24. FlameBird 後編

"アッチャッチャ火山 隠しダンジョン"


 温泉から上がり、探索を再開する。

 湯上がりにフルーツ牛乳が欲しい所だが、今は出口を探さなければ。

 トールの足も、まだ痛むようだし。


「ねぇタスク、魔法でダンジョンに風穴かざあな空けちゃえば早いんじゃないかな?」


「おいおい、いつからそんな過激な発想するようになったんだ?そもそも、ダンジョンに穴空ける魔法なんて無いぞ」


「でもハンマーって名前付いてるじゃない。だってハンマーだよ?壊すイメージ全開だよ?」


 確かにハンマーだけども、まぁそれでここから抜けれるならいいか。

 スクリプトに魔法を書き込み、トールの詠唱が始まる。


「行くよ!ストライク トール ハンマァァァ!!」


「............どうした?トチったのか?」


「あれ、おかしいな。完璧だったはずなのに」


「魔法が出ないんじゃしょうがない。地道に出口を探せってことかもしれないな」


 ダンジョン内では魔法が発生しないのだろうか。

 スキルは使えてるのに。

 首をかしげるトールに肩を貸し、先を進んでいると広いフロアに出た。


 火口が近いのか、かなり熱い。

 溶岩がドロドロと流れて川を作っている。

 そして中央の台座に鎮座ちんざしていたモノは。


「ゲェー!こ、これは!?」


 巨大なタマゴであった。

 サイズからして、そこらの鳥のタマゴではない。

 間違いなく、モンスターのものだろう。


「もしかしたら重要な文化財になるかもしれん。いいかトール、物音を立てずに、このフロアは通過しよう。わかったな?」


「へ...へ...へぇっくち!!!!」


 あぁ...もう......バカァん。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!


「何だ?何の音だ?揺れが強くなってくぞ」


「わ、私のせいじゃないよ?小さなくしゃみだもん」


 ドッパーーーーン!!


 ダンジョンの壁を割って、勢いよく吹き出たのは温泉だった。

 これが謎のタマゴに直撃、台座から転がり落ちていく。


「これは事故だ!俺達のせいじゃ...トールのくしゃみのせいだから俺は無罪だ」


「ちょっと!私のせいにしないでよ!タスクの声のが大きかった!」


 罪のなすり合いをしていると、台座から落ちたタマゴがピクピクと動き出した。

 こいつ、動くのか。

 表面に亀裂きれつが入り、タマゴは割れていく。


「キュエーーーーーーーィ!!」


 中から現れたのは、鮮やかな朱色しゅいろ羽毛うもうまとう、ほのおのごとき巨鳥。

 もしかしたら、こっちに来てから一番まともな外見のモンスターかもしれない。


「タスク!どうするの?足も痛いし魔法も出ないし、勝ち目が無いよ?」


「わわわわかってる。大丈夫だ、ゆっくり...ゆっくりとこの部屋を出よう」


「キュイ?」


 モンスターと目が合った。

 終わりだ、このまま喰われるに違いない。

 こんな危険なクエスト回してくるペトルゥを呪ってやる。


「キュエーーーーーーーィ!」


「うぉ!あぶねぇ崩れる!」


 モンスターは天井を突き破り、そのまま飛び去ってしまった。

 穴の空いた天井からは、青空が見えている。


「しめた!ここから脱出するぞ!騎乗きじょうのルーン『ライゾー』」


 タマゴが乗っていた台座にルーンを刻み、乗り物としての機能を与える。


「急ぐぞトール!俺におぶされ!」


「う、うん!でも本当に大丈夫なの?」


 半信半疑はんしんはんぎのトールを背負う......ん?んん?


「トール...あの、あのな...言いにくいんだが」


「何? ゴメンね、やっぱり重い...かな」


「いや、重くはないんだが、一点において攻撃力が尖っているというか...背中に当たっているというか......」


 ていに言えば胸がでかい。


「お、おい!腕...腕がキマってる!息出来ない息出来ない!ギブギブギブ」


 危うく意識が飛び立つところだった。

 変なこと考えずに、脱出することだけ考えよう。


「これだけ熱いフロアだ。上から冷たい空気が降りてくれば、熱い空気は上に昇るはず。浮遊ふゆうのルーン『ソウェル』」


 ルーンをきざまれた台座が宙に浮く。

 浮遊した台座で上昇気流を受ければ、ルーン以上の力で飛び上がれるはずだ。


「来るぞ!しっかり掴まってろ!」


 しがみつくトールの手に力が入る。

 首筋に、冷たい空気を感じた瞬間、台座は上昇を始めた。


「いいぞ!てか、結構な勢いだな。ちゃんと制御せいぎょしないと石の壁にぶつかってオシャカだ」


 台座は騎乗のルーンで思うままにあやつることができる。

 せまってくる壁を右へ左へとかわし、出口へと飛び込んでいく。

 まるでスクロールアクションゲームだ。


「いよっしゃ!脱出成功だ。トール、もう大丈夫だぞ!」


「あはは!これはスリリングで楽しいかも」


 なかなかに、きもわっていらっしゃる。

 空中をスノーボードのような動きで滑空かっくうしながら無事着地。


「おーい!キミたちー!」


 駆けつけたのは顔を真っ青にしたペトルゥだ。

 プラリネとハーディアスも一緒だった。


「無事だったかい?いやぁ、あんな隠し扉があるなんて、さすがに我輩もヒヤッとしたぞ」


「心配かけたな。ところで、何でみんなしてボロボロな格好してんだ?モンスターにでも遭遇そうぐうしたのか?」


「それが聞いてくれよ!オマエらを助けるために、いったん外に出て救助を呼ぼうとしたんだよ。そしたら雷が落ちてきたんだ!」


 プラリネ...みんな...ごめん...それは間違いなく俺らのせいだ。


「それはそうと、飛び去ったモンスターはどこに行ったんだ?」


「モンスター?.........ミャアアアアア!!」


「キュエーーーーーーーィ!」


 このタイミングでモンスターが飛来、ペトルゥが絶叫ぜっきょうする。


「こここ、こいつは!上位悪魔の中でも超希少種ちょうきしょうしゅ『フェネクス』じゃないか!!」


「すげぇ、ついにまともなモンスターに会えたのか」


「感動しとる場合かぁ!悪魔だぞア・ク・マ!キミ達は試験の度に悪魔連れてくるな?我輩に何か恨みでもあるのかい?」


 悪魔って言われても、つぶらなひとみの鳥だしなぁ。

 色もあざやかで悪魔感が無さすぎ。


「とにかく!こいつを何とかしたらクエストは合格!我輩の権限で特別報酬も出そう」


「うぇ?簡単なクエストとか言ってたくせに難易度上げんのかよ!」


 まぁ、俺達が目覚めさせたようなものだし、ほっとくわけにもいかないが。


「タスク......ねぇタスクってば」


「どした?今あれをどうにかするための作戦をだな」


「あのね......その、ゴニョゴニョ」


「うん...うんうん......唐揚からあげが食べたい?」


「何で言っちゃうかな!恥ずかしいから小声で話したんでしょ!」


 さっきからトールのお腹がグゥグゥ鳴っている。

 フェネクス見たら腹が減ったというわけか。


「それなら......食材が必要だな...」


「ちょうど目の前に、活きの良いのがいるじゃんか!」


「これならいっぱい作れるね。街の皆にもお裾分けしよっか」


「おー待て待て、食うんならちゃんと処理をせんといかんぞ。料理のことなら俺に任せてもらいたいな」


【パーティーメンバーの視線がフェネクスに集中した】


「キミ達.........悪魔が人の皮かぶってるんじゃないの?」


「キュ......キュン!」


 身の危険を感じたのか、フェネクスは自身の姿を小鳥に変え、羽根一本残して飛び去ってしまった。


【フェネクスは逃げだした】


「うーん、羽根だけじゃ唐揚げは無理だね。残念だけど食べるのは諦めよっか」


「悪魔も逃げ出す悪食声優あくじきせいゆうって感じだな」


 そういえばあいつ、産まれたばっかりだった。

 バグついた世界に負けず、力強く生きてもらいたいものだ。


【パーティーに『デモンズイーター』の異名がついた】


 その後、筆記試験も無事に合格。


「あっぶねぇ、俺だけギリギリだった」


 晴れて昇級クエストを達成するのだった


【中級ワーカーにランクアップした】

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