15. Tour conductor 後編

"学術ワーカーギルド"


 ところ変わればということだろうか。

 こちらのギルドでは、モンスターの討伐クエストがあまり無い。

 貼られているクエストと言えば、モンスターの生態研究だったり、新しいアイテムの開発チーム募集だったりと、専門の知識や技能を要求してくるものばかりだ。


 あとは学生専用のクエストもある。

 これで単位を取得することもできるようだ。

 小説家に出番無し。


「タスク、これがドラゴンの合同討伐クエストだよ」


「えーと何々、『いつでも誰でも何度でも、一攫千金ドラゴン討伐 』参加料金、3万マニーって高いな!一泊二食付きのクエスト?」


 何だこれ、旅行プランじゃねぇか。

 観光収入を狙ってるキャッチフレーズだ。


「おいおい、よそ者を連れてきたのか、ラーンワイズ」


 クエストボードを観覧していると、後ろから声をかけられた。

 トールの知り合いだろうか。


「ヴァイルさん、こちらはタスクです。タスク、彼は一学年上のヴァイルさん」


「よそ者が受けれるようなクエストは無いぞ。ここじゃ学の無い奴は無価値でね。悪く思うなよ、事実だ」


 歓迎されてるって雰囲気じゃないな。

 よそ者は肩身が狭い。


「ヴァイルさんは、あんまり頭良くなくて落第寸前だったんだけど、ドラゴンカンニングで満点取れてから態度大きいんだよ」


 本人に聞こえないようにトールが耳打ちしてくる。

 嫌味な奴だが、一応トールの先輩だ。

 挨拶しておくのが筋か。


「小説家のタスクだ。カラーズでワーカーをやっている」


 握手を求めたが、ヴァイルは両手を上げて拒否した。


「小説家?やめとけやめとけ。文学ってのは教養があってこそ成り立つものだ。君のような頭の悪そうな者に、まともな文章が書けるとは思えんね」


「おい...そりゃどういう」


 ドンッ!!


 詰め寄ろうとしたが、隣からトールが割って入ってきた。


「ヴァイルさん、今のはさすがに失礼ですよ。撤回してもらえますか?」


「事実を言ったまでだ。言い直すならば、彼のは文学ではなく落書きってことだ!クハハ」


「ふざけないで!!」


 嫌味が止まらないヴァイルに、トールが掴みかかる。


「何だ?名門ラーンワイズ家の娘が暴力か?小説家と一緒にいると素行が悪くなるようだな」


 こいつは人をイラつかせる天才だ。


「落ち着けトール、挑発に乗るな」


 激昂するトールの腕を掴み、ヴァイルから引き剥がす。


「タスクは魔法だって作れるし、お芝居の脚本を一瞬で書き換えることだってできる!タスクの作品を読んだことも無いクセに、落書きだなんて勝手に決めつけるな!」


 俺がキレる前にトールが爆発してしまった。

 トールも俺の作品は読んだこと無いだろが。


「ふん、そんなものは何の役にも立たない。せいぜい知識人である我々の視界に入らず、隅の方で生きてもらいたいもんだ」


 ついに返す言葉を失ったトール。

 悔しそうに握りしめた拳が震え、その目からはとうとう涙がこぼれはじめる。


 ずっと抱えてたモヤモヤが、イライラに変わったぜ。

 ドラゴンは嫌がらせするし、ヴァイルは言いたい放題。

 それでトールは俺の悪口で泣いている。

 どいつもこいつも、本気で腹が立ってきた。


「離して!あいつはタスクを!」


「もういい!全部まとめて俺が解決してきてやる!」


 暴れるトールの手を引っ張り、クエストカウンターへと向かう。


「ドラゴン討伐合同クエスト、参加者一名で!」


「えぇ!?何やってるのタスク!!」


【クエスト参加費3万マニーを支払った】


 ギルド内がザワつきはじめる。

 ドラゴン討伐に一人で挑む俺は、奇異の目に晒されることになった。


「タスク!一人でドラゴンを倒すなんて無理だよ。何考えてるの!」


「ドラゴンを倒せば、トールの母親がテストのことで苦しむことは無くなる」


「だからって!じゃあ私も一緒に......あ!」


 トールのライセンスは、学生に戻ったため停止している。

 このクエストは受けることができない。


「俺はドラゴンを一人で倒す。そうすりゃ誰も俺をバカにできなくなる。トールが俺のことで悔しい思いをすることもない」


 グッと奥歯を噛みしめ、言葉に詰まるトール。


「はっ!何を寝ぼけたことを言っている。君のような者に、ドラゴンを倒せるわけがないだろう!」


 イライラの一番の原因はこいつだ。


「ヴァイル、トールを泣かした事を後悔させてやる。今のうちに鉛筆を削って揃えておけよ?落第したくなきゃな!」


「む、無理だね!ドラゴンに遭遇するどころか、山で迷子になってTHE ENDだ!」


 確かに、まず登山できなきゃ話にならない。

 さらには低すぎる遭遇確率。

 ドラゴンを倒すまでの行程で難易度を上げてきている。


「見くびらないでもらえるかな。タスクが本気で倒すって言った以上、ドラゴンは死ぬ!!」


 待って!?言ってない、そこまでは言ってない。

 この場の全員の視線が、俺に突き刺さる。

 言ったのは俺じゃないんだよ。


「ヴァイルさん、今の内に鉛筆を削って揃えておいたらどうですか?もうカンニングは使えなくなるんですから!!」


 うん、さっきね...俺が言ったのよ 、その台詞。

 何で自分がビシッと言ってやった、みたいな顔してんだ。


「ふん...ドラゴンは絶対に討伐させないからな!覚えてろ!」


 吐き捨てて去っていくヴァイル。

 万が一にもドラゴンが倒されたらと、焦りを感じているのだろう。


「トールは家で待ってろな」


 これ以上、トールが大口叩く前に帰らせよう。


「タスク......五体満足で帰ってきてね」


「だ、大丈夫だって!任せとけ」


 もう帰れ、マジで!


「逃げてもいいから......帰ってきてよね」


 ......わかってるっての。


【学術ワーカーギルドを後にした】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る