15. Tour conductor 前編

『ドラゴン』とは、巨大な爬虫類のような姿で描かれる空想上の生物のこと。

 口からは炎を吐き、羽ばたけば嵐が起こると言われ、ファンタジーの世界では、最強のモンスターとの呼び声も高い。

 また、西洋のドラゴンと東洋の龍では、姿や概念が異なるが、圧倒的な力を持っている点では、概ね一致している。

 しかし......


 ◇◆◇◆◇◆



「ハーディ!しばらく冒頭のミニドラマパートが無いってホントか?」


「今は物語がシリアスな展開に入っている...ミニドラマを入れると繋がらない...」


「なんだよー、これじゃアタシらは出番が無いじゃんか。ん?じゃあこのパートは?」


「本編とは全く関係ない部分だ...ミニドラマがカットになったことの告知......いったい何の話をしている?...カカオを仕入れに行くのだろう...」


「うん?何の話してたんだっけ...待ってよハーディ!置いてくなー」



"フォックスオードリー"


 フォックスオードリーは、学術都市を冠するだけあって、教職・学者系のジョブが人口の大半を占めるという。

 行き交う人の顔が、全員インテリっぽく見えて仕方がない。


「まさかタスクがこっちに来ちゃうなんてね。父さんは妙に機嫌が良かったし、何かあったの?」


「まぁ、庭に埋められない程度の信用は得られたかもしれない...聞くな」


 せっかく来たのだからと、トールがフォックスオードリーの案内をしてくれることになった。

 案外普通の再会、もっとギクシャクするかと思った。


 トールは復学が無事に認められ、大学生に返り咲いたそうだ。

 学生なのでワーカーライセンスは停止状態らしいが。


「案内って言っても、学区は学校ばっかりだから観光には向いてないんだよね。商業区に行けばお店もあるけど。正直、フォックスオードリーのご飯はカラーズほど美味しくないかな」


 家出の理由、ほんとはそこなんじゃ...


「そうだ!私が子供の頃に遊んでた場所に行こう」


 急に手を引っ張り、走り出すトール。

 通りを横切り、学校の裏の道を抜け、学区の中央に位置する小高い丘を駆け上がる。

 そこには一本の巨大な樹木が、フォックスオードリーの街を見下ろしていた。


「賢樹って言ってね、よく登って遠くの景色を見てたんだ。他の人は全然来ないから、私だけの秘密基地だね 」


 先に登ったトールの手を借り、賢樹をよじ登っていく。

 まるで巨大な要塞と言ったところか、登った先が展望台だ。

 カラーズよりも、ずっと大きいフォックスオードリーを一望できる。


 これで天気が良ければ、ピクニック気分で弁当でも広げていた。

 残念ながら梅雨の真っ只中だ。

 いや、大樹の陰で雨宿りってのも悪くないか。


「俺の通ってた学校の裏山にも、でっかい木があったな。学校サボって良く昼寝してたっけ」


「そういうことしちゃ、いけないんだよ?先生に怒られ......あ、ほらタスク、あれ見て」


 トールの指さした先、街の外に聳える山。


「あれは黄金山って鉱山、はるか昔は盛んに採掘が行われてたんだって。今はやってないけどね」


「学術都市にも、肉体労働者がいたんだな」


「あそこに......ドラゴンがいるんだよ」


 そうだ、フォックスオードリーはドラゴンに襲われているんだった。

 トールの母親は、それで倒れたんだっけ。


「思ったよりも平和だから忘れてた。通りの方も普通に人が歩いてたし、本当にドラゴンなんているのか?」


「ドラゴン自体は、ずっと昔から目撃例があるんだよ。黄金山の上空をゆっくりと飛んでいたとか、山頂付近で耳をつんざく咆哮を聞いたとか、登山に行ったら麓の泉で水浴びしてたとか、嘘かまことか、連れ去られて頭に何かしらの器具を埋め込まれたとか」


 最後のやつは宇宙人とかの話じゃないかい。


「だからフォックスオードリーは、昔からドラゴン討伐を合同クエストって形で名物にしてるのね。合同クエストはワーカーのランクに関わらず、大勢で受注できるクエストだから、強い人について山に登る人がいっぱいいたみたい」


「それだけの大がかりなクエストがあっても、誰も討伐できてないのか?」


「うん、倒すどころか遭遇すらできないの。それでドラゴン目当てで人が集まって、頭の 良い人が何とか討伐するために研究を続けた結果、学術都市になったんだって」


 それがフォックスオードリーの歴史か。

 これだとドラゴンのおかげで栄えてきたとも言える。


「それで、ドラゴンの脅威って言うのは?」


「フォックスオードリーは学校が多いでしょ。だから学力テストが頻繁に行われるの。最近になって、そのテスト中に声が聞こえてくるんだって。テストの答えがそのまま」


「それがドラゴンの仕業だってのか?」


「調べたら、黄金山から特殊な魔力でテストの答えが発信されてるらしいの。防音しても頭に直接響いてくるみたい。全員が満点取れちゃうから、学生からは救世主扱いされてて『アンサードラゴン』なんて呼ばれてるの」


「じゃあドラゴンが直接襲ってきているってわけじゃないのか」


 とは言え、テストを作成をしている教師としては、ストレスが貯まることだろう。

 採点しても全員満点じゃ成績を測れないし。

 ほとんど嫌がらせだ。

 ドラゴンなら、姫さらったりしろよ姫。


「そろそろ降りよっか。フォックスオードリーにもワーカーギルドがあるから、そっちも案内するよ」


【学術ワーカーギルドへ向かった】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る