28. Appearances are deceptive 前編

『噂』とは、事実とは異なるおそれのある、不確かな情報のこと。

 人の噂をする時は、当人が現れるという噂もあるので注意が必要。

 また、人の噂は75日で消滅するという噂もある。

 しかし......


◇◆◇◆◇◆



「タスクは優しくて、カッコ良くて、頼れるリーダーだよね」


「おいおい、急に誉め殺しかよ。なんだか照れるな」


「事実を言ったまでだよ。いつも本当にありがとね」


「そうか、ようやく俺の魅力に気付いてくれたのか。なんだかくすぐったいな......いや待て、違うな。そんなこと絶対に言うはずが無い。トール、いったい何やらかしたんだ?」


 こんな何でもないタイミングで、無駄に気持ちの良い言葉が出るなんて違和感しかない。

 まず間違いなく、何か理由がある。


「そんな、私はただ......はぁ、何でわかったんだろう」


 やっぱりな、このタスク様は、何でもお見通しなんだぜ。


「実はね、タスクのフンドシを洗濯してたら......破れちゃって」


「なぁーにぃー!やってもうたなぁ!」


「ごめんなさい!ご飯奢るから許して!」


 締めるだけで勇気が湧いてくる、お祭り男の正装『修羅しゅらふんどし』が破れた。

 そんな...これじゃ夏祭りで目立てない。


「残念だが、破れたなら仕方ないさ。そもそも、あの褌は生地が極薄ごくうすだったから、色々な意味で危なかったんだ」


「許された?お祭り好きなタスクの事だから、鬼の形相ぎょうそうで怒るかと思ってたよ」


 裸体らたいさらすストロングスタイルは、お祭り男の真骨頂しんこっちょう

 なんて思ってたんだが、よくよく考えるとフランキーとキャラかぶりなんだよな。


「フフフ、夏祭りの衣装は、別に用意してあるんだぜ!そぉりゃー!!」


「アーーーレーーーー!って、いつの間にか着替えさせられてる?」


 ゲームなんかじゃ、装備の変更は一瞬だ。

 何が起こったのかは、考えちゃいけない。


「花柄で可愛い服だね。落ち着いた感じで、祭りの夜に雰囲気ピッタリ」


「『浴衣ゆかた』っていう装備だ。俺のいた世界で、祭りの時に着る装束のレプリカだな。ピスコに『ファッションデザイナー』を紹介してもらったから、無理言って作ってもらったんだ。ちなみに、俺が着てるのは『甚兵衛じんべえ』な」


 祭り好きという理由だけで、何故か着付けを叩き込まれた事がある。

 おかげで浴衣に対する造詣ぞうけいが深まり、細部に至るまで、オリジナルと遜色そんしょくない一品を再現出来た。


「皆がこれを着て、夏祭りを楽しめるように量産中だ。制作費で全財産を使い果たしたが、人気が出れば数倍の儲けが出るに違いない」


「全財産!?タスクはいつも、アッチアチのアドベンチャーしてるね」


 この事業が上手くいけば、成り上がりも夢じゃない。


「つーわけでメシをおごってくれ。ありがとう感謝してる」


「え、許してくれたんじゃなかったの!?」



"めしどころ 菜夢さいむ"


「マスター、ミックスフライおかわり!」


「私は、お肉盛りモリプレート下さい」


「あいよ...良く食うね、見てて気持ちが良いよ」


 最近、すっかりお気に入りになっている定食屋。

 高級なものは無いが、安くて美味しい庶民の味方だ。


「お待ち...ミックスフライと肉盛り」


 あまり愛想あいその無い店主だが、それがまた店の雰囲気と合っている。

 なんでも、色んな街を転々とし、様々なジョブに転職しながら、料理人になってカラーズに流れ着くという、変わった経歴の持ち主だ。


「今のうちに食っとけよ?夏祭り期間に入ったら、忙しくてゆっくりメシを食う暇も無いかもしれない」


「あんまり無理しちゃダメだからね?タスクは何でも出来ると思って、すぐ調子に乗るんだから」


 うっせぇなぁ、保護者じゃあるまいし。



 カラカラカラカラ


「小せぇ店だな、邪魔するぜー」


 ガラの悪いのが3人ばかし、店の戸を開けて入ってくる。

 邪魔するなら帰れ、と言いたい所だが、何だかホンマモンっぽい。

 下手に挑発しないほうが良さそうだ。


「なんだい...メシを食いに来た、って面じゃないね?」


「親父、この店によ、夏祭りの実行委員が来てるって聞いたぜ。隠しだてすると、ためにゃらんぜ」


「知らないね...客じゃないなら、帰んなよ」


 よりによって、探してるのって俺かよ。

 ガラの悪い連中は、キョロキョロと辺りを見回し始め、ついには目が合う。


「おめぇがそうぜ?実行委員さんよぉ」


 バレたか。

 何でこう、俺は変なのにからまれることが多いのだろう。


「俺が夏祭り実行委員だ!何か文句があるなら聞こうじゃないか」


「大有りぜバカヤロウ!夏祭りで、いくつも屋台を出すそうじゃねぇか。届けが出てねぇって親切に教えてるぜ?」


「届け?街にはきちんと届けを出している。何の問題も無いはずだ」


 山盛りの書類を全て提出し、営業許可も出ている。

 れは無かったはずだ。


「そりゃ表の話ぜ!ここら辺はな、俺ら『シルベスタファミリー』が仕切ってんぜ?組織に黙って、勝手にもうけちゃなんねぇぜ。当然、みかじめ料を払ってもらうぜ」


 イカついんだか可愛いんだか、良くわからない組織が出てきたぞ。

 みかじめ料って、今の俺はスッカラカンだぞ。


 バシャッ!!


「うちはメシ屋だ。注文しねぇなら帰ってくれ!それとも...ここで三枚に下ろしてやろうか?」


 ついに怒った店主が、ファミリーに水をぶっかける。

 後ろ手に包丁を隠し持ち、するどい目で威嚇いかく

 今にも切りかかりそうなすごみを見せている。


「モギュモギュ...ねぇタスク、ミックスフライいらないなら貰うよ?」


「何でこの状況で食ってられるのかね、まったくもう...」


 こいつ、食事中は他の事が気にならないのか。


「ちょっと待てぜ!お前今、タスクって言ったぜ?」


「え?うん、小説家のタスク。私のパーティーのリーダーだよ」


 バラすなバラすな、リーダーって言ったって雑用係みたいなもんだぞ。


「てことは、この小さいのが『暴飲暴食グラトニー』のトールで、あんたが『災いの種火』タスクなのぜ!?」


 おいおい、一度も聞いたこと無いわ。


「最近、政都せいとの方にも名が知れた、噂のルーキーぜ!いわく、生きとし生ける者の敵だとか、ドラゴンでさえ目を反らすとか、主食が悪魔とか」


 なにそれひどい...身に覚えが無さすぎる。

 政都なんて行ったこともないのに。

 噂の広まり方が雑すぎだろ。


「き...今日のところは引き上げてやるぜ。お願いだから、呪いとか掛けるのは勘弁ぜ。あばよっ!」


【シルベスタファミリーは逃げ出した】


「暴飲暴食だってさ、失礼しちゃうよね。いつも八分目で抑えてるのに」


 トールの噂は、あながち間違ってはいないかも。

 しかし迷惑な連中だったぜ、戸ぐらい閉めていけ......あれ?


「トール、悪い!ちょっと行ってくる!」


 通りを歩く人の中に、見覚えのある姿。

 ここの支払いはトールに任せて、店を飛び出した。


「ちょっとタスク!もう!......デザートも一緒に食べたかったのに」


「お待ち...こいつは店からのサービスだ」


「パンケーキだ!やったー」


【後編へ続く】

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