18. Everybody needs somebody 前編

『ボスバトル』とは、物語の節目に出現する、強敵との戦いのこと。

 普通の戦闘よりも難易度が高く、特殊なギミックを用いなければ、攻略できない場合もある。

 うかつに強いボスに手を出して、全滅するパーティも珍しくない。

 しっかりとレベルを上げ、対策をしてから挑むことが重要である。

 しかし......


 ◇◆◇◆◇◆



"黄金山"


 ドラゴンが相手でも、やることは同じ。

 冷静に状況を把握して、戦い方を考える。

 初クエストの際に、監査官のペトルゥが教えてくれたことだ。


「随分と、しぶといニンゲンだ。まだ私に勝てる気でいるのか。どうやら肉体を砕き、魂を消し飛ばさねば、わからぬようだな」


 容赦ないブレスの連発がはじまる。

 すり鉢フィールドを走り、 一発を避ける度に地形が変わっていく。

 これだけは絶対に食らうわけにはいかない。


「ブレスばっか使いやがって!ズルいぞトカゲ野郎!」


「教えてやろう。ドラゴンは高い魔力によって肉体を構築するのだ。その概念はトカゲのような爬虫類よりも、むしろ悪魔のそれに近い」


 どんだけ教えたがりなんだ。

 皮肉にマジレスしてんじゃねぇよ。

 概念そのものに理解が及ばねぇわ。


 ブレスを避けた勢いで、ポーチからアイテムが飛び出した。


「しまった!ギャンボーチョコボールが!」


「先程のブーストアイテムか。相手に利用される危険も考慮すべきだったな」


 チョコボールをキャッチされ、そのまま使用されてしまった。


【アスモダイの性欲が一時的に上昇した】


「これは、性欲だと?」


「ハズレだマヌケ!叡知じゃなくてエッチをつかさどってろ」


 俺は一度経験がある、モンモンとしやがれ。


「教えてやろう、ドラゴンは単体で完結する生物だ。繁殖を前提としない以上、性欲など持ち合わせてはいない」


 甘かった、世の中そう上手くはいかないか。

 再び始まったブレス攻撃に防戦を強いられる。

 やはり最強の生物に弱点は無いのか...いや。


「さっきから遠距離攻撃ばっかしてるが、至近距離でブレスを使えないんだろう?その威力だ、近くで撃って衝撃に巻き込まれるのを恐れてるな。最強のくせに自分のブレスも耐えられないのか。とんだ矛盾生物だ」


「愚かな。自分が遊ばれている事さえ分からないか」


 一瞬で接近を許し、胸ぐらを掴み上げられる。

 ジタバタと抵抗するも、アスモダイは動じない。


「教えてやろう、ドラゴンの肉体はあらゆる攻撃を通さない。それが例え、自分のブレスであろうとな。望み通り、至近距離で消し炭にしてやろう」


 アスモダイがブレスの準備に入っていく。


「なぁ、アイテムを強制的にねじ込まれたことはあるか?俺は2度ある...オラァ!!」


 トール仕込みの、アイテム強制使用。

 開いた口に、残りのギャンボーチョコボールをまとめてブチ込む。

 これには、さすがのアスモダイも、俺への拘束を解く。


「ブレスを撃つ前に、必ず顎の間接を一度組みかえてるよな?隙だらけだったぜ」


「ゲホッ!このために接近戦に誘い込んだのか」


「ホント、素直なあんたが大好きだ」


【アスモダイの全能力が一時的に大幅に低下した】


 ギャンボーチョコボールは、2個以上食べると副作用で能力が低下する。

 ドラゴンであろうと、効果は出ていたのだから、副作用だって出る。

 ようやく、一矢報いることができた。


「これのどこが正々堂々なのか。真面目に戦う気は無いのか」


「大真面目だよ!そっちは最強生物、こっちは普通の小説家だぞ?正々堂々と小細工させてもらったぜ!」


 俺だって、出来ることならカッコ良く必殺してみたいわ。


「ならば、骨も残さず消し去ってくれよう。 このドラゴンブレスでな」


 再びアスモダイが、ブレスの体勢に入る。


「そんなもん、当たってたまるか!......なっ?アチチチ!」


 ブレスの形状が変わった?

 さっきまでとは違い、放射状に爆炎が広がる。

 タイプの違うブレスを撃ち分けれるのか。


 いや、これは違う。

 弱体化したことで力を集束できなくなっているんだ。

 避けにくいけど威力は低い。


「っ!?......ぶぇほっ!ゲホゲホ!」


 突如ブレスは止まり、むせかえるアスモダイ。


「お、おい...大丈夫か?」


「何でもない、喉を...火傷しただけだ」


 大チャンス到来。

 今なら攻撃し放題だ。

 攻撃を......


「ほらよ!それ飲んで落ち着け」


 持参した水筒を放り投げる。

 中身はただの水だ。


「何の真似だ。ほどこしをうけたからといって、私が手を抜くことは無いぞ」


 一口で飲み干され、水筒は空になった。


「そりゃ残念だ。だが、あんたには命を救われてるしな。一回は一回だ、貸し借り無しでやろう」


「いいだろう、もうブレスも使えんが、全力で行くとしよう......かかって来い!!」


 お互いに身を構え、戦闘体制をとる。


「行くぞ!『疾筆』『疾筆』『疾筆』」


 先に仕掛けたのは、もちろん俺だ。

 先手必勝のスキル連射。


「くっ!...グゥゥ!」


 遂にドラゴンに対して、ダメージが入る。

 俺のスキルが通用している。


「教えてやろう、小説家のジョブ補正値は、全ての職業の中でも最低だ。弱体化したとはいえ、ドラゴンが負けることはあり得ない」


 その事実は聞きたくなかった。

 精神的なダメージが痛い。


 スキルを掻い潜り、攻勢に転じるアスモダイ。

 突き、蹴り、掌底打ち、手刀。

 矢継ぎ早に繰り出される攻撃は、的確に防御が甘い箇所を打ち抜いてくる。


「教えてやろう、一切の無駄を排除し、合理的な攻撃のみで構成される、ドラゴン独自の闘法。名付けて『竜合拳りゅうごうけん』」


 まるで、中国拳法のような動き。

 って、バカヤロウ!あんたは、どっちかっていうと西洋ファンタジー系のドラゴンだろうがよ。


「ボカスカ殴りやがって、歯ぁ食いしばれ!『字雷起爆』」


 足元から衝撃が巻き起こり、お互いに吹き飛ぶ。

 俺は地面に擦り付けられるように、アスモダイは中央の石柱へと叩きつけられた。


「へへ...こんなこともあろうかと、仕掛けといたんだ」


「相討ちも辞さないというのか。お前を相手に、接近戦は愚策のようだな」


 石柱を粉々に砕き、空中へと飛翔するアスモダイ。

 翼があるってことは、そりゃ飛びますわな。


「小細工には、もう付き合わない。空中の相手には何も出来まい」


 砕いた石柱の欠片が、空中から投げつけられる。

 まるでショットガンだ。


「イデデデ!その作戦は、俺もやったから文句言えないけど......ズルいぞ!」


 今日は、やたらと石を投げつけられる...何て日だ。

 上から見れば、地べたを這いずるゴキブリみたいに見えてるんだろうか。


「私が地の利を得た以上、この勝負の結果は見えたぞ」


「邪魔はさせねぇ......」


 俺の呟きを警戒したか、アスモダイの手が止まる。


「成績至上主義だの、インテリ嫌味野郎だの、最強生物だの。人の進路を...決意を踏みにじりやがって。いい加減にしやがれ!トールは、自分の力で立派な先生になるんだ!あいつの未来を、誰一人!邪魔はさせない!!」


 もう、体力も限界に近い。

 とっておきで勝負を決めてやる。


「こちらが上、そちらが下。この条件で何が出来る」


 構えろ、もっと強くイメージしろ。

 勝利へのストーリー。


「今度の今度が全力のマックスだ!ペンは剣よりも強し!!」


【ついに戦いはクライマックスへ!】

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