47. Missing link 後編

"黄金山 山頂"


 アスモダイに誘われて、急に登山をすることに。

 トールも一緒に行きたいとグズったが、アスモダイが良い顔をしなかったので置いてきた。


「ヒィ...ヒィ...やっと登りきった。人生で同じ山に二度も登ることになるなんて」


「同じ?よく見ろ。この景色は前と同じものか?」


 前に来た時は梅雨時つゆどきで、山は青々としていた。

 今回は秋、眼前に広がる光景は、黄色く染まっている。

 黄金山とは良く言ったものだ、見渡す限りの黄金色こがねいろ


「秋の山って風情があるよな。ここに立っているだけで、心が晴れ晴れとしてくるようだ」


「そうだろう、この姿を見ずして黄金山を語ることは出来ない。今回は何事もなく登れたな」


 あの時は死にかけたっけ。

 この世界での経験が、確実に俺をレベルアップさせている。

 言うて、登山家になるわけじゃないんだが。


「それで、こんなとこまで引っ張り出して何の用だ?まさか一緒に登山がしたかったとは言わないよな」


「登山が好きだと言ったではないか。この山の最高の状態を見せてやりたかったのだ」


 おいおい、本当に俺と登山がしたかっただけかよ。

 確かに登山が楽しいとは言ったけど。


「というのが半分。もう半分は、お前に話しておきたい事があるのだ」


「半分は本気で登山だったのか。リターンマッチって言うんなら断るぞ?この先、何回やったってドラゴンに勝てるはずないからな」


 あれこれ小細工した上でギリギリの勝利だったし。


「今、各地で異常が発生している事は知っているな?」


「あん?政治家の連中が大忙しのアレか」


「そうだ、モンスターの活性化かっせいかや自然災害、悪魔まで出現するという事態になっている」


 けっこう大事おおごとになっているのだろうか。

 おかげで俺達は、タイラーから追いかけられることは無くなったが。


「教えてやろう。あれは、お前が原因だ」


「おい!バカ言うなよ!何で俺が関係あるんだよ?」


 言い掛かりもいいとこだ。

 俺のせいでモンスターやら悪魔やらが、各地をフラついてるってのか。


「お前は......この世界のニンゲンではないな?」


「う!何を!?何の話だよ。俺は別に...」


「初めて会った時から違和感はあった。再び会って、それは更に増している。お前は、この世界のニンゲンとは違う雰囲気がある」


 とうとう異世界人であることがバレてしまった。

 いや、バレて何か困ることもないんだが。


「勘違いするな。異世界からの召喚は、それほど珍しいことではない。はるか昔から、度々たびたびそういったニンゲンは存在している。最近は落ち着いているが、ここ千年ほどで見れば激増げきぞうしていた」


 千年単位の話をされても、こっちの寿命はせいぜい百年なんだが。

 異世界召喚、今のところ俺以外の異世界人には会ったことはない。


「それで、何で各地で起こる混乱が俺のせいなんだ?」


「ふむ、順を追って教えてやろう。まず、この世界の言語が、昔とは変化している話を覚えているか?」


「ああ、ルーンを使える人間がいなくなって、今の言語が使われるようになったんだろ」


「そうだ、あれは異世界人が使っていた言語だ。ルーンは難読なんどくであり才能を必要とする。こちらのニンゲンでさえ扱えない者も多かった。そして異世界人が増える度に、ルーンは使われなくなっていった」


 なぜ異世界で日本語なんだ?って思っていたが、これで合点がてんがいった。

 こっちに来た日本人が広めていったんだ。


「異世界人の流入はやがて、ニンゲンの文化そのものを変えてしまう。剣や魔法で戦う時代は終焉しゅうえんを迎え、役割に特化したジョブが繁栄はんえいしはじめる。誰でも社会に必要とされる職業に就ける時代、すなわち『ジョブ革命』の到来だ」


 本当は剣と魔法のファンタジーなのに、異世界人の影響でバグってしまったのか。

 モンスターのほうは、これに合わせて進化していったのかもしれない。


「しかし、大きく変化を続けると、時空に負荷がかかりゆがむ。世界が本来あるべき姿を失った時、時空の果てからそれはやってくる。次元獣じげんじゅうとでも呼ぶべき深層しんそうの王、純粋なる混沌こんとん。その名を『バグゼクス』という」


 くっ!話が難しくなってきたぜ。

 ラスボスっぽい名前まで出てきた。


「変わりゆく世界には、やがてその影響を色濃く受けた者が生まれる。バグゼクスはそこに現れ願いを叶えてやるのだ」


「なんだそりゃ?ランプの魔人みたいなものか」


「そして七日後に、その者を世界から取り除く。これで変化する世界に歯止めを掛け、正常な世界へと戻していく。それがバグゼクスの役割だ」


 世の中そんなにうまい話は無いよな。

 ランプの魔人から一転、これじゃ死神だ。

 願い事が叶っても、死んじゃったら意味がない。


「本来は膨大な魔力を持ったアイテムや、儀式を用いて異世界召喚は行われる。だがお前は、バグゼクスの力で無理やり召喚されたのだろう」


「無理やり召喚されると、どうなるんだ?」


「魂には『いつ』『どこで』『何をしている』という情報を持った『時空レコード』が紐付けられている。異世界召喚の際には、このレコードを書き換える必要があるのだ。だがお前は、そのままのレコードでこちらに来てしまった。この情報が世界にハレーションし、トラフィックオーバーを起こしてしまった。結果、セフィロトとクリフォトのバランスが崩壊し、シックザールに影響していると言える。ニンゲンから見ればプロバティオ・ディアボリカとも...」


「おいおいおい!おいったらオイ!一人で盛り上がってるとこ悪いが、何を言ってるかチンプンカンプンだ!わかる言葉で言え!」


 いるんだよなぁ、専門用語を連発して話を固める奴。

 俺のこと、学者か何かに見えるんかよ。


「ふむ、お前を中心に世界の法則がズレているということだ。例えば、バスタブ一杯に湯を張り、お前がその中に入ったらどうなる?」


「お湯があふれる?」


「その通り、異物が入ることで溢れた湯のように、世界は氾濫はんらんをはじめる。今まで一度も疑問に思った事はなかったか?お前の周りでは、本来ならあり得ない事が、当たり前に頻発ひんぱつしていたはずだ。最近になってそれが、全土に波及はきゅうするほど規模を増している」


 微妙に例えがわかりにくい上に異物扱いかよ。

 つまり、俺を中心に偶然が起こり続けてるってことか。

 思い返せばに落ちる点はいくつもある。


 思い付きで成功してしまった魔法。

 滅多に遭遇することのない悪魔や幻獣との戦い。

 負ける要素ゼロのオークやゴブリンにボコボコにされたのも、もしかしたらこれが原因なのだろうか。


「これでは最強の生物たるドラゴンが負けるのもうなづけるところだ。本来ならば有り得ない結果だが、偶然ならば仕方がない」


「はいはい、ドラゴン強い強い。ありゃ俺のまぐれ勝ちだよ」


 ドラゴンのくせに悔しがりぃだな。

 そんな根に持たなくたっていいのに。


「ん?しかし何でバグゼクスは俺をこの世界に召喚したんだ?世界を正常に戻すために、変化を色濃く受けた者ってのを消すんじゃないのか?」


「バグゼクスの意思で召喚されたのではないだろうな。おそらくは......」


「おい待てよ......何となくわかってきたぞ。バグゼクスは、まず願いを叶えるんだったな。てことは、俺は誰かの願いで召喚された?」


 でも、こっちに知り合いなんていない。

 誰が何を思って俺の召喚を願うというんだ。

 バグゼクス、謎は深まるばかりだ。


「お前がこの世界に来ることを望んだ者、混乱と混沌をはらんで生まれた変革へんかくの申し子。その者の名を教えてやろう」


「待て...待てよ!それを聞いてしまったら......」


 もう、普通の日常には戻れなくなるんじゃないのか。


「フォックスオードリーに生まれし異端児。常識を超えた表現力を持つ声優。あの娘、トールと言ったか」


 あぁ...なんてこった。


【物語はシリアスパートへと突入していく】

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