17. Never say never 後編

 遂に姿を現したドラゴン。

 さすがシモンの占いだ、探し物は最初から見つかっていたわけか。


「もっと大きな姿を想像していたよ。これなら踏み潰される心配は無さそうだ」


「巨竜の姿か、教えてやろう。あの形態を維持するには、膨大な魔力を必要とする。さらには本能が先行するため、理性での行動が難しくなる。あれは、アピール程度にしか使うことはない」


 まだそっちの方がマシだったのかも。

 そもそもモンスター全般、バグってる世界だ。

 ドラゴンもネタ系かと期待していたのに、完全にボスキャラが来やがった。


 さあ、目覚めてくれ。

 俺の中に眠る、勇者の力とかアレな能力とか。

 主人公補正ってのがあるもんだろ。


「教えてやろう。これが、ドラゴン最強の威力を誇る『ドラゴンブレス』だ」


 カパッと開いたアスモダイの口腔内に、光が集束していく。


 キュイーーーン......カッ!!


 光がまたたいたと思った瞬間、凄まじいエネルギーが後ろの岩山を貫いた。


「なるほど、これがドラゴンの必殺技ってわけか。そこそこの威力はあるようだな」


 ひぇぇ、おっかねぇ!オーバーキル技だよ。

 ムリムリ、あんなん触れでもしたら即ゲームオーバーじゃん。

 覚醒待ちなんて悠長なことしてられない。


「恐怖を隠しきれていない。虚勢を張るのはやめて、もう逃げ帰ったらどうだ?」


 バレちゃってるよ。

 俺って、そんなに分かりやすいのかね。


「俺を逃がしたら、お前の正体が知れ渡るぞ」


「クエストを放棄して逃げ出す臆病者の話など、いったい誰が聞くと言うのだ。お前は口を閉ざし、怯えながら生きるのだ」


 俺一人に正体がバレたところで、何の問題も無いってことか。

 フォックスオードリーじゃ俺はよそ者だし、ただでさえ学生連中には嫌われている。

 人に愛されたい人生だった。


 よし、確信した。

 俺は物語の主人公でもヒーローでもない、普通の小説家だ。

 もう、都合の良い展開に期待するのはやめよう。


 愛槍ミリオンペンディングを構え、戦闘態勢をとる。


「絶対に逃げん!今日だけは退けない理由がある!」


(逃げないよ!!今日だけは...何もせずに終わらせたり絶対しない!)


 昇級クエストで、トールが言ったことが頭をよぎる。

 あいつの言葉が、今ここにいる俺の勇気だ。


「理解できんな。自ら進んで危険な道を選ぶ。ニンゲンとは無謀な生き物だ」


「無謀か希望かは人による。危険か冒険かは見方による」


 絶好調だ。

 名言風のポエムが飛び出しちまったぜ。


 ポーチに手を伸ばし『ギャンボーチョコボール』をつまみ出す。

 ランダムで能力を上昇させるアイテム。

 プラリネが、出立の際に持たせてくれたものだ。


 気合いを入れろ、覚悟を決めろ。

 もうトールがいなくても、アイテムぐらい使ってみせる。

 五色のうちの一つを、親指で垂直に弾く。


「ラスエリ症候群は、これにて卒業だ!パクッチョ!!」


 落下するチョコボールを、口でお迎えすることに成功。


【タスクの全能力が、一時的に大幅に上昇した】


 大当たり、ラッキーカラーはピンクってな。


「文章力全開!さぁ、暴れるとするか!!」


「自身を強化するブーストアイテムか。だが、ブレスを耐えることなど不可能だ」


 キュイーーーン......カッ!!


 強化された脚力で素早く回避。

 いくら強力なブレスでも、軌道は直線だ。

 発生までの起こりさえ見切ってしまえば、避けるのは難しくない。


 ジグザグに走ることで的を絞らせずに、アスモダイへと接近することができた。

 さらに豪脚を使って、顔面へのジャンプキックが炸裂......ビクともしねぇ。


「硬ってぇな!スーパーロボットかよ!?」


「教えてやろう。ドラゴンは集めた金属を高温で溶かし、長い年月をかけて体の一部としていくのだ」


 最初から肉弾戦は通用しないと思っていた。

 狙いは蹴りじゃない。

 蹴り足でアスモダイの顔を踏み台にし、一気に上空へと跳躍する。


「高所からの攻撃は対応しにくいよな。スキル『連載疾筆』ラァァァッシュ!」


 連続スキルに衝撃を乗せての撃ち下ろし。

 ハーディアスと戦って以降、練習し続けてきた、唯一の攻撃手段だ。

 降り注ぐ文字の雨を、アスモダイは見上げたまま動こうとしない。


 ズガガガガガガガ!!


 直撃!ドラゴンを相手に戦えているぞ。

 着地!奴にダメージはあるのか?


「まさか『ルーン』を使えるとはな。ただの単細胞ではないようだ」


 ルーン?何の話をしてやがる。

 いや、今は畳みかけるべきだ。


「余裕ぶって喋ってる場合か?周りを見てみろよ」


 乱れ撃ちしたスキルの内、外れたものは地面に文字として刻まれている。


「仕掛けさせてもらったぜ!『字雷起爆じらいきばく』」


 設置した文字を、そこから放つスキル。

 複数の文字が同時に衝撃を起こし、湿った地面が土砂を巻き上げる。

 威力増し増しの大サービスだ。


 今さらだけど、やってることは執筆活動に全然関係ない。 

 普通の小説家って、何だろう。


「案外、上手くいくもんだな」


 っ!!?


 突如として、腹部を襲う激痛。


「...ガハッ!!」


 目にも止まらない速さで、接近したアスモダイの膝がめり込んでいた。


「余裕ぶる?余裕そのものだ。教えてやろう、ドラゴンは最強の種族と呼ばれている。ニンゲンがいくら肉体を強化したところで、その差が埋まろうはずもない。」


 外殻に覆われた右手が顔を掴み、地面に叩きつけられる。


 ガガガガガガガガガガッ!!!!


 掴んだまま、すり鉢フィールドを疾走するアスモダイ。

 荒れた大地を掻き分けて進む、まさにラッセル車の如し。

 みるみる内にズタボロにされ、ゴミのように投げ捨てられた。


 ちょっとばかし作戦が上手くいって、油断した隙を見事に突かれた。

 強化が入ってなかったら、完全に死んでる。


 これが......ドラゴン.........


「分かっただろう。ドラゴンを前にしたニンゲンは、絶望を感じることしか出来ないと。酔狂で私に挑んだことを悔いるのだな」


 攻守ともに完璧。

 最強の種族か...言うだけあるわ。

 確かに絶望的なスペック差を感じる。


 でもまぁ...いっさい後悔はしてねぇよ。


「痛ってぇな...おろされる大根の気持ちが良くわかるぜ」


 ミリオンペンディングを支えに、なんとか体を起こす。


「理解できんな。圧倒的な差を教えてやったはずだ。それとも、頭のほうが壊れたか」


「やめとけって言われると、やりたくなる性分なんでね。それに、まともな頭なら、ここにはいない」


 辛い時こそポジティブな言葉、マッスルメンタルだったよな。


(ムァッハッハッ!!)


 ダメージ有りアリ、状況は最悪。

 こんな時に、俺が選ぶ言葉は一つだ。



 面白くなってきやがった!


「面白くなってきやがった!」


【面白くなってきやがった!】

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