25. Super Sonic Summer 前編

『水着回』とは、水辺で展開されるお話の中で、キャラクターがその状況に応じた服装『水着』を着用する回のこと。

 海水浴など、バカンスが主題となる、明るいお話が多いのが特徴。

 水着は、基本的に肌の露出ろしゅつが多く、防御力が低い装備なので、戦闘には向かない。

 しかし、水の中では重い装備をつけるとしずむため、水中戦においては水着に軍配ぐんばいが上がる。

 しかし......


◇◆◇◆◇◆



 バシャバシャバシャ。


「ぷはっ!」


 バシャバシャバシャ。


「ぷはっ!」


「その調子だよタスク。だいぶ上手くなってる」


 トールに手を引かれながら、バタ足と息継いきつぎの練習。

 現在俺は、ジムの地下にあるプールで、泳ぎの特訓を受けている。

 スイムウェアの貸し出しまである、実に豪華な施設である。


「泳げないって言うからカナヅチなのかと思ったけど、飲み込みは早いほうじゃないかな。基本はちゃんと出来てるよ」


「そりゃどうも。今まで泳ぐこと自体が無かったからな。プールや海には、どうも抵抗があったし」


 何となく、カップルが行く場所だと避けてきた過去がある。

 バイトに明け暮れていた俺には、縁の無いお話だったのだ。


「よーし、じゃあ絶対に溺れない、究極の泳ぎを教えてあげるよ」


「おぉ!豪快ごうかいに水面を飛ぶと噂の『バタフライ』のことか!」


 パチャパチャパチャパチャ。


「これが『犬かき』だよ!顔を水につけないから息継ぎの必要も無いの。永遠に泳ぎ続けることができるよ!」


 うん、前から思ってたけど...トールって行動が犬だよな。


「何ふたりで泳いでんだ!アタシも混ぜろー!」


 バッシャーーーーン!!


 勢い良くプラリネが飛び込んだことで、水柱が上がった。

 水中で鼻に水が入ると、苦しさのあまり大パニックになるよね。


「ガボボガバババブボボボブベホ!!」


【タスクは派手に溺れてしまった】



"ビフレス島"


「さぁ、着いたぞ。ここがクエスト地『ビフレス島』だ」


「サンキューなオッチャン、いつも悪いな」


 オッチャン・マーテルデは、カラーズで漁師りょうしをやってる海のおとこだ。

 ちなみに息子の名前は、ボッチャン・マーテルデ。


「いいかい、この辺はレッドオーシャンとブルーオーシャンの境目なんだ。未確認のモンスターがいるかもしれんから、気をつけんだぞ」


「レッドとブルー?海の色のことか?」


「レッドオーシャンは人が調査を終えて安全な海域、主に漁場になっとる。ブルーオーシャンは、まだ手付かずの海域のことで、何がひそんでいるかわからんってことだ」


 何かビジネス用語みたいだなぁ。

 今回のクエストは島でのサバイバル。

 島の調査のついでに、生活ができる環境かどうかを検証しろってことらしい。


「なーに心配はいらんさ。綺麗な川も流れてるしな。明後日には迎えに来てやるから、ちゃんと生き抜くんだぞ」


 俺にとっちゃ、異世界生活がサバイバルみたいなもんだ。

 まぁ、なんとかなるだろ


【無人島サバイバルクエストが始まった】


 サバイバルとは言え、実はこのクエスト...


「良い波がきてるな......楽しめそうだ......」


 ウェットスーツに身を包んだハーディアスが、サーフボードを持参しての登場。

 そう、このクエスト、サバイバル中は何をしててもいいので、完全にバカンスなのだ。

 中級試験に合格した慰労旅行いろうりょこうと言ってもいい。


「天気も良いし最高だなー!しかも島まるごと貸し切り!」


 プラリネの水着はスポーティーなセパレートタイプだ。

 上はタンクトップ、下はデニムの短パン。

 だが機能性だけではなく、紫柄で大人っぽさも出している。

 ハーディアスと選んだのだろうか。


「ちょっと恥ずかしいかな。あんまりジロジロ見ちゃダメだよ?」


 燦々さんさんと輝く太陽に照らされた、純白のビキニはトールだ。

 腰をおおう長めのパレオに異国情緒いこくじょうちょを感じる。

 胸元にもフリルをあしらい、健康的なトールのボディにピッタリとマッチしている。


 ゴミ一つ落ちていないビーチに、美男美女が咲き乱れる。

 どの層の人が見ても魅了みりょうされるラインナップ......だがな!!


「このお話は文字作品だ!どんなに美しさを書きつづったところで、誰一人として、その水着姿を目に焼きつけることは出来ないんだぜ!残念!!」


「タスク?いったい誰と話してるの?」


「夏の太陽に...やられたのか...」


「バカなことやってないで泳ぐぞー!」


 では俺も、修羅しゅらふんどしめるとするか。


「そう!なると!思ったよ!タスクの海パンは用意してきたから早く着替えてきなよ」


 褌を奪われ、海パンを渡され、尻を叩かれる三段ツッコミ。

 変なとこで、勘の良い奴め。


常夏とこなつの無人島バカンスが始まった】


「ショコラティエスキル『チョコモノリス』」


 プラリネは、スキルで巨大な板チョコを作り、ボートとして遊びはじめた。

 水に浮くチョコ、中に空気でも入れてるんだろうか。


「この暑さでよく溶けないな」


「へっへーん!ショコラティエの固有アビリティ『テンパリング』で温度は自由に調整できるのさ!」


「あまり調子に乗って......溺れるなよ......」


 ハーディアスは、自前のサーフボードでサーフィンを楽しむようだ。


「タスクはまだ泳ぎの経験が少ないから、深いとこに行っちゃダメだよ?この辺の浅瀬あさせであそぼっか」


「なんかみじめな気分だな。まぁ溺れたくはないし。食らえ!トール!」


 腹いせに海水をトールの顔面に浴びせかける。


「つめた!しょっぱー!もう、やったねタスク!容赦しないよ?」


 意地になっての水のかけあい。

 これはこれで楽しいかもしれない。


「そういえばタスク、サバイバルってご飯も作らないとだよね。大丈夫なの?」


「食事のことだけは気が回るんだな。一応、いくらか食料は持ってきてるが、基本は現地調達げんちちょうたつだ。と、いうわけで」


【釣りをすることにした】


「私も釣るの!?」


「トールが一番食うだろが!いっぱい釣れば、それだけ食い物が増えるぞ」


 食い物が増える、この言葉だけで腹ぺこ声優は、目の色を変えて釣りに勤しむ。

 これがまた、そこそこ釣れるから面白い。


「タスク、釣った魚の大きさで勝負しようよ!」


「勝負事とけまして、小魚相手にデカイ釣り針ときます」


「んん?その心は?」


「張り合ってます。針合ってます?......なんつって」


「..................」


 さむーい、って顔でこっち見んじゃねぇよ。

 このなぞかけは、異世界の住人には難しすぎたか。

 そろそろ夕暮れ、この辺で切り上げるとするか。


「わわわ!急に竿が引っ張られる!」


「おいおい、いかにもウケを狙ったような動きはやめとけって」


「ほ、ホントにすごい引きがきてるんだよ!」


 見ればトールの竿は大きくしなっている。

 こいつは本当に大物かかったようだ。


「ダメ!持っていかれちゃう!」


 咄嗟とっさにトールを抱き寄せるも、グイグイと引っ張られていく。

 このままだと、仲良く海にドボンだ。


「もういい!竿から手を放せ!引きずり込まれるぞ!」


 握っていた竿を手放すと、二人して勢い良く尻餅しりもちをついてしまった。


「イテテ、大丈夫かトール?」


「うん、危ないとこだった。ありがとね」


「そこそこ魚は釣れたし、戻って晩飯の準備にしようぜ」


「そだね......でも、本当に何だったんだろう?何か変なものが、海面に見えたような気がしたけど」


 気のせい...では無いのだろう。

 あれだけの力を持った未知の怪物が、海の底からこっちを見ているのかもしれない。


【夕焼けにまる海から、謎の生物の気配けはいを感じる】

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