8. chocolate bomb 後編

「アタシは『ショコラティエ』のプラリネ!ぶっ飛ばしてやるぞモンスター!」


 ショコラティエって、チョコレートの菓子職人のことだっけか。


「ハァーハッハッ!......えっと、高くて降りれないから助けてほしいんだケドも」


 やけに降りてこないと思ったら、怖かっただけか。

 カッコいい登場シーンが台無しなんだけドも。


 助けろと言われてもな、下で受け止めるか?

 トールに目をやると、ムリムリと首を横に振られた。

 俺だって受け止めきれる自信は無いし...と、なりますと。


「......破ぁ!?」


 シュライムに視線を向けると、3面が露骨に嫌そうな顔に歪んだ。

 助けてやれよと、手で合図を送りながら交渉した結果、渋い顔で納得していただいた。


【モンスターは落下する少女を受け止めた】


「さぁ!かかってこいモンスター!!」


「助けてもらった相手によく言えるな...」


 ともあれ、仕切り直しだ。

 3対1で対峙し、睨み合いが始まる。


「いいかプラリネ、俺達は後ろで魔法を完成させるから、前に出て壁になってくれ」


「オマエさらっと最低な発言してるぞ...まぁいいや、アタシの実力を見せてやる!」


 一歩前に出たプラリネがファイティングポーズをとった。


「ショコラティエスキル『ガナッシュゲイザー』」


 飛び出したチョコレートが、小さな両拳にコーティングされていく。


「噴噴破っ!」


「チョラララララッ!!」


 シュライムの放つ張り手を、チョコを纏った拳が全て弾き返す。

 ショコラティエは肉弾戦ができるのか。


「タスク、チャンスだよ!」


「おうよ!小説家スキル『疾筆』」


 ミリオンペンディングから放たれた文章が、スクリプトに写し出される。


「顕現しぇしは......えと、焼き尽くせ!ファイヤーボール!」


 スクリプトが鈍く光り、魔法が発動...

 おいおい、何かデロデロしたのが出てきてるぞ。


「ゴメン、トチっちゃった!」


【NGスライムが召喚された】


 なんじゃこの奇怪な生命体は。


「おい、声優協会で何のレッスンを受けてたんだ?」


「難しい言葉が多すぎるんだもん...」


 召喚されたデロデロは、シュライムと共闘してこちらに襲い掛かる。


「オマエら!敵増やしてんじゃねーかよ!」


「タスクはもっとアガる魔法考えてよ!」


「だぁぁ!逃げながら考えるって!」


 今度は3対2での鬼ごっこが始まったのだが、両サイドがうるさすぎて全員敵に見えてきた。

 魔法...魔法......ダメだ、全然思いつかない。


「だいたいアガる魔法ってなんだよ!」


「何かこう、気分が向上しないと降りてこないんだよ」


「お前は霊媒師か何かか?」


 だが、もし気分によって成功率が変わるのなら、糸口は見えてきた。

 トールを本気にさせる要素があればいいわけだ。


「プラリネ、もう一回だけ頑張れるか?」


「え?...はぁ、次で決めろよな!」


 モンスターに向き直ったプラリネが迎撃態勢に入る。


「足止めだけだからな!スキル『チョコモノリス』」


 モンスターとの間に、巨大な板チョコの壁が現れる。

 よし、ここからが勝負だ。


「トール、今から即興で魔法を書き込む!ただ時間が無いから完全な文章は書けない。足りない部分は自由に演じろ!」


「そんな、もし失敗したら?また状況が悪化するかも」


「心配するな。魔法にだけ集中すればいい!あとのことは後のことだ!」


 今こいつのテンションを急上昇させるワードは...


「さあ、やるとするか!『疾筆』」


「タスク?この魔法って...」


 スクリプトに目を通したトールの目つきが変わっていく。


「絶対成功させる!『滑舌』そして『アドリブ』」


 スクリプトが青白い光を放ち始める。


「クワバラクワバラ......」


 雲?さっきまで晴れていたのに、急にどんよりしてきた。

 声優の演技力って天候まで影響するのか。


「我が名を冠する戦神いくさがみ その手にたずさええしは天空の鉄槌てっつい


 ゴロゴロゴロゴロ...


 とうとう雨が降り始め、雷まで鳴りはじめた。


「聞け!この前兆を 忌まわしきなんじを打ち砕く旋律を!」


 誰なんだアイツは?どしゃ降りになっちまったぞ。

 召喚されたデロデロが雨で流されていく。

 思った以上に威力が大きそうだ。

 このままだとモンスターに近いプラリネまで巻き込むんじゃないか?


「プラリネ!でかいのが来そうだ。逃げろ!」


「そんなこと言ったって、今は手一杯だ!」


 既に板チョコは破壊され、張り手を相手に必死で格闘している。

 トールの詠唱が終わるまでに何とかしないと...ん?あれは!


「汝を裁くは神の憤怒ふんど すなわち神罰!!」


「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 モンスターを引き付けていたプラリネを抱きかかえ、そのまま全速力でその場を駆け抜ける。


「ひぇ!?どこ触ってんだコラ!」


 更に一段階、雨が強くなった気がする。

 プラリネが暴れるが、少しでも離れなければ。


「この、セクハラ野郎!!」


「ぐがっ!!」


プラリネの拳が顎にヒットしたその瞬間、白煙が俺達を包み込んだ。


「我が名を刻め!ストライクトールハンマー!!!!」


 バリバリバリバリッ!スドォーーーン!!


 トールが掲げた右手を振り下ろすと、強烈な雷がシュライムに直撃した。

 近くにいた俺とプラリネは、間一髪で身代わり人形が発動し、瞬間移動することができた。

 トールが使ったものを途中で拾っておいたのだ。


 魔法の直撃を受けたシュライムは、かろうじて生きていた。

 なんとも頑丈なモンスターではあるが、さすがに戦う力は残って無いようで、降参の白旗を揚げている。


【モンスターは大人しくなった】


【修羅のフンドシを手に入れた】


 戦利品がおかしい......


【クエストを達成しました】


"フランキーのジム"


「ここに住む?ダメに決まってるだろ」


「そうだよ!チョコちゃんはまだ子供なんだから、親御さんが心配するでしょ?」


「チョコちゃん!?子供扱いすんな!アタシは14歳だぞ!」


 嘘だろ?14歳なのか、小学生くらいかと思ってた。


「トールだってアタシとそんなに変わらないだろ?」


「え?私19歳なんだけど......」


「俺と一つしか違わないのか...何で言わなかったんだよ?」


「聞かないんだもん」


 こっちはこっちで、多少発育の良い高校生ぐらいに思ってたので、頭の処理が追い付かない。


「とにかくダメだよ、タスクだって何するかわからないんだし。部屋に押し入ってきたらどうするの?」


「俺の部屋にノック無しでズカズカ入ってくるトールが言うのか?」


「オマエらって...そういう関係なの?」


「「違うよっ!!」」


「仲良しかよ!困ったな、アタシは別の街から出て来たから頼れる人もいないし」


 チラチラとこっちに視線を送られてもなぁ。


「ここに住んで良いかはフランキーに聞いてみないと...お、帰ってきたか」


「ムァッハッハッ!ボディビルの大会で優勝してきたぞ!」


「ギャーーーーーーーー!!」


「フランキーさん!トレーニング以外の時は服を着てください」


 俺達は見慣れてしまったが、14歳にパンツ一丁は刺激が強すぎたか。

 やっぱり他のとこを探したほうが......


「ムゥン!下宿OK」


【ショコラティエが仲間に加わった】

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