第27話



「じゃあ、目的地は変わらないらしいし、さっさと行くか」





俺はそれだけ言うとまた足を前に進める。どう転んでもペイジブルに行かなければならないのなら、もう腹をくくろうと決意したのだ。





ホント、俺が領主だなんて、神様も王様も明らかに人選ミスだよなぁ……






ヒラヒラと目の前を舞う小さな蝶を見ながら俺は取り留めもないことを考える。




すると、進み始めた俺の後ろで女同士の会話が聞こえた。






「イチジク、シルドーはどこぞの聖人なのか? 私のような赤の他人の手助けをしたがるなんて」



「いえ……聖人、などと高尚なものではないことは断言できます。今回の件についてはマスターが現実逃避するために協力を申し出たのですから」




「ほう……そうだったのか」




「しかし、善行を成すのもまた真実。正直、マスターは何かに無理矢理善行をやらされているのではないかと、最近は考えています」




「何かに無理矢理……? どういうことだ」




「はい。マスターとはそれなりに一緒にいますが、少なくとも自ら善行をしようとすると性格ではありません」




「なのに、善行まがいなことをしていると……」



「その通りです」



「なるほど、よく分からない男だ」





こいつら、好き放題言ってくれる。しかし、イチジクはだいたい真実に近いな……





 閻魔様に命令されて善行を仕方なくしているなどと話す気がさらさらない俺は、フェデルタとイチジクを急かす。





「ほら、さっさと行くぞ。今日こそは柔らかい布団で寝るんだから」




急かす俺の声に誘われてフェデルタが俺の横に並ぶ。歩くたびにガチャガチャと音を立てていて歩きづらそうだ。




この鎧自体が肉体みたいなものなのだろうか? いや、でも声はやはり鎧の奥から聞こえてくるしな……




横目にフェデルタを見ていると、本人が声をかけてきた。





「シルドー、そういえば私のことばかり話していたが、お前たちはどこに向かう予定なのだ?」



「え、あぁ……その始まりの森の手前にある町、ペイジブルってところだ」



「そこでマスターは領主をする予定です」






イチジクが余計なことを言ってくる。別にペイジブルを治められるなら、よそ者である俺より、その地元の人が領主すべきだと思っているのだ。




「ゆったりと美少女に囲まれて過ごせたら、土地も名声もいらんのだけど……」




ついつい本音が出てしまうが、それも仕方ないだろう。流れのままに身を任せていたらこうなったのだから……


俺は歩き通しで少し汗ばんできたのを感じて、レザージャケットのボタンを上から二つ分外した。





「領主とは驚いた。二人は貴族か何かなのか?」


「いんや、たまたま流れでそうなっただけだ。俺だってこんな行商人の一人ともすれ違わないような辺境に行きたかないしな」




すると、それを聞いたイチジクが顎に手を当ててその場に立ち止まった。






「……? イチジク、どうかしたのか?」






俺とフェデルタもそれにつられるようにして足を止めてイチジクの方を向く。





「いえ……ただ、確かに道中あまりにもひとけがなさすぎた気がするなと思いまして」


「いや、イスト帝国の北側はほとんど交易のない独立した町なんだろ? ならこれが普通じゃないのか?」




北側はなんの資源もなく、ほとんど交易をしていないと聞いたはずだが……





彼女はこう続けた。




「それにしても一人もすれ違わないというのは異常です」




「……確かに」



 そうなのかもしれない……が、正直どんなものかよく分からないから、言われてみれば感じる程度の違和感だ。





 ファデルタなら何か知っているかと顔を向けるが、彼女は首をふるふると横に振った。





「ファデルタも特に何も知らないか……」





ここまで人がいないのは気になるが、その原因がわからない以上、こんなところで立ち止まってもいられないだろう。






「まぁ、考えても仕方ない。何かしら情報が入ってくるかもしれないし、早く村を探してあったかい宿屋で寝るぞ」





半分は情報収集、半分は柔らかい布団の上で寝たかったというのが心情だ。フェデルタは護衛の騎士だとでも言えば問題ないだろう。






「フェデルタもいいよな?」



「もちろん異論はないが……村に入るというのは無理かもしれんぞ? なにせ、私は魔族なのだからな」




「えぇ……お前、そこまで嫌われてるのかよ」




 魔族というのは、不便なものだ。そんなことを考えながら、思ったことを正直に話す。





「む……まぁ、事実だな」





 ファデルタの表情は鎧で見えないが、声のトーンの下がり具合から、明らかに落ち込んだのが分かった。




俺はゆっくりと右手を上にあげて、少し落ち込んだ口調になった彼女の肩を叩く。





「まぁ、大丈夫だろ。それに、もし入れてもらえなくても今夜はベッドを諦めて逃げればいいだけだ」





 さすがの鍋蓋でも村人数人から逃げるくらいできるだろう。




 ……多分。




それを聞いたフェデルタは、俺の顔を見るとその後でイチジクの方に目線を移した。






「マスターはこういう男なんですよ」





「……?」





 なんだ、何かおかしなことを言ったか? 拒絶されてまでわざわざ泊まろうとは思えないんだが。

 まさか、俺の逃げ足じゃ捕まるとでも思っているのだろうか?




「おい、俺だって逃げることくらいできるぞ?」




 イチジクのセリフに少し違和感を感じていると、ファデルタの黒鎧の内側から声が聞こえた。





「いや、違うのだ」



「……? なら、何が言いたいんだよ」



「いや、な? 私を見捨てるのではなく、一緒に逃げてくれるのかと思ってな」





 あぁ……ファデルタからすれば、そういう風にも受け取れるのか。





 特にそんな深く考えもせず言ったセリフだっただけに、少しの気まずさを感じる。


 ここは、正しく訂正しておこう。





「そりゃあ、フェデルタが深く考えすぎだ」





 その言葉に、特に返事をすることもなくファデルタはアンの方を向いた。





「イチジクは、シルドーに付き従っているようだが、何か理由があるのか?」





 おい、無視かよ……




 イチジクは、前を向いたまま答える。





「マスターは私のマスターですから。それだけの理由です」





……これは、喜ぶべきなのか?






「はぁ……まあとにかく、ファデルタ、お前のために一緒にいてやるんだ。文句は無いだろ?」





 今の俺たちがファデルタと一緒にいるメリットは、ファデルタが始まりの森を目指す時点でもはやなくなった。しかし、こうして独り身のよしみから一緒にいてやるんだ。我が善行に感謝してほしい。





 すると、しばらく黙っていたフェデルタが噴き出した。





「クッ、ハッハッハッ! ……いや、すまない。そうだな、うむ、ありがとう」





フェデルタの笑い声は初めて聞いたが、顔も見えない黒い鎧を初めて可愛いと思える程度には可愛らしかった。





「はぁ……何笑ってんだか、さっさと行くぞ」





こうして俺たちは次の村を目指してまた足を進め出したのだった。








そして、日が山の後ろに隠れ始め、あたり一帯の影を伸ばす頃、俺たちはようやく小さな村に到着した。道に沿って歩いていると途中に看板があり、示されるがまま進むとこの村に着いたのだった。




「いや〜なんとかついてよかったな」


「助かった……」


「二人ともしっかりしてください」



俺は背骨を曲げながら両手を膝の上に乗せて、呼吸を整える。





目の前の村には蔦が絡まった壁や、先が少し崩れた煙突、お世辞にも豊作とは言えない田畑が広がっていた。


横を見ると、フェデルタも表情は見えないが辛そうにしていた。が、イチジクは……





俺は、シャンと立ったままのイチジクを見て、文句を垂れる。





「イチジク……お前のそのスペックは一体なんなんだよ」


「この程度、私の前の持ち主なら平然としていましたよ?」





前の持ち主、イチジクが前に憑いていた鞘の持ち主のことだろう。確かレベルは90超えだったはずだ、その次元にまで達すれば余裕なのかもしれんが……





「俺は防御力以外は一般人なんだって知ってるだろ……」





俺の言い訳に呆れたようなため息をつきながら、イチジクは話を続ける。





「まぁ、マスターの割にはよく頑張りました。その甲斐あってここまでかなり早いペースで来れましたから」




そう、俺たちはかなりペイジブルに近づきつつあった。本来ならば十日と数日はかかるであろう道のりを俺たちはその三分の二の時間で来たのだ。





ここはペイジブルの少し南にある山の、イーストシティ側のふもと。つまりは前にそびえるこの山さえ越えればペイジブル、ならびに始まりの森に着くというところまで来ていたのだ。





「よし、とりあえず日の沈みきる前に宿屋を探すぞ」




村といっても少しボロい家が数十件と、田畑があるだけの話だ。宿屋があれば一瞬で見つけられるだろう。





「あのぉ〜〜」





そう思って歩き始めた俺たちの元に一人の老人が歩み寄ってきた。両手を上下に合わせて擦り合わせている。


顔には笑顔を貼り付けており、抜けた歯の部分がやけに目立った。





 この村の住人か? 明らかに胡散臭いが……





 彼は目の前まで来ると、口を開いた。





「これはこれは、新しい冒険者のお方ですね? お宿をお探しでしたらどうぞ、うちに来てください」






……ん? 冒険者?


残念ながら、そんな格好のいいものではない。





「いや、イーストシティから来た旅の者だ」





「旅の方、ですか?」




その言葉に店主は少し驚いたように目を開いた。しかし、気にするほどでもないと俺は続ける。





「ああ、ちょうど宿屋を探してたんだ。今日一日世話になろう……二人ともいいよな?」





俺が振り返りながら二人を見ると、二人は同時に同意の意を示した。





「というわけだ、よろしく頼む」




「ありがとうございます。ではこちらへ……」






そう言って宿屋の主人と思われるその男性は、その姿勢のままくるりと反転して村の中を歩き出した。





 よかった、ファデルタの正体には気づかなかったようだ。




イチジクとファデルタ二人に目配せして、俺たちも置いていかれまいと再び歩き始める。もはや一歩も動けないくらいヘトヘトだったが、不思議なもので、もうすぐゆっくり出来ると思うと自然と足が前に進んだ。





しっかし、見るからに廃れた場所だな……

村の入り口から見ただけでもその廃れ具合は分かったが、中に入ってみると余計に顕著だった。





夕日に照らされた砕けたレンガや、壊れた扉があちこちで目につく。





うーん、聞いても失礼にならないか? いや、俺が治めることになる町の隣村なんだ。やはり情報は大切になってくるだろう。





そう考えた俺は躊躇いがちに前を歩く男に話しかける。




「店主、聞きにくいんだが、この村はなんでこんなに……えーっと」



「廃れているか、ですか?」






そう言いながら男はこちらに顔を向ける。



うっ……やっぱり聞いちゃまずかったか?

そう思いながらも今更引けないと、俺は頷く。



それに「気にしないでください」と笑いながら、その男は続けた。





「少し前までは多少食料には困りながらも、平凡でのんびりした村だったんですよ? それが、最近になってみんな魔物を恐れて逃げ出したんです」





店主によると、この村とペイジブルの間にそびえる山の様子が最近どうもおかしいらしい。そこに住む魔物たちが凶暴化し始めて、村にまで降りてくるようになったそうだ。






「そして、その結果今この村に残っているのは、私たち数人の村人と、魔物を倒した賞金目当てで山に登っている冒険者たちだけなのです」





この異常事態に王都の方でもこの山の魔物の討伐クエストが出ているらしく、ここまでくるのはその討伐依頼を受けた冒険者くらいのものらしい。その冒険者はこの村を拠点としていて、店主はその滞在費でなんとか生活しているようだ。






そんな話聞いてないぞ……ヴェリテ王め、俺が嫌がると踏んでわざと言わなかったな!




一人遥か遠くにいる王様に悪態をつきながらも、会話を続ける。






「それで、俺たちを冒険者と間違えたのか」


「はい、それに隣の鎧の方は見るからに戦士のようでしたので」





たしかにフェデルタは全身鎧の騎士だ。素性を知らなければ傭兵にでも見えるだろう。






……ほんとは、馬を探してるデュラハンなんだけどなぁ





そうして話に区切りがついた時、ちょうど宿屋らしいところにたどり着いた。





そこには明かりがついており、明らかに他の家々とは違って清潔にされていた。二階建てみたいで、そこそこの広さがある。




「ここが、私の経営する宿でございます。見窄らしい宿で申し訳ございません」





相変わらず少しニヤついた顔を貼り付けて、俺たちに向き合う。





「いや、十分だ……じゃあ一部屋頼めるか?」





俺はさも当たり前のように店主にそう告げた。事実、何もおかしなことは言っていない





……はずなのだが、それを拒む存在が現れる。さっきまで一言も発さなかったイチジクだ。






「マスター? お金に余裕はあります。ふた部屋にすべきでは?」



「あぁ、なるほど。イチジクは一人部屋がいいんだな?」



「いえ、普通に考えて男女で分けるべきかと? もしくは私とマスターで一部屋……」



「おいおい、これから俺とフェデルタは楽しいことをするんだぞ? イチジクは何を腑抜けたことを言ってるんだ?」



「え、な、な、何を言ってるんだ!? 私はそんなことする気はないぞ!」



「と、当たり前のことを言われていますが?」



「……という事だ店主、一部屋頼むよ」



「マスター? 本当に脳みそがクルミなんですか? 今の話から何故そうなるのです?」



「バカだなぁ、フェデルタがあんなことを言ったのは、照れ隠しに決まってるだろ?」



「いや、訳がわからんぞ!」



「心配するなって! 優しくしてやるから。なんなら、鎧のままでも大丈夫……」



「何を言ってるんだ!? そのときは鎧は脱ぎ……ハッ!」



「店主、一部屋でいいです」



「お、なんだイチジク? ようやく……」



「しかし、掃除道具入れを借りさせていただけますか?」



「おい、まさか俺にそこには入れとかいわないよな?」



「えぇ、まさか。マスターを木っ端微塵にした後、その肉片を掃除するために使うんですよ」



「そんなこと許さ「誠に申し訳ございません」……ん?」







俺とイチジクがまた無駄な会話をしていたとき、前の店主がそれを止めるように口を挟んできた。




なんだ? 俺はまだやり足りないんだが……




「ただ今、冒険者の方々でほとんどの部屋がうまっておりまして、大部屋が一つしか空いてないのです」




「そうかそうか、それなら仕方がないな。うん、仕方がない」


「ハァ……こればかりは仕方ありませんね」





どうやらイチジクも折れたらしく、メイド服の袖から硬貨を数枚取り出した。



それを見た店主は、貼り付けていた笑みのシワを一層深くさせ、口を開いた。



「ありがとうございます。三人分、朝晩ご飯がついて一万五千ヤンになります。部屋には洗浄の魔石や明かりの魔石がありますのでご自由にお使いください」



日本円にすると一人五千円ってところか? こっちの世界の金銭感覚は元の世界とほとんど似たところがある。

経営が厳しい割には安価じゃないか?



「では、こちらで」



そう言ってイチジクが包みから取り出した硬貨数枚を店主に渡す。



「ありがとうございます。では、こちらが部屋の鍵となります。こちらへどうぞ……」





そうして歩き出そうとしたとき、となりに立っていたフェデルタがイチジクに話しかけていた。






小声で聞こえづらかったが、「なんなら野宿でも……」や「お金というものは……」などというワードから、お金を払わなかったことを詫びているようだった。






そういや、魔族なんだしフェデルタが人族のお金なんて持ってるわけないよな……





そんなことを思いながらも、どうなるかと様子を見ていると、イチジクが一言




「マスターに付き合っていただけているお礼です」





というだけで、会話は終了した。



もうちょっと別の言い方がなかったか……?と思わないでもないが、終わり良ければすべて良しだ。




こうして、二階の一番奥の部屋まで連れてこられた俺たちは、今晩過ごすことになろう部屋の前に立った。


廊下の床は歩くたびにギシ……ギシ……と音を立てたが、古びたというよりは、レトロと表現した方が適切なような気がした。






では、ごたいめーんと、扉を勢いよく開けた俺は、思わず感嘆する。






「おぉ……ひっさしぶりのベッドだ!」





そして、それだけを言い残すと、日中歩き通しだったことによる体の汚れなど気にせずに、俺はベッドに直行した。





バフンッ……




思い切りダイブすると、俺の全てをベッドが包み込んでくれた。優しい暖かさを持つそれは、疲れ切った足腰を労ってくれるようだった。




……あぁ、数日会わなかっただけでこんなに恋しくなるのか。離れてみて初めてわかることがあるんだな……





ベッドに横たわったまま、のろけた声を出す。




「俺、ベッドと結婚することにする」



「マスター、バカなこと言ってないでこちらに来てください」




俺が未来の奥さんに頬ずりしていると、後ろからイチジクが声をかけてきた。



なんだ? と顔だけ後ろに向けると、イチジクが握りこぶしほどの水色の魔石を持って立っていた。




「この宿備え付けの洗浄の魔石です。これで身も蓋も綺麗にできます」


「おい、身も蓋も無いみたいな言い方するなよ」





イチジクに先に洗うように伝えたが、どうやら主人よりも先に綺麗になることは許せないらしく、無理やり体を起こされた。







「お前、変なところで律儀だよな……」



そんなことをつぶやく俺を、キラキラした何かが覆う。恐らく洗浄の魔石に魔力を流し、その効果を発動させたのだろう。






「本当にこれで綺麗になってるのか?」





正直、もともと汚れがそれほどひどくなかったせいか、汚れが落ちているような気はしない。





彼女は言う。




「はい、服だけではなく細胞の隅から隅に至るまで綺麗になっているはずです」



マジかよ……改めてすげぇな



「じゃあ次は……って、フェデルタは洗う必要あるのか?」



フェデルタの前身は鎧でできている。汚れなどほとんどつかないだろう。と思ったが、




「できるなら使わせていただきたい。中身はあなた方と変わらないのでな……」




と、申し訳なさそうにフェデルタは言った。


やはり、デュラハンさんにも中身はあるらしい。




俺はここぞとばかりにフェデルタに提案する。




「ほう……じゃあとりあえずその兜……メットを脱いでみてはどうかな?」


「マスター手つきがいやらしいです……ですが、確かに部屋では鎧は外すべきかと」



何をイチジクは失礼な! そんなことを思いながらも、賛成してくれたから許してやることにする。




俺は興味津々という面持ちでフェデルタの方を見た。声からして、若い女であることは間違いない、期待してもいいだろう。






が……そう思っていた俺にフェデルタから残酷な言葉が告げられる。






「すまぬ、 鎧は、メットは……えーっと、その……取れないのだ!」



「な、なんでだよ! 中身は俺たちと似たようなもんなんだろ?」





メットなんて首元から上にあげればいいだけの話のようにも思えるが……?






「そういうものなのだ」






この一言で完全に俺は詰んだ。本人が無理だと言っているものを無理やり剥ぎ取る勇気などない。






「くそ……今回はひいてやる……」






そんなことを言っている間にフェデルタは魔石を受け取り、鎧ごと洗浄を済ませていた。本人的にはそれでサッパリしたようで、思い切り伸びをしている。





そうして身を清めた俺たちは、一階に降りて店主の作った料理を食した。

大したものはなかったが、それは事前に知っていたことだし問題ではない。それに、空腹が最高の調味料とはよく言ったものだ。どんなものでも空腹を訴えていた腹にはご馳走だった。





「いやぁー、美味かった」


「ですが、やはり作り手が少ないからか、食糧難ではあるようですね」


「こんな美味しいものを食べたのは久しぶりで、感動した!」




上から俺、イチジク、フェデルタの感想だ。食事の際なら、フェデルタの素顔も拝めるだろうと思っていたが、思いのほかガードが固かった。俺がスッと目を向けた瞬間、いつでもメットを装着していたのだ。





……どうやって食べてるんだか。まぁ今はいい、いつか必ずその素顔を見てやるからな!




そんな俺の大志を残し、俺たちはまた二階の奥にある部屋に戻っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る