8. chocolate bomb 前編

『回復アイテム』とは、ダメージを負った際、それを回復するための道具のこと。

 一般的な物は、薬草やポーションといった消耗品であり、一度使うと無くなる。

 使いどころを間違えなければ、戦闘を有利に運ぶことができる。

 しかし......



◇◆◇◆◇◆


「らっしゃーせー」


 今日は、戦闘に役立つアイテムを探すため、道具屋にやってきた。


「いいかトール、アイテムがあればモンスターとの戦いで有利に戦えるんだ。回復アイテムやダメージを与える便利そうなのを探すんだ」


「ふむふむ、回復アイテムは、この『ヨモギ』と、ダメージは......『バフン』かな」


 ヨモギ!?薬草じゃなくてヨモギなのか。

 ちゃんと体力が回復するのか不安なのだが。

 バフンは......持つのも使うのも嫌だなぁ。


「よし、ヨモギは俺が管理するからトールは...」


「ねぇタスク、私に何を持たせる気なのかな?」


 察しがよろしいようで。


「...この身代わり人形ってアイテムを持っててくれ」


 クマのヌイグルミのように見えるが、すり替わってダメージを肩代わりするアイテムのようだ。


「ふぅん、結構カワイイね。大事にするよ」


「いや、身代わりなんだから活用してくれ」


 さて、他には...お、ポーションがあるな。

 ラベルに何か書いてある、何々。


『働く貴方は美しい!24時間戦うワーカーの強い味方!不眠ポーション』


 ポーションをそっと棚に戻し、いくつかのヨモギを持って会計に向かった。


「あざっしたー」



"オスモ寺院遺跡"


 今度こそ自力でクエストを達成するため、街から少し離れた遺跡を訪れた。

 ここは遥か昔、多くの僧侶が修行するためのお寺だったんだそうな。


「で、ここで何と戦うんだ?」


「うん、遺跡に住み着いた『スライム』を追い払ってほしいそうだよ」


 今回のクエストは、トールが選んだので少々不安だったのだが...

 スライムか、特に強いイメージも無いし、それなら大丈夫そうだ。


 遺跡の探索を開始してほどなく、寺院の中庭でモンスターを見つけた。

 しかし、それはスライムと呼ぶには、あまりにも姿形がかけ離れたものだった。

 頭が3つに腕が6本、筋肉質な肉体にフンドシを締め、力強く四股を踏んでいる。


「おい...あれがスライムか?俺の知識とだいぶ違うぞ」


「えぇ......おかしいなぁ。確かにスライムの駆逐って書いてあったのに」


 一旦クエストの内容を確認してみる。

 オスモ寺院遺跡で場所は合っているようだ。

 駆逐対象がシュライムで......シュライム!?


 シュラ...修羅......

 イム...仏......

 修羅仏!!


「これはウソだろぉがぁ!!」


「ちょ!タスク、そんな大声出したら...」


【モンスターが襲いかかってきた】


「噴っ!破っ!噴っ!破っ!」


 奇声を上げながら迫り来るシュライムと遺跡内を縦横に走り回る。

 世にも恐ろしい、全力の鬼ごっこが始まってしまった。


「トールはもうクエスト選ぶの禁止だからな!」


「これって私のせいなの!?納得がいかないよ!」


「あんなボスっぽいの出てきたら、誰かのせいにでもしないと収まりがつかねーよ!」


 このまま逃げていても、いずれ捕まる。

 トールに合図を送り、俺は物陰に潜んだ。


「声優スキル『プロヴォークボイス』かかって来ぉい!」


「噴噴破ぁ!!」


 プロヴォーク、つまり挑発のことだ。

 トールが囮になり、モンスターが突っ込んできたところに。


「喰らえ!渾身のミリオンペンディング!!」


 物陰からスネに向かって、思いっきりペンを叩きつけてやると、シュライムは派手に転倒した。


「どんなもんよ!これが頭脳派文系の戦い方だ!」


「ズルい上に地味で小説家要素も無いけどね...てかタスクのペン、ヒビが入ってるよ?」


「え?あぁっ!ほんとだ!武器はこれしか持ってないのに」


 シュライムのスネにぶつけた部分に亀裂が入っていた。

 武器とは言え、これはショックだ。

 これからはもっと大切に使ってあげよう。


「タスク!前見て前!」


 しまった、一瞬の油断でモンスターの接近に気付けなかった。


「距離を......ブベブハベブベバハァ!」


 やられた、逃げる間もなかった。

 パンパンと小気味よい音を響かせ、シュライム怒涛の6連張り手に両頬を撃ち抜かれた。

 強烈に痛いし、熱を帯びた頬は腫れあがる。


「タスク!ダメージにはヨモギだよ!!」


 そうだ、今回は回復アイテムがあるんだった。

 急いでヨモギを取り出し、それを握りしめた。


 が、使うことが出来ない。

 忘れていた、俺には致命的な欠点があることを......


「トール、ゴメン俺...極度の『ラスエリ症候群』なんだ」


 貴重なアイテムを使用する際に、躊躇ちゅうちょしてブレーキがかかる。

 俺の場合は普通の消耗品でさえ、この症状が出てしまうのだ。


「危ない!どいてっ!」


 呆然としていた俺を突き飛ばし、追撃の張り手をトールが顔面に食らう形になってしまう。

 その瞬間、白い煙幕が発生、その場にはトールではなく、身代わり人形だけが落ちていた。


「身代わりのお陰でノーダメージだよ」


「ほっぺたパンパンじゃねーか!」


 張り手が当たった後で入れ替わっても遅いだろ。

 クレーム案件だぞこれ。


「パクッチョ!ちょっと苦い、タスクも食べ...食えやオラァ!!」


 俺が握りしめていたヨモギにトールが食いつく。

 さらに別のヨモギを取り出し、今度は俺の口に強引に押し込んでくる。


「やめ!...モガガガ!んぐっ!」


【ダメージが回復した】


 なんでこれで回復するんだよ。

 おかげで窮地は抜け出せたけど。


「接近されると魔法を書く暇が無いな」


「詠唱だって集中しないと無理だよ」


 なんとか隙を見つけて反撃できないものか...


「ハァーハッハッ!そこの二人!アタシが助けてやろうか!」


 突如現れた謎の少女。

 寺院の屋根の上で高笑いを上げる姿は、ピンチの時に現れるヒーローと言ったところか。


「ありがたい、手を貸してくれるのか」


「うわー、正義の味方みたいだね」


 そうそう、こういうシチュエーションで颯爽さっそうと飛び降りてカッコよく決める。

 正義の味方は、登場シーンが大事だよな。


「アタシは『ショコラティエ』のプラリネ!覚悟しろよモンスター!」


 高所からバッチリ名乗りを上げたところで、後編へ続く。


【ショコラティエのプラリネが参戦した】

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