第38話
ペイジブルに来てから二日目の朝が来た。時計台の針は7を指し、東から登る太陽がその日の始まりを告げている。
……が、獣人の町ペイジブルの領主は、そんなこと御構い無しにカーテンで締め切った薄暗い部屋の中で寝息を立てていた。そんな寝息の音だけが響く部屋にドアを叩く音が聞こえる。
「マスター、起きてください」
……んぁ? イチジクか
「あと十分寝かせてくれー」
ぼんやりする頭を若干働かせながらイチジクに言った。
俺は領主なんだから、それくらい許されても……
すると、その願いは聞き届けられたのか、音がしなくなった。
……って、あれ?
いつもみたいに無理やり起こすつもりはないのか?
俺が二度寝を決めようとすれば、毎度俺に辛辣な言葉をかけて起こそうとしてくるはずなんだが、今日は静かになったのだ。
「なん……物分かり……が……グゥ……」
「マスター起きてください」
「ひえぃいいい!!!!」
俺はその瞬間飛び起きた。
目を開けると、目の前に眼鏡美人がいる。それはそうだ、俺はイチジクの声が耳元で囁かれたことで、驚いて起きたのだから。
反射的に布団を手繰り寄せながら、俺は叫ぶ。
「お、おい! 音もなく人の部屋に入ってくるな!」
もう、スッキリと頭の冴えた俺はイチジクに物申すが、イチジクはその毅然とした態度を変えない。
「マスターはこんな美少女に起こされて嬉しくないのですか?」
「黙れ! お前の中身はもはや少女と呼べるよう……な……」
「何か言いましたか?」
俺は、その瞬間黙ってしまう。
それも仕方がない。精神の推定年齢四十歳前後のうちの美人オートマタは、そのスカートの中から、戦闘用ドローンを放出して俺を取り囲んだのだから。
俺は、両手を上にあげながら、声を絞り出す。
「い、いえ……今日もイチジクは可愛いなってな?」
「あら、それは嬉しいですね」
こうして俺の穏やか? な朝は過ぎていった。
それから顔を洗って朝食を済ませた俺は食堂でイチジクと騎士のフェデルタと向き合っていた。
「じゃあ、これからすべきことを決めるか」
俺がそう切り出すと、予想外なことにフェデルタがそのしなやかな手を挙げて、口を開いた。
「これからのことなのだが……私にこの町の軍事を任せてはもらえないだろうか」
……ほう。フェデルタにしては珍しく積極的な提案だな? 俺はそのまま先を言うように促した。
「私は主人殿の騎士だ。そして、その主人殿はこの町の領主、つまりは私はこの町を守っていかなければならない。それに……主人殿に楯突く連中をわからさなければならないからな」
フェデルタは力強く言ってのけた。その瞳には決意が見て取れ、簡単には折れないであろうことが分かる。
それを聞いて俺が思うことはただ一つ。
楽になるなら、なんでも大歓迎だ!
いや、そもそも俺が軍事なんて出来ると思えないしな……
俺は、そんな言い訳を自分にしながら嬉々として答える。
「分かった、この町は外敵の脅威も多いからな……軍事は信頼しているフェデルタに任せよう」
俺は全てをフェデルタに任せることにした。俺なんかよりは何倍もうまくやるだろう。
「うむ。まかせてくれ」
そう言ったフェデルタは目を閉じていて、満足げだ。
もしかしたら、大役を任されて嬉しいのかもしれない……
その反応に、自分の心の汚さを見ながらも、フェデルタからイチジクに目線を向ける。
「で? イチジクはどうするつもりだ?」
「そうですね……」
顎に手を当てて、少し迷ったふりをしながらイチジクは元から決めていたのであろう答えを言う。
「とりあえずは、これから住むことになるこの屋敷の掃除をしようかな……と」
え……あ、うん
「それは助かる」
周りを見渡す。
館の床には埃がたまり、窓ガラスには蜘蛛の巣なんかがはってある。
「さて……じゃあ面倒臭いことこの上ないが、各々仕事をするか」
そう言って俺は椅子を後ろに引いて立ち上がると、食堂を後にした。
そのまま自室に戻って二度寝をかましたいところではあるが……
俺は、別の場所に向かって足を進めた。
「始まりの森……か」
そう、今日は取り敢えず、問題となっている始まりの森に実地調査をしに行こうと思っていたのだ。
「刀は……まぁ、いっか」
それから刀を部屋に取りに行くこともなく、玄関に直行する。
外に出ると、綺麗な青空が広がっていた。その空は、昨日より少しだけ澄んでいるように感じる。
「目指す始まりの森は北……だな」
そこからのんびり鼻歌を歌いながら北に少し進むと、町の終わりが見えて、そこから木々が続いていた。
始まりの森に着いたのだ。
「うっへぇーもはや町と森がつながってるじゃないか」
壁すらないし、エルフに襲撃されたらひとたまりもないな……
そんなことを考えながらも足を進め、いよいよ森に足を踏み入れた。
地面が、レンガから土に変わる。
住人曰く、森に狩りをしにいくとエルフに襲われるらしい。
そんな危険な場所に行くにもかかわらず、丸腰の俺は、ズカズカと森のより深くへと進む。
気がつけば後ろを見てももうペイジブルの町が見えないくらいまで森に入っていた。周りの大きな木々が俺を見下ろし、自ずと心細さが心に入り込もうとする。
「おっと、気を引き締めないとな……」
今の俺の背中には領民たちの期待がのしかかっているのだ、びびって適当なことはできない。
俺は大きく息を吸い込む。
ここまで来たらやるしかない。
俺は領主だ、こんなところで戸惑ってられるか!
「おい! いるんだろ! 出てこいよ」
ザワザワと木の葉の揺れる音をかき消すように俺の声が辺りに響く。
そのまましばらく待つが、一向に何かが出てくる気配はない。
あれ……いないのか?
そう思って踵を返そうとした……
その時だ。背後から何かが高速で移動する音が聞こえ、その何かは見事俺の背中に着弾した。
背中の方の少し下あたりから痛みがじわじわと伝わってくる。
俺はその痛みの原因を探そうと背中に手を当てると、服がそこだけ破れていた。特に矢が刺さっているということもない。
弓による攻撃じゃないとすると、エルフの得意な魔法攻撃か……でもどこから?
俺はすかさず辺りを見渡すが、木々がそれをあざ笑うかのように揺れるだけで気配までは掴めない。
しかし、いるのが確かなら……
「話を聞け、エルフ族!! 俺は新しくペイジブルの領主となったものだ! 武器も持ってない、話をしに……って、おい!」
俺はひとまず話を聞いてもらえるように大声で叫ぶが、一度始まった魔法による攻撃は止まらない。
赤青黄色、様々な色の球は四方八方から容赦無く降り注ぎ、その攻撃が一箇所からされているものではないことが見て取れる。
「くっ……!!」
こいつら、話を聞く気はないのか!?
両手で頭を覆うように守るが、そんなもの大した意味をなすわけもなく、体のあちこちが激痛を訴える。
「……っ! エルフってのはっ……本当に野蛮だな」
何発かの地面に衝突した魔法攻撃によって砂煙が舞い、俺のあたり一帯を見えなくした。
そして……
「よ、ようやく止まったか……」
砂煙で隠れたことで完全に俺を倒したと思ったのか、エルフによる攻撃が止んだ。
服はあちこち破れているが、さすがは防御力に全振りの体だ、外傷はなかった。
しかし、今がチャンスだ!
エルフたちは俺の死を確認するために降りてくるだろう……武器が無い今、その時を待つ!!
そんなことを考えながら、俺は地面に突っ伏して、エルフが近づいてくるのを待つ。
……おっ、やっと来たか
「……しゅだとか……まあみろってのよ」
「まぁ、まぁ、そんな……じゃない?」
しばらく寝そべっていると少し遠くからしゃべりごえが聞こえたが、内容までは分からない。
数は二……いや、三だな
話し声は二人だけだったが、足音が三つ分聞こえてきたのだ。次第にその足音も大きくなり、ついに俺の真横で止まった。
すると、足音の代わりに声がする。
「もぉ、やっぱり死んじゃったじゃないのぉ。バレたら龍帝様に怒られちゃうわぁ」
やけにゆったりした声だな……それにこの高音ボイス、女だな?
「バ、バレなきゃいいのよ! バレなきゃ! リンも言うんじゃないわよ」
そのゆっくりした声に続くように別の女の声がした。少しテンパっているのが分かる。
「………………。」
いや、なんか喋れよ……
もう一人は全く声を出さない。ただ名前がリンということだけは分かったが……この状態どうするかな。
とりあえずの目標は、エルフと会話をすることだ。
うーん……ここは……
タイミングを見て一人をホールド、その一人を人質にしながら会話をして、全員の誤解を解くっていうプランBが有効だな!
ちなみにプランAは土下座してひたすらに許しをこうて逃げる作戦だった。
まぁ、ここまで近づいてくれたのだからBの方でいいだろう。
そんなことを一人企んでいると、
「あらぁ? この領主さん、よく見ると人族みたいよぉ?」
そんなことを言う、おっとりした女の人の声が次第に近くなってきた。
いいぞ! もっと近づいてこい……
遠くでツンケンした方の声も聞こえたが、そっちは近づいてきてはいないらしい。
「そうなの? まぁそんなん大した問題じゃないわよ! その首とって森の前にでも飾っておけば流石にビビって獣人も押し寄せて来ないでしょ」
「もう、そんなこと言わないのぉ……ってあれ? この人、傷が……」
それを聞いた途端、俺の体は反射的に動いた。
うつ伏せの状態から両手を地面につき、膝を曲げて……膝のバネの力を使って、そのまま目の前に迫った女性を押し倒した。
ドサリッ……
「殺されてたまるかぁあ!!」
その時、手にもたらされた謎の感覚。
ふにん……ふにぃいん……
「……あんっ」
……? ふにんふにん……?
な、なんだ? この感触は……指に吸い付くような、初めて触るはずなのにどこか懐かしい……
俺はすかさず自分の手に目線をやる。
やはり、俺の手は何かを掴んでいた……それもガッチリと。
仕方ない、そうでもしないと暴れ出すかもしれないと思ったからだ……
少し目線を上にやると、そこには顔を少し赤く染めながらこちらを上目遣いに見つめる美女がいる。
こ、これは……落ち着け、俺。
そう自分に言い聞かせて深く深呼吸をする。
そして、その女性の潤んだ瞳をしっかりと見つめて宣言した。
「責任なら、とらせていただきます! いえ、とらせて下さい!!」
普通なら狼狽えるのかもしれない、だがしかし! 俺はこのチャンスを逃しはしない!!
なんたって、この巨乳エルフすこぶる可愛いのだ。
長く尖った耳、少し垂れた目元、こちらを見る翠の瞳、それにスタイル抜群の体……責任を取れと言うなら喜んで結婚しよう!……と思えるほどに。
「……は、はぁ」
俺の言葉に驚いたように目を見開きながらも、彼女はなんとか出せる声を絞り出したようだった。
「よっしゃぁあ! 可愛い嫁さんゲットだぜ」
しかし、そんなこと構やしない。
その溜息のような声を了承の返事と受け取った俺は、その体勢のまま左手でガッツポーズを決め込んだのだった。
そうして流れで完成した婚約に、一人ウキウキしていると、エルフ族の女性にのしかかる俺の後方で、甲高い声が大声で発せられた。
「あ、あんた……何してんのよぉお!!」
「はっ!!」
こんな可愛い嫁さんを貰えたのに、やすやすと死んでたまるか!
俺は他の二人の存在を思い出し、すぐに顔を声の聞こえた方に向ける。
……しかし、時は既に遅かった。
さっきから甲高い声を出していた小さなエルフが、カラフルなエネルギーの玉のようなものを、自身の周りにフワフワと浮かべていたのだ。
こいつ! さっき攻撃してきた技をこんな至近距離から浴びせる気なのか!?
冷や汗を流す俺の前で、エルフの少女は不敵に笑いながら、そのエネルギーボールの数を増やす。
「今度はさっきの三倍よ……どんなインチキ使ったのかは知らないけどね、無傷でいられないわよ!!」
「ちょ、待てって! こっちにはお前の仲間がい……」
るんだぞ。
そう言って攻撃をやめさせようとした俺に容赦なく攻撃の雨が降りそそぐ。
このまま逃げるか!? 正直、今横に転べばあの攻撃の大半を回避することが可能であろう……
が、そうした場合この未来の俺の嫁……と言うのは冗談にしても、このエルフの女性の重症は免れないだろう。
「クソがっつ!!」
これ以上考えている時間はない、俺はすぐさま押し倒したエルフに覆い被さった。
間もなく、大量のエネルギーボールが背中を襲う。
それは熱かったり、冷たかったり、痺れたり、切り裂かれるような痛みだったり……それぞれの玉に相応の効果があることがわかる。
それはどれほどの時間なのかは分からない。
背中に痛みが続いたのは数秒か、数分か……とにかく俺にとっては長い長い時間が経過し、ようやくその攻撃は息を潜めた。
「……ってぇえ」
攻撃が止んだことで力が抜け、俺はそのまま重力に従って巨乳エルフの上に倒れこんだ。
「おねぇちゃん!!」
女の子特有の柔らかさを服越しに感じていると、倒れこむ俺の頭の上から、例の暴力エルフが駆け寄ってきて言う。
「大丈夫!? 今すぐその男をひっぺがすから待ってて!!」
いや、大丈夫て……攻撃してきたのお前さんだろ……
しかし、それを言う気力も体力もない。
俺はそのまま暴力エルフに押しのけられる形で、巨乳エルフの上から地面に降ろされた。
あぁ……やばい
このまま首落とされそうになっても、抵抗の一つも出来ないぞ……
それほどまでに大きなダメージだったのだ。
傷は確かにないかもしれない、しかし、痛みは感じている。
「ふぅ……怪我はしてないわね……ごめん、お姉ちゃん!! 前の男を倒すことしか考えられてなかった! リンが止めてくれなかったら今頃……」
そう言って、暴力エルフは姉であると言う巨乳エルフを抱き上げる。薄目を開けて見たところ、巨乳エルフさんにも傷は全くついていないようだった。
「私は大丈夫よぉ、もう、私だから良かったけど、他の人にこんなミスしちゃダメよぉ」
そんなことを言いながら、巨乳エルフは暴力エルフの頭を撫でる。
良かった……これで助けた甲斐があったってもんだ。
仰向けに寝転びながらそんな姉妹愛を見ていた俺は、重たい上半身を無理やり起き上がらせた。
ここで止まっていては、確実にやられると分かっていたからだ。
「今は、このどさくさに紛れて少しでも遠くに……」
俺はあまり目立たないように注意しながら、這いつくばって匍匐前進で、二人のエルフと距離を取る。
少し離れたら、そこから一気に巨大壁に乗って空高くに移動するつもりだ。
流石にあの魔法も遥か上空にまでは届かないだろうと考えたのだ。
「はぁ……はぁ……」
下半身引きずる形で移動する。
そして……
「よし、この辺で……いいかな」
なんとか話しているエルフたち姉妹に気づかれずに離れることに成功した俺は、すぐさま【巨大壁】を地面に沿うように展開する。
これに乗っかれば、とりあえずこの森は出られるだろう……何も解決はしなかったが、今は逃げるが勝ちだ。
俺は手を地面に向けて、スキルを発動する。
「スキル【巨大壁】……よし!」
それに早速乗ろう……そうしたとした時、
その巨大壁の上に人が降り立った。
「……なっ!?」
すぐさま顔を上にあげ、その正体を確認する。
そこには真っ黒い影……いや、正しくは真っ黒な服、忍者服なのだろうか? を着た男が立っていた。
「………………。」
こいつ、リンって呼ばれてたやつか……
「あのさ、勘弁してくれない? さっきあの巨乳エルフさんを守っただろ?」
俺はすぐさま懐柔策に出る……が、それは許されなかったらしい。
その忍者エルフは、腰から二本のクナイを引き抜くと、こちらに歯を立てて振り下ろしてきたのだ。
まずい……死んだな俺
体が弱り切った今、抵抗も出来ずに俺は殺されることしか出来ないだろう……
俺はそのまま目を瞑り、いずれ訪れる死を待つ。
そして、いよいよだと攻撃がくるとや思った時……
「……あれ、攻撃が来ない?」
もしかしたら、リンが考え直してくれたのだろうか……
恐る恐る、俺は顔を上げる。
しかし、そこにあったのはクナイではなく……
派手派手な……布?
そう、目の前には衣服と思われる布が広がっていたのだ。
よく見ると、それは着物のようで、それを着ている人……女? がこちらに体を向けて存在している。
さらに言えば、彼女はリンのクナイを指二本で止めていた。
「誰……なんだ?」
俺が予想外の出来事に戸惑いつつも、命の恩人に声をかけると、前に立つ妖艶な女性は、クスリと笑ってその麗らかな唇を動かす。
「妾か……妾は『龍帝』と呼ばれる存在じゃ」
龍……帝?
そう言えばさっきエルフたちが龍帝に怒られるとかなんとか……
俺は改めてその容姿を見る。緑の髪を腰くらいの位置まで伸ばし、頭には……鹿の角? のようなものを生やしていて、その顔は可愛いというより、美しかった。
「…………!」
どうやら、リンとかいうエルフが龍帝に抗議しているらしい。いや、何も口には出していなかったが。
それに対して、龍帝はその眼を鋭く尖らしてリンを見る。
「ふんっ、黙れわっぱ! この男の行動を見ておらんかったのか? この領主はシルを守ろうとしたのだぞ? それに……丸腰じゃろ」
後ろで守られている俺でも分かる、彼女は強い。
それもとてつもなく。
「……。」
どうやら諦めたようだ……リンは龍帝に説得され、クナイを腰に収めて、瞬間移動か! という速度で、姉妹エルフのもとまで戻っていった。
「ふんっ……さて、立てるか? 領主殿」
そう言って龍帝が俺に差し伸べたその手は繊細で、神々しさすら感じる。
「あ……あぁ、助かったよ」
「いや、今回の件はこちらの落ち度じゃ。すまなかった」
「やめろ、頭を上げろって」
俺は慌てて、頭を下げた龍帝に体を起こすように言う。
すると、それを見ていた通称、暴力エルフがまたしても声を上げた。
「龍帝様!! 頭を上げる必要なんてないですよ! そもそもこいつら人族が「黙るのじゃ、シル」」
暴力エルフ……名をシルと言うらしいが、龍帝にそう言って睨まれると、その瞬間空気が変わり、シルも押し黙った。
こ、こぇえ……龍帝様
「妾をこれ以上怒らせるな」
静かにそう言っただけで、そこに含まれた怒りの感情が見て取れる。
「も、申し訳ございません」
シルが冷や汗を垂らしながら、謝罪の言葉を口にする。
「というわけで、許してやってほしいのじゃが」
龍帝が呆れた顔をしながらこちらを向いた。
それはどうしようもない我が子を見ているようだった。
俺は、なるべく平然としたまま龍帝に対して渇いた口を開く。
「あぁ、もういい。俺はペイジブルの代表として話をしに来たんだが……この森のトップは龍帝ってことでいいのか?」
「ふっ……妾を呼び捨てとは。面白い! その通り、妾がこの始まりの森を治めし者、龍帝じゃ!」
ありゃ、呼び捨てはまずかったか?
一応領主という立場で来てるし、下手に出てはダメだと思ったんだが……
背後で、怒りでプルプル震えているシルの反応を見る限り、敬語を使った方が良かったみたいだ……
まぁ、いまさら変える気などないがな!
俺は切り替えて続ける。
「じゃあ俺も自己紹介を……俺は、昨日から隣の町、ペイジブルの領主をすることになったシルドーだ! よろしく頼む」
「ほう、昨日からとな? こちらこそよろしく頼もう」
挨拶も済んだ俺は、改めて龍帝にお願いをする。
「それでなんだが、これからどっか落ち着いた場所で話とか出来ないか?」
「話……か、そうじゃな。これから妾の住処へと案内しよう……三人もついて参れ」
「「はっ!」」
シルとリンはすこぶる嫌そうだったが、これ以上龍帝に怒られたくなかったのか、了解の返事をする。
こうして、ボロボロの俺と三人のエルフ、それに一人の龍帝は始まりの森を奥へ奥へと歩き出した。
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