21. Let's dress up 後編

"フランキーのジム"


 調子こいてリベンジに行ったはいいが、コテンパンにされてしまった。

 ドラゴンには勝てたのに...相性の問題だろうか。

 我ながら情けない結果だ。


「うぅー、この状況は、何か納得いかないんだけど...」


「アタシも!」


 何で女性陣は、不服そうにブーたれてんだ。

 ダメージを負った俺は、膝枕に横たわり、手当てをしてもらう。

 膝枕、抜群の安心感。


「そういうのって、普通は私の役割じゃない?いや、したいわけじゃないよ。でもさ、お約束の展開ってあるじゃない」


「本来なら、そこはアタシのポジションなのに...ズルい」


「やかましいぞ!イテテ...こっちは殴られて歯が折れてんだ。お口の治療はハーディアスじゃろがい。声優やショコラティエには治療できないだろ」


 膝枕は当然、歯科医師のハーディアスにしてもらっている。

 二人とも、これが気に入らないらしい。

 治療なんだから、しょうがないじゃないか。


「ヒーリングボイスしてあげようか?」


「チョコ食うか?」


「よし、今お前らに出来ることは、何も無いことがわかった」


 変なとこで張り合おうとすんなっての。

 まぁ、心配してくれるのは悪い気はしないけど。


「タスク...治療を始めるから口を開けろ......本来は『インプラント』が良いのだが...施術に手間がかかるので...『ブリッジ』でやっていこう...」


 ハーディアスの言っていることは、ほとんどわからないが、治療方法のことだろう。


「では...折れた所に隣接する歯を削っていくぞ...健康な歯はあまり削りたくないが...致し方あるまい...」


「え?歯を削るのか?虫歯じゃないのに」


「痛い時は右手を......いや...大人だから我慢できるな?」


 ギュィィィィィイイイン!!


 容赦なく迫り来るドリル。

 真面目パートの反動だろうか、今日の俺はあまりにも扱いが酷い。


【折れた歯の治療が終わった】


 本来なら歯型をとって、技師ぎし義歯ぎしを作成するまで時間がかかる。

 だがそこは異世界、ハーディアスのスキルによって、たった数分で治療は終わった。

 歯の色も同じで、ほぼ元通り。

 ご都合主義万歳!


「もうすぐ中級試験が始まるってのに、こんなクエストも達成できないようじゃ合格は厳しいかもなー」


 プラリネに痛い所を突かれた。

 そういえば、初級の昇級クエストから4ヶ月が経つのか。

 未だに、初戦で戦ったモンスターに、一勝も出来ないって結構へこむな。


「ムァッハッハッ!ギルドから調査依頼が来ているぞ!モンスターの気配がするフィールドを調べてほしいそうだ!」


 外から帰ってきたフランキーに、クエストを叩きつけられた。

 ちょうど良い、バシッと達成して、自信と名誉を取り戻してやる。


【調査クエストを請け負った】



"カーチマター平原"


 ギルドからの依頼で、モンスターを探しに来たものの、見渡す限りの平野で何もいない。


「これだけ見晴らしが良い場所でモンスターがいれば、すぐ気付くと思うんだけどな。どう思う?ハーディアス」


 トールはオヤツに手を出し、プラリネは蝶々を追いかけている。

 ピクニック気分な二人はさておき、ハーディアスは目をらしてフィールドを見渡す。

 さすがはパーティーの保護者担当、お子ちゃま達に流される男ではない。


「地面が不自然に隆起りゅうきしている場所がある......どうやら『モオル』のエリアに入ってしまったようだ......」


 モオル?モグラのことだっけか。

 地下にいるなら姿が見えないのも頷ける。


「モオルだって!?ヤバいじゃん!もっとちゃんと準備しとくんだった!」


 プラリネが慌てるほどのモンスターなのか。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ!ガコーン!!


 突然、目の前の地面が盛り上がり、大きな穴が開いた。

 まるで入ってこい、と言わんばかりに大口を開けている。


「行くぞハーディ!アタシ達が一番乗りだ!」


 プラリネがハーディアスを引っ張り、中に入ってしまった。

 おいおい、罠だったらどうするんだ、というか罠だろ。

 仕方なく二人の後を追う。


迂闊うかつに相手の懐に飛び込むなんて、どうかしてるぞ」


「しょうがないよ、相手はモオルだもの」


「トールは知ってるのか?モオルがどんなモンスターなのか」


 穴の中を進むと、広く明るい場所に出た。

 地下に掘ったとは思えないほどの空間、きらびやかな内装、 いったいここは何なんだ。


「モオルはね、正式名称『ショッピングモオル』地下に膨大な空間を作って様々なお店を構える、超大型商業施設モンスターだよ」


【ショッピングモオルが現れた】


 完全にバグついとるがな。

 サングラスをかけたモグラ達が、店頭で手まねいている。

 異世界でショッピングモールに立ち寄る日が来るとは。

 張り切ってプラリネが先陣を切ったわけだ。


「装備にアイテムはもちろん、フードコートや食料品売り場もあるよ。タスクの服もボロボロになってきたし、この際だから新調しちゃおうよ」


「モグラどもを一掃したら、ここの商品全部いただけるんじゃないか?」


 モンスターなんだし、戦利品ってことで。


「やめておけ...モオルは商業組合と深く繋がっている...ここで暴れようものなら...一生牢獄で臭い飯を食うことになる...」


「オマエって、たまに発想がサイコパスだよな。軽く引いたわ」


 先に乗り込んだ二人が合流して、説教されてしまった。

 俺の考えがズレているのか......自分でもちょっと酷いこと思い付いたなと反省。

 まぁ、激しい戦闘で装備もくたびれてきたし、ちょうど良いか。


「よし!買うとするか!!」


【ショッピング開始!】


 さて、どんな物を買うか。

 どうせなら防御力の高い装備が欲しい。


「おーい!見て見て、これなんかどうだ?」


 試着を終えたプラリネが飛び出してきた。

 その姿は、防御力とは無縁の布面積。

 超絶、際どいビキニ水着であった。


「夏と言えば海だからなー!この水着でまわりを悩殺...ちょ、何だハーディ!引っ張るなバカ!」


「僕が相応な水着を選んでやる...バカな格好で歩き回るな...」


「え?選んでくれるのか......」


 大人しく引っ張られて行ってしまった。

 まんざらでもない感じなのか。


「じゃあ、タスクは私がコーディネートしてげるね。小説家には、どれが似合うかな」


「おい、防御力は選択基準に入って無いのか?」


 一人だけ取り残されてるような気分になってきた。

 あれこれ着回されて買う物が増えていく。

 ショッピングって、こんなに疲れるものなのか。


「私の水着は、タスクに選んでもらおうかな」


「え!?いや......俺に水着のコーディネートは難易度が高いというか...ゴニョゴニョ」


「冗談だよ。アハハ、顔赤くなってるじゃない。水着はもう買ったんだ」


 やられた、純情な男の心をからかいやがって。

 この小悪魔声優め。


「海......行こうね」


「お......おう......泳げないけど」


「そうなの?じゃあ特訓しないとね」


 まんざらでもないか。

 あれ?それにしても、ちょっと買い込みすぎてないか。

 予算オーバーだぞ。


【パーティー全員、マニーが底をついた】


「ここでは......『衝動買い』という状態異常にかかる...物欲を抑えるのは不可能だ...」


「良く分かる解説をありがとう、ハーディアス」


 確かに恐ろしいモンスターだ。

 懐のライフはとっくにゼロ、金銭感覚が麻痺してしまった。


「タスク。はいこれ、あげるね」


「うん?何だこりゃ」


 トールから小さな包みを手渡される。

 開けてみると、中から普通のサイズの万年筆が出てきた。


「まだお礼してなかったから。プレゼントさせてね」


「そんな気を使わなくてもいいのに。大事に使うよ。ありがとな」


 照れくさそうに舌を出しながら笑うトール。

 始まったばかりの夏、面白くなりそうだ。


【調査クエストを達成した】

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