤独を背負っていたのだろう」


 人は同じレベルの人としか付き合えない、ってやつか。

 魔法をあやつり、悪魔を憑依ひょういさせ、大飯を食らう。

 表現力の怪物が、本当に欲しかったのは。


「友達を......望んでいた」


「私には理解できない。だがお前は、あの娘と多くの困難を乗り越えてきたのだろう。その答えが最も正解に近いのではないか?」


 願いが叶い、バグゼクスは消えた。

 トールの命を奪うことなく。

 疑問は残るが、そこだけは良かったと思える。


「今、問題なのはお前のほうだ。偶然を引き起こす力の範囲が広がっている。このままでは全土で混乱が多発することになる。何か身の回りで、変わった事はなかったか?」


「変わったことって言っても、変なことばっかし起こる世界だし。うーん......あ!そういえば、俺が昔使ってたノートを見つけたんだ」


「こちらの世界に、有り得ない物を見つけたと?」


「あぁ、それに触った時、何かこう...気持ち悪くなったな。頭の中に、でかい音が聞こえたような」


「ふぅむ、原因はそれかもしれんな。調べてみる必要が......」


 キュピィーーーーン!!


「むぅ!この気配は!?」


 何かに感づき、アスモダイの顔色が変わった。

 感知した音まで聞こえたような気がしたけど。


「いかん、フォックスオードリーにモンスターが出現したようだ。急いで戻るぞ!乗れ!」


 突然、アスモダイは巨竜きょりゅうの姿になり、羽を広げた。


「お、おい!下山は徒歩でするんじゃないのかよ?」


「都市が襲撃されているのに何を言っている。時と場合を考えろ」


 あんたのその優先順位よ。

 学術都市を育て上げた張本人だから、当然と言えば当然なんだが。

 急かされるまま、アスモダイの背中に乗せられ、もの凄いスピードで空を駆ける。


【学術都市へマッハで帰還した】



 "学術都市フォックスオードリー"


「物書きキサマ!どの面さげて、ここにいる!お前のせいで、どれほど苦労していると」


 到着するなり鉢合わせたのは、トールの先輩で落第候補のヴァイルだった。

 めんどくさいのに捕まっちまった。


「よぉヴァイル。その、なんだ...勉強ははかどってるか?腹減ってるなら、飯でもおごるぞ」


「いらんわ!お前がドラゴンを倒したもんだから、こっちはしなくていい勉強を無理やりやらされてるんだぞ!」


 久しぶりにあったってのに、ギャイギャイうるさいなぁ。


「ヴァイル、状況を簡潔かんけつに報告しろ。どこで何が起きている?」


「ダイ先生!?はい、図書館から正体不明のモンスターが湧き出ておりまして」


 ヴァイルも勉強を教わってるだけあって、アスモダイには礼儀正しい。


「お前は近隣住民の避難ひなんを手助けしろ。できるな?」


「はい!直ちに!」


 回れ右して、駆け出していくヴァイル。

 あんなに嫌な奴だったのに、よっぽど厳しい指導でも受けたんだろうか。


「図書館だ。急ぐぞ」



 "アルバテル図書館"


 あらゆる書物をおさめる知識の泉、それが学術都市の図書館だ。

 古の魔道書だの、禁じられた錬金術れんきんじゅつの書などが眠っている......らしい。

 中で勉強していた学生達が、モンスターの出現でパニック気味に逃げ出している。


「タスク君!来てくれたのね!」


「リア!何でここに?」


「フォックスオードリーの歴史を調べていたのだけれど、急にあのノートが光りはじめて...モンスターが」


 俺が書いた創作童話のことか。

 見れば図書館からは、巨大なミミズ型のモンスターが、群れをなしてい出してきている。


「バグズワーム。異次元空間より現れる、バグゼクスの手足のような存在だ。やはり、厄介な事が起こっているようだ」


 説明するアスモダイから緊張が伝わる。

 とりあえず、リアを安全な場所に非難させなければ。


「何であのノートから......タスク君、どうしよう」


 今にも泣き出しそうなリア。

 ノートを探しに、図書館の中に乗り込むとか言い出しそうだ。


「心配するな、俺が何とかする!衝撃しょうげきのルーン『ウルズ』」


 バグズワームに向かって、衝撃波を一撃、二擊、三擊。

 ウネウネと動くミミズどもが、派手に弾け飛ぶ。


「行くぞアスモダイ!援護するから、あんたが先陣を切ってくれ!」


「承知した!バグズワームの発生源を止めなくては」


 勇んで乗り込む建物の中。

 当然、俺の強気には理由がある。


 ずばぁーん!ずばぁーん!ズババババ!


 アスモダイはピッケルを片手に、モンスターをバッタバッタと薙ぎ倒す。

 そう、最強の生物たるドラゴンがついているのだ。

 後ろにいるだけで、負ける気がしない。


「教えてやろう。これが、アルピニストスキル『竜双砕氷斧ダブルトマホォク』」


「よーし!強くて結構だが、技の名前は気をつけろよ?分かる人にしか分からんが、お前ドラゴンだし」


 ピッケルを二刀流にして、襲いくるバグズワームを一網打尽いちもうだじん

 敵に回すのは二度とごめんだが、味方となると、これほど頼もしい戦力はいない。


「こんなもんか。次元獣じげんじゅうなんて大袈裟おおげさな名前の割には、たいしたことないな?」


 俺はほとんど何もしてないけど。


「見つけたぞ。バグズワームはあの書物から発生しているようだ」


 アスモダイの指差す先。

 バグズワームの這い出す中心地。

 そこには光を放ちながら、宙に浮くノートが。


「ちくしょう!やっぱり俺のノートが原因なのかよ!」


【タスクの学習帳を発見した】

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