第39話



生い茂る木々の葉の隙間から太陽の木漏れ日が差し込み、森全体を神秘的な光が包む。


そんな始まりの森の中を、四人の人影が進んでいく。





「にしても、よくあの攻撃を受けて無傷でいられたのう?」





そう言うのは俺の少し前を歩く龍帝だ。


彼女は緑の髪をたなびかせ、和服で身を包んでいた。

その頭には二本の長いツノがあり、彼女がただの人ではないことを象徴している。






「そうよ! あんたの体、どうなってんのよ」





龍帝の話に便乗してきたちびっこいエルフは、シル。

自然のエネルギーを凝縮した球を縦横無尽に操る魔法を使える。






「俺はな、体が丈夫にできてるんだ」






俺は詳しいことは言わず、簡単に説明した。もし鍋蓋であると言って現状敵であるエルフたちに弱点を見つけられでもしたら大惨事だ。






「…………。」






俺の言葉に無口で凛とした男、リンが目で訴えてくる。スラリとした彼の体は、なかなかに鍛え上げられていて、細マッチョという感じだった。





「リン、あまり深く詮索するでないわ」





無言で見つめられてどうしようかと困っていたら、龍帝がリンを俺から離してくれた。





助かった……




あいつもシルと同じで俺に冷たい目線を向けてくるからなぁ






そんなことをため息混じりに考えながらも龍帝の後をついて行っていると、隣にシルの姉、巨乳エルフのシアが擦り寄ってきた。






「領主様ぁ? あの時私を庇ってくれて、ありがとぉ」





何とは言わないが、シアの柔らかい物が俺にぶつけられる。






……な、なんちゅうものを






  彼女は耳元で囁く。





「でも、シルに悪気もないと思うのぉ……あの子はこの森のことになると見境なくなっちうからぁ」






いや、悪気しかないだろ……





そうでなければ、あんな馬鹿みたいな攻撃を俺にしかけてこないはずだ。


普通の人間なら三秒で死んでいる。





だが、シアは俺の嫁(仮)だ! これくらい許してやれないとな!




俺は、出来る限りカッコつけて爽やかに言う。




「分かったよ、別にもう怒っちゃいないから気にするな。未来の嫁よ」





ついでに、少しシアから離れた。



体を寄せてくれるのはものすごく、それこそ発狂するほど嬉しいのだが、俺のメンタルがもちそうになかったのだ。





「そう、これからよろしくお願いしますねぇ」





相変わらずおっとりした表情で、のんびりとシアは言う。



本当にシアとシルは姉妹なのだろうか? 共通点が見当たらない。






「おう! よろしくな、シア!」



「本当に……よろしくお願いしますねぇ」






最後にそう言った彼女はこれまでの雰囲気とは違っていて、どこか悲しそうなイメージを受けた。






「それはどういう……」




「領主、着いたぞ?」






俺がその違和感を問い正そうとした時、前を歩く龍帝がそう言って立ち止まった。






「え? あ、あぁ……って、なんにもないじゃないか」





そう、俺の前にはさっきまでの森の景色となんら変わらないものが広がっていた。



まばらに生える木々、靴の高さ程度の雑草、木の間を過ぎる風の音……






「強いて言うなら、岩が多いってことくらいか?」





かろうじて目印となりそうなところといえば、大きめの岩が複数あることくらいだろうが……






「その通り、ここが我らの住処じゃ」





ここが住処? どう見ても生活できそうなものは何もない。





もしかして地下帝国でもあるのだろうか?



いや、この世界にそんな高度な技術があるとは思えないし……待てよ、魔法か? 魔法を使えばそれくらい出来るのかも……





「……か? おーい、大丈夫か?」




「はっ! いや、すまんすまんボーッとしてた」






いつもの癖で人の話を聞かずに考え事をしていた俺は、覗き込んできた龍帝によって意識を引き戻される。






「で? 何の話だっけ……?」




「ここが住処には見えんじゃろう言う話じゃ」




「あ、あぁ……」






これには同意せざるを得ない。


もし本当にここに住んでいるのなら失礼にあたるかも知れないが、そうも言ってられないくらいなにもなのだ。






すると、俺の反応を見た龍帝からいかにも愉快そうな言葉が返ってきた。






「ハッハッハッ! そう申し訳無さそな顔をするでない。驚くでないぞ?」





そう言って龍帝は、俺の手を握る。その白い手はスベスベで柔らかかったが、少し冷たい。





「え……!?」





その手に引っ張られ、俺は数歩前によろよろと進む……と、目の前に信じられない光景が広がった。





「む……村がある」





さっきまでは何もなかったはずだ、そのはずなのだ。



しかし、確かに俺の前には家があった、道があった、井戸があった……それに人、いやエルフがいた。





「ふっ! 驚いたか? これが妾たちの住処としている場所だ」





龍帝が誇らしげに俺に言う。


しかし、確かにすごい。目の前に来るまで全くその存在に気づけなかったのだから





「どうなってんだ……? さっきまでは確かに」



「無かった、か?」





その言葉に俺はゆっくりと頷く。しかし、その間も目は村から離さない。急に出てきたんだ、いつ消えて無くなるかも知れない。





驚く俺に龍帝は話を続ける。





「これはの? 隠蔽の魔術じゃ」





隠蔽の……そういえばイーストシティのラグダのとこの屋敷で、イチジクたちが見たとか言ってたな?





「隠蔽……それってここまで見えないものなのか?」


「まぁの、ただここの魔術は普通よりちとばかし強力じゃがの」





それはそうだ、村全体を隠せるような魔術が普通に出回っていてはこの世界は成り立たないだろう。





「で? 何でここまで厳重に村を隠してる?」





俺は村のエルフたちの鋭い目線を受けながらも、そこのリーダーである龍帝に聞いてみる。





「ふむ……現領主は前の領主から事情を聞いていないと見えるな」





ん? 事情? そりゃあ前領主の顔も見たことがないのだから、話をしたことがあるわけがない。




「すまん、なりたてなもんでな? 良ければ詳しく教えてくれ」




「そうじゃな……とりあえず、この中で話そうぞ」





そう言って龍帝は前の建物を指差しながらこちらを見た。


その建物は、ほかの家とは違い木造の和風の建築物で、歴史ある屋敷を連想させた。





龍帝のこの服装といい、住む建物といい……元の世界のことを何かと知ってそうだな。





そんなことを思いながらも、俺は龍帝に従ってその屋敷の扉をくぐる。




その中には、広々とした空間があった。椅子はなく、代わりに座布団が敷いてある。






「では領主よ、ここに座ってくれるかの?」





そう言って二つ向き合って並んだ座布団の片方を勧めてくる。





「あぁ、すまないな」





俺がそこにどかっと座ると、リンにお茶を淹れて来させるように頼んだ龍帝が、俺の前に座った。



それに続くように、龍帝の後ろに控えるようにシルとシアが腰を下ろす。





そうして互いに話す準備が整うと、まずは龍帝が口を開いた。






「さて、なぜこんな厳重に隠蔽しているのか、じゃったな……」






俺は黙って首を上下に振る。






「それは、妾を外敵から守るためじゃ」





龍帝を守るため……?





龍帝は、案外怖がりなのだろうか?


龍帝の強さはその威圧感から漂ってくるし、龍帝以上の強さを持った敵などそうそういるものではないだろう。



気になった俺は、すぐに尋ねる。



「なぜだ? 龍帝は強いだろ、そんな龍帝が隠れなければいけない理由があるのか?」




「あぁ、あるとも」





それから彼女は、それが当たり前のように、何のためらいもなく言ったのだった。










「妾が死ねば、世界が滅ぶ」








…………は? 世界が滅ぶ??








「それはどんな冗談だ?」


「それが冗談ではないのじゃ」





意味がわからない。龍帝が死ねば世界が滅ぶなら、確かに龍帝をここまで厳重に守る必要があるだろう……が、龍帝の死と世界の滅亡、どう言った関係性があるんだ?






「妾は今、目には見えぬが常に魔法を使っておる……それも妾にしか使えぬ魔法じゃ」





黙って説明を聞く俺に、龍帝は続ける。





「その魔法で、お主ら人間がSS級と呼ぶ危険生物を封印しておるのじゃ」






SS級……以前、イチジクに聞いたことがある。


確か大陸や世界規模での破壊が可能な生物だったか?





龍帝が死ぬことはすなわちそれがそれが解放になるってことか……確かにやばいな。






「なるほどな……龍帝が死ねばその危険生物が解き放たれて世界が滅ぶと」






俺の言葉に龍帝が同意して頷く。





こりゃまたヤバイ話に巻き込まれたものだ……






「領主、この森がなんと呼ばれておるか知っておろう?」



「始まりの森……だろ?」



「そうじゃここは始まりの森、この森から全てが始まったとされておる」






ほう、名前の通りというわけか……





「そして、始まりの森が出来てから今まで、ずっと生き続ける生物が存在するのじゃ」




「それがSS級の生物というわけか……」






 そこで頷く龍帝を見て、考える。





 言葉通りの意味なら、世界の文明はこの森から始まったことになる。そして、そんなはるか昔から存在しているのが龍帝が封印していると言うSS級の生物というわけだ。





「で、今そいつはどこにいるんだ?」






すると、彼女は衝撃的なセリフを吐いた。







「それは……すでに見てきたじゃろう?」







……は? すでに見てきた? 確かにここに到着するまで、森の中で色々な魔物に遭遇した……が、それほど脅威になったものはいなかったように思う。









「すまん、もう少しわかりやすく説明してくれ」




「では端的に言おう。そもそも勘違いしているようだが、それは魔物ではない」




「……? 魔物じゃないのか?」




「ああ……その生物はな?」






龍帝が一旦息を吸う。



空気が変わったのがわかる。



そして、彼女は言うのだった。








「始まりの森じゃ」



「……は?」





始まりの森が世界を滅ぼす生物? 何かのとんちか?






「それはどういう……?」




未だに要領を得ない俺は、龍帝に事の真相を聞こうともう一度尋ねると、今度はより丁寧に説明してくれる。






「始まりの森ができた頃、一緒に存在した生物がおる……それがSS級とされる存在、『カオス』じゃ」






事の重大さに真剣になって聞く俺に、龍帝は容赦なく現実を突きつける。







「カオスは、生まれた当初は別の生き物だったらしいのじゃが、死んだ後、奴の魂は別の体を手に入れた……」






死んだ魂が体を?






イメージとしては、電池をラジコンにはめ込むみたいなもんか?




つまり、魂は電池……じゃあ体となるラジコンは……






「まさか、その体が始まりの森なのか!?」






「その通りじゃ」



「……ちょっと整理させてくれ」





時系列的に考えるとこうか?



まず、この始まりの森と一緒に一匹の生物が生まれた。

そして、生物が死ぬと、その魂がこの始まりの森に吸収されたと。

その始まりの森自体が命をもち、今ではSS級の生物扱いを受けている。

それを封印しているのが、龍帝の魔法というわけだ。





そこまで考えて、一つの引っ掛かりを覚えた俺は、龍帝の目を見る。







「そもそも、魂を森が吸収するなんてこと、あり得るのか? この世界で魂は、経験値として近くにいる人やら物に与えられるんじゃないのか?」




 俺の記憶が正しければ、それであっているはずなのだが……



 すると、龍帝は目を細めた。





「では、近くに人や物がいなかったらどうなるんじゃ……?」




「え……そりゃあ……どうなるんだ?」




「普通であれば、その場合魂は蒸発して無くなるのじゃ」





「……まて、なら余計におかしいじゃないか。魂が森に吸収されるなんて」





「そう、普通ならおかしいんじゃ……が、どんなものにも例外が存在する」





 どういうことだ?




 龍帝はゆっくりと口を開く。






「どうも始まりの森の命となった生物、とんでもなく例外的な魂じゃったようなのじゃ。あまりに強すぎた魂は蒸発できなかったらしいの」






「なるほどな……いろいろ疑問は残るが……」






 一旦無理にでも納得した俺は、話を続ける。






「……だが、そもそもただの森がSS級の生物になることなんか出来るのか?」






正直、たかが森一つに世界を滅ぼすような力がもたらされるとは考えにくい。






すると、龍帝は一度目を閉じ、もう一度ゆっくりと開いた。






「うむ……この森、実はとんでもない高レベルなのじゃ」





「……は? なぜだ?」





「生物となった奴はこの森で死んだ魔物たちの経験値を根こそぎ持っていくからのぉ」




「嘘だろ……」




死んだ魔物たちの経験値を?





いや、言われてみればおかしな話ではない。経験値は、近くの物や者へともたらされると聞いた。


魔物はレベルという概念がないと聞いたが、カオスが魔物ではない生物だとしたら、魔物を倒した際にもたらされる経験値が森という生物に吸収されるのは自然なことだ。






しっかし……龍帝はカオスがこの世界の始まりの頃からいたと言った。




つまり……現時点でそのカオスという生物はとてつもない経験値を得ていて、それに伴って想像もできないほど高レベルになっていることがわかる。





彼女は続ける。






「それを抑える存在が、妾の一族なのじゃ。妾の先祖、二代目龍帝はこの危機に対抗すべく我が一族究極の魔法を生み出した」





「それが今も龍帝が使っている封印魔法というわけか……」





「そうじゃ、魔法は魔術と違って感覚に頼る部分が大きい、よって同じ遺伝子を持つ我が一族しか使えん」






それで、その唯一の対抗手段である龍帝をどんな手を使ってでも守ろうとしているわけか……






「じゃが、最近問題が生じておる……」





「問題……?」








俺に疑問に、彼女は躊躇いもせず言った。






「あぁ、正直このままだと数十日後には、妾の体がもたずに……妾は死ぬ」






龍帝が……死ぬ!? それはつまりこの世の終わりを意味するはずだ!






「そ、それどういう……」






その時だ、龍帝の後ろに控える暴力エルフ、シルが痺れを切らしたように立ち上がって、こちらを見下ろしながら、叫んだ。






「全部、あんたたちのせいでしょ!! あんたたちペイジブルの奴らが森に来ては魔物を狩るから……奴の、カオスのレベルが……」






そこで、龍帝が殺気を出しながら、シルが静止するように片手を上げた。






先ほどまで叫び声がこだましていた部屋に訪れる静寂……それほどまでに龍帝は覇気を帯びていた。






ペイジブルの住人のせい……確かにその通りなのだろう。


カオスは、森で死んだ魔物の経験値を持っていく……


つまり、食料目当てに森に入って魔物を狩れば、それだけカオスは強くなっていく。







と、なれば龍帝もそれだけ強力な封印魔法を常に施す必要がある……恐らくそれには膨大な魔力を消費するのだろう。






思考を深める俺の前で、龍帝は一つため息をつきながら俺の方をみる。





「じゃが、シルの言う通りなのじゃ。ペイジブルの初代領主に受け継ぐようにも求めたことなのじゃが、改めて頼む。始まりの森を立ち入り禁止の場所としてくれんか?」






なるほどな、エルフの事情は全て分かった。







「はぁ……これも、トップの仕事かなぁ」







一つため息をついて、あぐらをかいていた足をほぐす。





そして、両足を両腿の下に滑り込ませた。




俺は膝を折り曲げ正座をすると、ゆっくりと上半身を傾かせ……




そのまま土下座した。






そして、棒読みで言葉を紡ぐ。




「あーー、はい、承りました」





床しか見えない俺に、驚きの声が聞こえる。






「おいおい、ものすごい棒読みじゃな? しかし、なぜ領主が土下座までして謝っておるのじゃ? 悪いのは少なくとも前領主じゃろ」







「うん。やっぱりそうだよな、俺全然悪くないよな!」




一応立場上謝ったが、謝る必要はないと俺も思っていたところだ。



開き直った俺は、頭を上げて改めて告げる。





「まぁ、これからは始まりの森の立ち入り禁止を徹底しよう……食料もどうにかして調達するし、もうここに来てエルフ達と戦うことなんて無いように努める」





ここにきた主な目的は二つ。一つはエルフに食料をここで採取することの許可をもらう事。もう一つは、ペイジブルの町を襲うのをエルフにやめてもらうことだ。






一つ目の食料調達の許可は、得られないだろうし、そんなカオスのレベルを上げるようなことするべきではない。




ニつ目のエルフ襲撃の件も、俺たちがこの森を襲うことがなくなれば自動的になくなるだろう。





つまりは、今ここに来て俺が出来ることは全てやったのだ。


後は、町に戻って獣人たちに説明するだけだ。








「いや、待て領主」






顔を起こして、これからの事を考えていると、龍帝に呼び止められた。





「なんだ?」



「今、食料を調達……と言ったかの?」



「ん? そうだ、ペイジブルは食料難が続いているからな」






俺のその言葉を聞いて、龍帝が不思議そうな顔をする。


後ろに控えている二人も、眉を顰めてよく分かっていない表情をした。






……どうした? 何かおかしいことを言ったか?






恐らく彼らと同じく、疑問という文字を顔に書いた俺に、龍帝が言う。






「なぜじゃ? 食料なら毎日ちゃんと町に献上しとるじゃろ?」






…………は?






「もしかして、それも前領主に聞いとらんのか?」



「ああ、領主には会ったことないからな」






にしても、献上とはどういう意味だ?







「そうじゃったのか……では、説明しようかの」





そう言って彼女は続ける。





「この森で魔物を狩る事は控えたほうがいいとは言ったじゃろ?」





カオスの話だろう。頷く俺を確認し、龍帝は話を再開した。






「じゃがそんな事を言っていては、全ての栄養分がこの始まりの森に吸収されて、なんの作物も育たんペイジブルで生きていくことは不可能じゃ」





全ての栄養分が始まりの森に!?




そんな話初めて聞いたが、確かにペイジブルではほとんどなんの作物も育てていなかった……それが食料不足の原因にもなったわけだし。





「じゃから、妾たちは封印魔法に影響の出ないようにしながら、魔物を狩って毎日ペイジブルに献上しておるのじゃ」




……は!?






俺は慌てて尋ねる。






「それは誰に……だ!?」






こんな重要な話、なんで町の人々は知らなかったんだ……



そんな事を思いながらも、俺は必死になって聞く。





「誰に……というより、妾たちはある場所にその食料を置く、そしてその場所を唯一知る『領主』がそれを取りに来るという流れじゃ」




……ってことは、前の領主せいか!!





前領主が俺にその場所を伝えることなく消えやがったから!





他の人に伝えていないのは、龍帝曰く、領主以外の人間にも知られては、欲張りな人々がこっそりそれらを盗む可能性があると思ってのことらしい。





「じゃがおかしいの……確かに毎日それらの食料は無くなっておったんじゃが」



「そりゃ、魔物に食べられたからとかじゃないのか?」



「うむ……一度試してみるか」







こうしてあらかたの事情を聞いた俺は、龍帝の屋敷を出た。




龍帝、シル、シア、リンの四人も一緒にだ。




「よいしょっと」








今日の分の大量の食料を荷車に乗せた俺たちはエルフの村を出る。


村のエルフたちは終始俺の事を睨んでいたが、むしろご褒美として受け取っておいた。







そうして、それからしばらく森の中を歩いた。



さっきの重い話の後で、皆無言だったが、そこに龍帝の声が聞こえる。




「ここじゃ、目印はあの巨大な樹木。領主はちゃんと場所を覚えておくがよい」




そこは少し開けた空間だった。

その中心には天にも届きそうな大きな木がそびえ立っている。




場所としては、エルフの村とペイジブルのちょうど中間に位置するだろう。







「了解した、それで? しばらくここに置いて様子を見る、ということでいいんだよな?」


「あぁ、食料泥棒の犯人を突き止めてやろうぞ」





そう言ってニィッと笑う彼女は、年甲斐もなくウブな少女のようだった。




それから大量の食料をその開けた場所に置いて、俺たちは木陰に隠れる。






「本当にこんなんで出てくるのか?」


「まぁ、昼の間に正体を現す可能性はかなり低いじゃろ」


「…………。」


「だよなぁ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る