2. can be anything 後編

 この街でワーカーとして生活することになった俺は、期限ギリギリの昇級クエストを受けることになった。

 ライセンスカードを受けとり、説明を聞く。


「クエストの内容は、街の南に広がる『パンドラの森』でモンスターを1体討伐して報告すること。前提として2人組のパーティーで挑戦していただくことなります。まずはパーティーメンバーをお探しください」


「え?...パーティー?」


「はい、ワーカーとしてのチュートリアルも兼ねておりますので、頑張りましょう」


 しまった、こちらの世界に来たばかりで知り合いなんていない。

 駆け出しが声をかけて、ご一緒してくれる人がいるだろうか。


 不安を覚えつつ、ギルド内を見渡し、パーティーを組んでくれそうな人を探す。

 最初に目が合ったのは、よりによってビキニパンツのボディビルダーだった。

 ボディビルダーは何かを察したかのように、1歩、また1歩とポーズを決め、こちらへと近づいてくる......満面の笑みを浮かべながら。


 いけない!コレと組むのだけは間違ってる気がしてならない。

 ストーリー的にろくな未来が想像できない。

 だがしかし、完全にロックオンされてしまった。

 俺が迫力に飲まれているのか、ボディビルダーの能力なのか身動きがとれない......目が離せない。


 迫り来るボディビルダー。

 ついにガッシリと肩を掴まれてしまった。

 あぁ...逃げられない......


ドンッ!!!!


 突如、横から何者かが体当たりをかまし、ボディビルダーはフェードアウトした。

 代わりに肩を掴む何者か。


「私とパーティーを組んでくださいっ!!」


 力強く透き通るような声。

 綺麗な瞳をした女の子。

 その頼みを拒否する理由なんて、マッチョから解放された俺にあるはずもない。


【タスクはパーティーを組んだ】


「トールさん...で、いいんだっけ?名前」


「いえ、発音は上がらず下がらず真っ直ぐにトールです。あと、さんは付けなくていいですよ」


 ナントカ神話に出てくる神様ではなく、普通に日本名のニュアンスでトールらしい。

 彼女もまた、駆け出しで昇級クエストを受けたかったが、パーティーを組むのに困っていたそうだ。


「それじゃトール、俺の名前はタスクで、本日からジョブ『小説家』としてやっていくことになった」


「よろしくね、タスク。私のジョブは『声優』。えっとね、声優って言うのは声を用いるスキルが特徴なのね。で、特典装備は『スクリプト』って魔導書でした」


 声を仕事にする『声優』だけあって、会話によどみが無く、聞き取りやすい。

 スクリプトはペラペラの冊子のように見えるが、なるほど声優には台本、ということらしい。

 書かれたことを発声して様々な効果を得る、声優ならではの装備だ。


 装備といえば、さすがに部屋着のままというわけにもいかないので、防具屋で動きやすい服と、万が一を考えて軽装の胸当てを購入することにした。

 ギルドから支度金が支給されたので、街で準備を整える算段だ。

 ちなみにこの世界の通貨の名称は『マニー』だそうだ


「ちゃりーん」


 ライセンスカードはマニーの管理もでき、この言葉1つで決済ができる。

 現金でも支払えるが、キャッシュレスが最近の流行りなんだとか。

 他にも、時計機能や自分が使えるスキルを確認したりと、便利なツールになっている。


「お腹すきません?私はもうペコペコなんで、ご飯食べてから行きませんか?」


 買い物が終わるなり、トールが食事を提案してきた。

 そういえば、こちらに来てからお茶しか口にしてない。

 クエスト前のエネルギー補給、店を探そう。


【タスク達はレストランを探した】


 パンにスープにサラダにお肉、更に追加で運ばれてくる焼き魚やらゆで卵やら揚げ物。

 トドメは大盛スパゲッティときた。

 それらは瞬く間にトールの腹に収納されていく。


「んぅー!美味っしい!!口が...お口の中が幸せだぁ」


 こいつ、何でも食いやがるな。

 懐のほうが不幸になりそうな量だ。

 小柄な人ほど大食い説は本当なのかもしれない。


「そんなに食べて大丈夫か?このあとモンスターの討伐だぞ」


「え?でも...お腹いっぱいじゃないと可愛い声でない...」


 言い切った。声優ってそうなの?

 もしかしたら強力なスキルを使うのに体力を使うのかもしれない。


「食べないなら貰いです。パクッチョ!!」


 やりやがった、思案してる間に俺の注文したハンバーグは、無限胃袋声優の口へと持っていかれてしまった。

 幸せそうにモグモグする姿を見ていると、こっちまで幸せに......なるはずが無い。

 こっちはまだ1口しか食べていないのだから。


「何を人のモノ勝手に食ってんだ!!俺だって腹減ってんだぞ......あ、店員さん、ハンバーグセット追加で」


「私もおかわりお願いしまーす」


「まだ食うの!?どうなってんだ、その食欲」


 店員もドン引きだ。

 しかし、その食いっぷりに対抗心が湧いてしまい。


「「追加オーダーおなしゃす!!」」


 そして、テーブル一杯に並べられた料理の取り合いになるのだった。


【マニーが底をついた】

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