27. Are you excited? 後編

"ワーカーギルド 会議室"


 実行委員に選ばれたのは嬉しいが、夏祭りまでは一ヶ月を切っている。

 準備期間が短すぎるんじゃなかろうか。

 だが、泣き言は言ってられない、係員と話を詰めていく。


「夏祭りの開催期間は三日間。一日目は歌自慢大会を予定しております。また、ゲストを呼んで、他の街からの集客を狙うのが、毎年の恒例となっています」


 カラオケ大会と、ゲストによるコンサートがメインか。

 客のつかみは一日目にかかっている。


「二日目は街をり歩くパレード、三日目は......本来なら色とりどりの花火を打ち上げるのですが、事情があって、もう何年も行われていません」


「おいおい、祭りのフィナーレは花火と決まってんだよ?花火が上がらない祭りなんて、ラストダンジョンにボスが居ないようなもんだぞ」


「こればっかりは、ジョブ『花火師はなびし』の方がいませんので、どうにもならないかと」


 なんてこった、肝心の職人が不在ときた。

 花火が無いと、祭りの締めくくりには寂しい。

 何か手を考える必要があるな。


「タスクさんには、歌自慢大会のゲストを探してほしいのです。正直、カラーズのお祭りは、年々マンネリ化しておりまして、集客に苦労しておりまして」


 知名度のあるゲストを呼んで、客を引こうって寸法だな。

 人気があって歌が上手い奴か...ううむ。


「わかった!それについては、気は進まないが心当たりがある。ところで、屋台なんかはどうするんだ?」


「今のところ、街のクレープ屋が出店する予定です。あとは備蓄してあるホッケとか、適当に飲食店から手軽な物を提供していただいて...」


「甘いな!塩と間違えて、砂糖をブチこんだトールの料理ほど甘い!」


 この発言に、係員は目を丸くして驚いている。

 だが、祭りと言うなら、ここは譲れない。


「夏は発汗はっかんする季節だ。客が求めるのは塩分の濃いもの、そして冷たい物だ。故に!『たこ焼き』『焼きそば』『串焼き』『かき氷』は不可欠!遊び心を考えるなら『りんごあめ』や『綿菓子わたがし』もな。これは酒の売上も伸びるぞ。ピスコに手配させよう」


 先日、タコの仕入れ先を確保したばかりだから、たこ焼きが作れる。

 食材はこちらで用意できる物もあるし、あとはレシピを覚えさせれば誰でも作れるはずだ。

 独創性を出していけば、カラーズの新しい名物になるかもしれない。


「タスク!キツネうどんのお店も出せないかな?」


「いいかもしれないな。案外、ああいう素朴そぼくな味に人気が出るかもしれない」


 同意すると、トールは小さくガッツポーズ。

 ずいぶんと気に入ったもんだな。


「しかしその...かき氷と言うのは。夏ですので氷の調達が困難かと」


 そうだった、異世界に冷凍庫なんてあるわけないし。

 ううむ、しかし...かき氷は必ず人気が出る。

 原価も安いし、絶対に外せない一品だ。


「ププププッププー!話は聞かせてもらったよー。そういう事なら、ぼくに任せてくれない?」


 会議室に突然の乱入者。

 やや小太りで、動物の絵柄のついたシャツを着てニッコニコしている。


「こちらはジョブ『コメディアン』のジョセフ・リトルウッドさんです。でも、ジョセフさんに氷を作る能力なんて...」


【コメディアンが現れた】


「へっへーん、そこは出来る男のジョセフさん。ぼくちゃんにかかれば、アブラカタブラのホイッで氷が出来ちゃうんだよねー。ちょーっとウォーミングアップするから待っててねー。オークの真似、フゴォフゴォ!駅長の真似、発車ぁ!オーライぃぃ!」


 なんとも調子良くしゃべる男は、七色の声を使い分け、モンスターや他のワーカーのモノマネを始めた。

 上手い、上手いけど、なぁんだこいつぅー。

 あ、犬の鳴き声は可愛いな。


「タスク、なんだか凄い人が出てきたね。これだと私の立場が無くなりそう」


 声優もビックリの声色使いだ。

 次から次へと変化する声に、一同驚愕きょうがく

 でも、こんなので氷なんて出来るわけが...


「ホホホイのホーイ!ほんじゃ本気でいくからねー。しっかり見ててチョウダイよー。ここに水の入ったグラスがあるざんしょ?これをアッという間に氷に変えてみせるからねー。とくとご覧あれぃ!タネも仕掛けも刺激的!」


 手に持ったグラスを真剣に見つめるジョセフ。

 何かドラムロールが聞こえてきそうな展開だな。


「デデン!スキル『コールドジョーク』氷なんてもうコオリゴリってねー。でも美味しいかき氷が、二杯作れたらニッコオリ、なんつってー」


 カッキーーーン!!


 場が凍りつくほどの、寒いダジャレをかましやがった。

 部屋の温度が、一気に極寒ごっかんへと振り切る。

 見ればグラスの水は、見事に凍りついていた。


「すごいな、このスキルで氷を量産すれば、かき氷の屋台は問題無さそうだ」


「正直、スベってるワケだから、ぼくのダメージがデカイんだけどねー。まぁ報酬は、ぼくにお笑いステージを提供するってことでー」


 カラオケ用のステージで、一席もうけてしまおう。

 ちゃんとウケるネタもあるんだろうな。


「このスキルさ、聞いてくれる人がいないと発動しないからねー。誰か一人は付き添いを付けてね?」


 地獄の製氷ルームへご案内。

 いつもクールな、ハーディアスにでも頼んでおこう。


【氷を製造できるようになった】

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