第17話


最後までこいつは薄ら笑いを浮かべてるな……俺はもう迷うことなく刀を下ろした。





そうして、ヘイトの身体まで残り数センチに迫った刹那……






落ち着いた声が聞こえた。






「少し、待ってくださいませんか?」




それは甘く、優しい男の声だった。




なんだ……?



俺はその状態、つまりはいつでもヘイトを殺せる姿勢のまま声のした方を見る。



そこには騎士団の一人がいた。






金髪で、騎士団特有の青と白の鎧、魔術使いなのか人の大きさほどの杖を持っている。



俺はイケメンが嫌いなんだが……?



少しそばかすの見えるその顔は、かっこかわいいと言った感じだろうか。とにかく俺の嫌いな人種だった。





「なんだ、お前? それ以上近づくとすぐにこいつを刺すぞ?」





言うなれば人質だ。動けばこいつを殺すと言っているのだ。





別にこのまま無視して刺しても良かったのだが、一応この男の話を聞いておくことにする。





『マスター、やはり甘いですね』




うるさい、黙ってろ……





それを聞いたイケメンは少しおどけたふうに言った。






「それは困ります。彼……『虫使いのヘイト』は、一応私たちの仲間ですから」






一応……だと? こいつ、さっき門から出てきたうちの一人だよな……まぁ、そんなことはどうでもいい。





「それで、結局お前の目的はなんなんだ?」





俺は今、殺すべき相手が目の前にいるのだ。要件は早く伝えてほしい。





「だから、いったでしょう? 私はその男の身柄を確保したいのですよ」





つまり、一応の仲間とやらを助けにきたということか。





「すまんがそれは無理だ。俺に面倒をかけて、アンを襲うような輩は放っておけないからな」





「勿論タダでとは言いません。この度は私たち騎士団の一団が大変失礼なことをしましたから」





そんなことを言いながら頭を下げた。





『イチジク、こいつから殺意は?』


『まったくありません』





この状態で無いか……なら信じてもいいのか……?





「よし、ならとりあえず今自警団と戦ってる騎士団をお前たちで取り押さえてくれ」






この場における最善手……そう信じて言ってみる。





さぁ、どう出る?







そう思った俺の耳に、なんの抵抗もなく優男の声が飛びこんできた。





「承知しました。ガレットいますか?」



「はっ! お呼びでしょうか隊長」




イケメン優男の声に、どこからか利発そうな女性の反応する声が聞こえる。





『魔術です、通話魔術をここまで簡単に使うとは、この男なかなかやります』





『なるほど、電話みたいなものか』



……やっぱり魔術使いか、それに今隊長って言ってたよな? こいつ、雰囲気が他と違うと思っていたが、後から出てきた騎士団の隊長なのか?





彼は続ける。





「我が第三騎士団の全力を持って、第七騎士団を取り押さえてください」








本当にこれで止まるのか……?








すると、さっき城から出てきて整列したまま動かなかった騎士団の面々が、突然動き始めた。






「すごい統率力だな……」







そして命令を受けた彼らは、一糸乱れぬ動きで次々にヘイトの配下を捕らえ始めたのだ。






すげぇ、マジで一瞬じゃないか……






苦戦していた相手が一瞬で取り押さえられる姿を見て一人感心していると、優男が声をかけてきた。





「これで、その男を渡してくれますか?」





まぁ、とりあえず安全にはなったわけだし、約束は約束だしな……





俺は、眉をひそめて下にいるヘイトの方を見る。


彼は、まだニヤついていた。






「くくっ、これはこれは第三騎士団隊長……ご機嫌麗しゅうです」






この虫使いのです野郎を引き渡すのは正直気がひけるが、仕方あるまい……





俺は、目をヘイトから例の優男にやる。





「分かったよ、こいつを渡そう……しかし、ちゃんとこいつに見合った罰を与えてくれるんだよな?」



「はい、約束しましょう」






そう言うと隊長らしい優男は、ヘイトに向かって呪文を唱え始めた。恐らく拘束系の魔術だろう。




足元のヘイトを見ると、彼はニヤけた顔を晒し続けたまま、妙なことを言い始めた。





「貴方……私が捕まれば、後悔しますよ?」




「後悔? するわけないだろ」





 俺がそう突き放すと、彼は何も抵抗せず……いや、出来なかったのかもしれない。男は眠り始めた。





「あなた、も……じ、ごく……で……す」




そんなセリフを最後に。




「……今、こいつ……」





いや、きっと聞き間違いだろう。こちらの世界の人間が、知ってるわけないからな。






俺は、思考を切り替える。





さて、これで俺もお仕事完了か……





刀を鞘にしまう。







「じゃあ、これから俺達を王城まで連れて行ってくれるのか?」




俺は優男に尋ねる。もしこのまま案内をしてくれるのなら大分楽になるのだが……




「ええ、もちろんお供させていただきます」




そうは言ってもすぐそこですが、と続けた。




よし、ならとりあえず問題ないだろう。





「助かる、詳しいことは向こうにいる自警団のリーダーに聞いてくれ」




それだけ言って、アンのところに戻ろうと、くるりと後ろを見た。



あぁ、いたいた……こっちに駆け寄ってくれてるな




自ずと俺の足もアンの方に進む。









しかし……歩き始めてすぐ、突然優男の大声が聞こえた。その声は今までのような余裕のある物言いではない。






「ガレット! やめなさい!! 彼は敵ではない!」


『マスター! 後方、殺気です!』





重ねてイチジクの声も聞こえる。








なんだと……!?







俺は身体を後ろに向けようとするが、間に合わない。辛うじて誰かが俺の首を狙って剣を振り下ろそうとしているのが分かった。






くそっ! 敵はいなくなったと思って完全に油断した!


 嘆くとともに、両足に力を込めて踏ん張る。








そして……






ガンッッツ……







硬いものと硬いものがぶつかる音が辺りに響く。









それに続いて……








「はぁ……俺だって痛いんだぞ?」





誰もが死んだと思ったであろう男の声が、静まり返った街に漏れる。






 危なかった……アンたちの声がなければ踏ん張ることもできずに吹き飛ばされていたこと間違いなしだ。


俺はクビに添えられた剣を右手でつかんで後ろを見る。

 





そこには驚愕で目を見開いた美女がいた。歳は俺の前世と同じくらいの二十前半だろうか?



目は青色で、美しい金髪を後ろでポニーテールにしている。天使みたいだと思った。






俺はその驚く様を見ながら優男に向けて、静かに言葉を紡いだ。





「……これは、今から俺と、お前ら第三騎士団とで戦うってことでいいのか?」





優男も驚いたのだろう。その端正な顔を驚愕の色に染め、返答してくる。





「私の部下がすみません。貴方を敵と勘違いしたようです。ガレット眠りなさい」





そして、その声と同時に斬りかかってきた天使のような人はヘイトと同じように、眠りに落ちたのだった。剣も収めぬまま地面にへたり込む。





はぁ……別に許してやるのもやぶさかではない。


この女の子綺麗だしな! 俺だってこんな子と戦いたくない。






「本当に、俺を襲ったのがこんな子でよかったな!!」



『マスター声に出てますよ?』






あっ……






「……コホン、まぁ、許してやるよ……その代わり!! 何かしらのお詫びは期待してるからな!」



俺は苦し紛れに優男にいった。





「それは、ありがとうございます……彼女には徹底的に指導しなければなりませんね」





こ、こんな美人を徹底的に指導……いやいや、これはちゃんとした意味での指導なんだろう。


俺は桃色になりかけた思考をリセットして優男の言葉に耳を傾ける。





「ところで、私はルビィドラゴンを倒したのは女性の半魔族と聞いたのですが、あなたは女性でも半魔族でもないみたいですね?」






こいつ、俺が倒したと思ってるのか?

いや、確かにそれで間違っちゃいないが、やったのはアンということになっている。





「あぁ、ドラゴンを倒したのは俺じゃないぞ? あそこにいる……あっ、今こっちに向かってる女の子だ」





俺はアンを紹介しようと思ったら、アンがこちらに走ってきている姿が見えた。





自警団の方を見ると、みんな互いの傷の治療をしている。重症の者も多いみたいだが、ざっと見た感じ自警団に死人は出ていないようだった。





状況を確認する俺のもとに、アンが到着した。





「シルドー様! 大丈夫なのですか? 体は!? それに、首は? 首は切れてないでしゅか? 大丈夫ですか!?」




アンが俺の身体中をペタペタ触って確認してくる。慌てているせいか、ちょっと噛んだところが可愛らしくて、つい笑ってしまう。






「落ち着けアン、俺は大丈夫だ! 首が切れてたら喋れないだろ?」






アンは俺の無事をしっかりと確認すると、ホッと息を吐いた。






ここは互いの無事を称えて抱擁でも……




そんな下心を持っていると、アンに両肩を掴まれた。





え! 突然なんだ!?



ま、まさかこれはキ、キ、キッスゥ!?








しかし、どうやらそんなムフフな展開にはならないらしい。アンはプルプル震えながら言ったのだ。






「シルドー様! もうヘマはしないと言いましたよね! なのに……吹き飛ばされるし、首を切られるし……どれだけ私を心配させるのですか!!」






もしかして……


「アン怒ってるのか?」



「はい! もうプンプンです!」






プンプンて……





「えっと……心配かけてごめんなさい」





俺はとりあえず素直に謝ることにした。事実として、何度も泣かせてしまっているし、心配もさせたのだろう。





「もうっ……シルドー様が素晴らしい行いをしているのは分かっています! ですが、どうか無理はしないでください!」





いやぁ……しかし、こんな俺が言うのもなんだが、人間無理をしなくちゃいけない時もあるだろ。俺だってやりたかないけど、やってるんだ。そんなことを思いながらも俺は口を開く。






「あー、分かったよ、もう無理はしない」


「嘘です!」





なっ、面倒くさいな……じゃあなんて答えたらいんだ。






そうだ! こんな時の相棒じゃないか!






『イチエモ〜〜ン! なんて答えたらいいんだよぉ』


『マスター、気持ち悪いのでやめてください。彼女はただ自分の思いを聞いてほしいだけなんですよ、ここは黙って聞いておきましょう』





……え、そうなの?





俺はイチジク大先生の言う事を聞くことにする。






かれこれ十分くらいだった頃だろうか? アンの説教がようやく終わった。




「ということで、私は自警団の皆様の治療を手伝ってきます! お話が終わったら、来てくださいね!?」



アンはその言葉を最後に走って行ってしまう。






イチジクの言う通りにしたら、確かにアンの怒りは治ったけど……めっちゃ疲れた





「あの方がルビィドラゴンを倒した方なのですか?」





俺が説教を受けている間、ずっと後ろでその様子を見ていた優男はようやく口を開いた。




俺はずっと正座をしていたせいで、今だにジンジンする足をさすりながら起き上がった。硬い地面の上に座らされていたせいで足が生まれたての子鹿みたいになる。





「痛ってぇ……あぁ、あの子はアン……ルビィドラゴンを倒した半魔族だ」





俺の言葉に優男が訝しげに聞いてきた。






「本当に、貴方ではなく、彼女がルビィドラゴンを倒したのですね?」



この男、感づいたか?



「何度も言わせるなよ、そうだって!」





だが、証拠がない以上本当のことを言うつもりもない。この嘘はアンが変わるために必要なことなのだ。





それを聞いた優男は、そうですかとだけ言って近くにいた部下に指示を出す。





「では、ヘイト公とガレットを牢屋に入れておいてもらえますか?」




それに騎士団の二人が敬礼する。





「じゃあ、俺はアンの手伝いをしに行くけど、あんたはどうする?」




「私も行きましょう。自警団には顔馴染みがいるんです」




ほぅ……自警団と騎士団って、仕事内容似てるとは思うが仲がいんだろうか?





俺は歩きながら問いかける。





「自警団と騎士団って、どう違うんだ?」




「そうですね、我々騎士団は、基本的に王城の警護と、戦争を。自警団は、それぞれの街や村の治安と魔物などの外敵の対処を行います。それに、所属も違っていて、騎士団は王に、自警団は警備員ギルドに仕えています」





なるほど、自警団は街のおまわりさんみたいなものか……でも、ギルドってあの異世界ファンタジーにはつきもののギルドのことなのだろうか?





「その、ギルドってのはなんなんだ?」


とりあえず優男に確認してみる。




「……? あなたは本当に何もご存知でないんですね? ギルドというのは、冒険者ギルド、鍛治師ギルドといった細々したギルドの総称で、ギルドはある程度の規模の街に行けばあります」




もちろん王都であるこの街も踏まえて、と彼は言った。




……まてよ! それってつまり……やっぱりあるのか、この街にも冒険者ギルドが!!




あぁ……そろそろ俺の完璧な異世界生活が始まる気がするよ……ここまではハードすぎたからなぁ。




そんなことを思っていると、俺の耳に半魔族の少女の声が聞こえた。





「あっ、シルドー様!! もうお話はいいんですか?」






自警団の傷を治療しているアンに近づくと、アンが俺に気づいてくれたのだ。






「あぁ、そっちはどんな感じだ? 怪我人の様子は?」




「はい! 皆さん無事ですよ! 大怪我をした人もいましたが、ジャニー様の指示で警備員ギルドに運ばれていきました!」





それは……よかったということでいんだよな?



相手は倍ほどいる騎士団だった。この程度の損傷で済めばいい方だろう。





「アンも気を落とすなよ……? 別にお前のせいじゃないんだからな」




この場合、アンなら人一倍責任を感じている思ったのだ。とりあえず励ましの言葉を伝えてみる。




「ふふっ……皆さん私を見てまずおっしゃることは一緒ですね?」


しかし、予想外にも彼女は微笑みながら言葉を発した。






……ん? そうなのか? 皆さんとは自警団の皆のことでいんだろうか?







彼女は、気丈にも言ってのけた。




「だから、私もあまり落ち込まないようにしてるんです! こんな気持ちにさせてくださる皆さんには本当に感謝の気持ちでいっぱいです!!」





そうか……しかし、アンがこんな状態でいられるのも、死人が出なかったからだろう。




アンのためにも皆無事で本当に良かったな……





そこで、アンの精神面での無事も確認した俺は、話を切り替える。




「そうか……ところで、ジャニーにこれからのことを話しに行きたいんだけど、どこにいるか分かるか?」




ジャニーは治療する側だろうと、治療にあたっている自警団を見ながらここまできたが、見つからなかった。




するとアンは、でしたら……といって、俺が吹き飛ばされた家の瓦礫を指差した。





そちらを見ると、確かにそこにはジャニーがいた。腕を組んで俺を飛ばしたヘイトの野郎のランスを見ている。




何かあったのか……?





「ちょっと行ってくる」


「あっ、私も行きます!」





ジャニーの方に足を進めると、アンと優男がついてきた。







俺は、ここに来てもまだついてくる優男の方を見た。





「おい、お前自警団に顔馴染みがいるんじゃなかったのか?」


「はい、それが彼なんですよ」





この優男、ジャニーの知り合いなのか?



まぁ、お互いリーダーとして面識あってもおかしくない。





もとは家の一部だろうか? 焦げた木材や砕けた壁の合間を縫って、足を進める。





俺たちがかなり近くによると、ようやくこちらに気づいたのかジャニーは顔を上げた。









そして相変わらずの元気さで俺たち……いや、正確には後ろにいた優男に言った。









「おう、助かったぞ! ジョニー」


「久しぶりです。ジャニー兄さん」






その時の俺の顔は面白いことになっていただろう。目を見開き、なんなら口も開いていたかもしれない。仕方がない、それくらい驚いたのだから……二度目となるこの反応。





一度目は自警団の団長がジャニーだと分かった時……二度目は第三騎士団隊長の優男がジョニーだと分かった時だ。








「お前、ジョニーだったのか?」





気がついたら俺は尋ねていた。




すると、ジョニーはこちらを見ながら言った。





「ええ、申し遅れました。私は第三騎士団隊長、ジョニー・フランクと申します」




俺はゆっくりとジャニーを見る。






「じゃあ、ジャニーはジャニー・フランクなのか?」


「ああ! そりゃ兄弟だからな! 俺はジャニー・フランクだ」








「う、嘘だろ……」






まさか、ジョニー君がこんな優男に成長するなんて……いや、確かに素質はあったのか?昔の二人は元気な兄と、それに従う気弱な弟ってイメージだった。



一人意外な事実に驚いていると、ジョニーが何かを促すような目線を向けてきた。






「あぁ……すまん、ちょっとビックリしてな? 改めて、俺の名前はシルドーだ。ドラゴンに襲われていたところをこっちのアンに助けてもらった」





俺はアンを見る。




「あっ! 私はアンコロ……いえ、アンです!半魔族です!」





……いや、自己紹介短すぎだろ







各々自己紹介を終えたところで、優男改め、ジョニーが切り出した。






「お噂は聞いております、あのルビィドラゴンを倒したとか」





アンは自分のことが言われていると気付いていないのか、一人ニコニコしている。





すると、ジョニーは少し眉をひそめてジャニーの方を見た。





「兄さん、本当に彼女がドラゴンを倒したのですか?」


「いや、俺はそう……この、シルドーに聞いただけだ」





ジョニーとジャニーの兄弟が二人してこちらを見てくる。





「あぁ、アンが倒したっていうのは本当だぞ? この目でしっかりと見た……なんだ? 疑ってるのか?」





俺は少し不服そうに言ってやる。




やばいな……話を変えなきゃボロが出そうだ。

少し不自然でもいいから、話を逸らそうと俺は続ける。





「ところで、これからど「おい、シルドー」」





くそ、ジャニーが邪魔をしてきた。

俺はぶっきらぼうに答える。





「なんだよ? ジャニー」






ジャニーとジョニーの目線が俺に集まる。





「俺が……いや、我々が今一番気になっていることは何だと思う?」





いきなり何を言ってるんだ?








「さぁな? 残念ながら俺はエスパーじゃないらしんでな。それより、これからの……」





「なら、教えてやろう。今、俺たちが一番知りたいことはな? お前のことだ」





またジャニーに被せられた。こいつっ……






……って、え? 俺の、こと?






『この兄弟……俺のことが知りたいって、もしかしてそっちの気でもあるのか?』





残念ながら俺はノーマルだ。男を好きになることはないだろう……申し訳ないが諦めてもらうしかない!





『いや、決してそういう意味じゃないと思いますが?』






ならどういう……?





その質問には、ジャニー本人が答えてくれることとなった。




「シルドーは自分の異常さを分かっているのか?」




……あっ! しまった!




彼は続ける。



「俺はほぼ一部始終、シルドーの様子を見ていたが、ヘイト公のあの攻撃……手で止めていたよな?」




あの時は必死だったから後のことは考えていなかった。いや、だがそれくらいしないとあいつには勝てなかった……




「極め付けにガレット殿の攻撃、もろに食らったくせになんともなかっただろ?」




……うん、確かに異常だったかも






そこで俺は、一つの結論にたどり着いた。




アンのことばかり考えていて自分のことを特に考えてなかった!!







まずい、まずい……なんとかごまかさないと


……でもなんて?





防御力が人より高いんですぅ〜とでも言うか? ジャニーの一人や二人ならそれで納得してくれるかもしれないが……




こっちのジョニーはやたら知的で鋭いからな……






「いやぁ〜たまたま二人の使った武器が弱かったんじゃ?」





苦し紛れにとっさに思いついた言い訳をしてみる……が






「それはない! 俺も、このランスの方に問題があるのかと思って見ていたが、やはりこのランスに問題はなかった!! 硬質化のスキルがついた立派なランスだ!」





対策済みだったか……






一人戸惑う俺を、二人分の眼が縛り付ける。恐らくこの二人は、ルビィドラゴンを倒したのは俺だと思っているのだだろう。





ジャニーは俺の目を見て告げた。






「これだけのことがあって、そこに無傷で立っているお前は……何者なんだ?」






こうなったら……



もう言うか? 言っちゃうか? この兄弟とは何かと縁があるしな……悪いやつでもないことは分かっている。 それにアンにもいつかは言わないといけなかったし……





よし言おう!! いざとなったら逃げればいい

そう決めたらあとは早かった。






「そうだな、そろそろ伝えようか……実はな? 俺は……」






大丈夫、アンだって受け入れてもらえたじゃないか。俺だってちょっと変わった正体というだけの話だ。







続きを言おうと俺が口を開いたその時……






「諸事情なんですよね! シルドー様がすごい丈夫なのは!」






さっきまでは黙っていたアンが突然喋り始めた。





「え、あ、うん。いや、確かに諸事情なんだけどな? その諸事情っていうのは……」





「ならそれでいいじゃないですか!! シルドー様は諸事情で人より少し丈夫なんです! それでいいですよね? ジャニー様?」





なんだ……? 確かに、アンには色々諸事情ってことで誤魔化したような気はするが……





「いや、な? アン聞いてくれ! 俺がこれだけ丈夫なのにも理由があってな……?」



「もういいんです! 何も言わなくても!!」





いつになく必死なアンを見て、俺は首をかしげる。




彼女は、ワタワタと言った。




「ジョ、ジョニー様には初めからそんな話をするなんて、不公平です!!」





え……もしかしてアン嫉妬してるのか?





「私は頑張ってシルドー様に信用されますから! そうしたらその時、教えてください!!」





いや、今でも十分に信用してるんだが……?まさか俺の何気ない一言をそこまで重く捉えていたとは、なんか申し訳ないことをしたな。




アンの思いを聞いた俺はクールに息を吐き、兄弟に言った。





「というわけだ、すまないが今は教えられない」




この兄弟なら、とりあえず今は納得してくれるだろう……





「……そうか、ならそれもよし!! とりあえずシルドーの異常さは隠しておくという事で異論はないな?」



「おう! そうしてくれると助かる」




ジョニーの方を見ると、兄さんがそれでいいならと言ってくれた。

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