ここは『名もなき最北の村』だ。
「ここは名もなき最北の村だ」
なんでこんなところに村があるのかって?
それは……俺が聞きたいわっ!
ここには小さな小屋が一軒あるだけ。
『なにか重要なアイテムが隠されている』
訪れる冒険者は誰もがそう思うだろう。
だが、残念ながらこの名もなき村には何もない。いや、ある。小屋の中、暖炉の横に置いてある壺。その中に薬草が1つ。
この場所には最北の洞窟という超難関ダンジョンを抜けないと来る事ができない。
その過酷なダンジョンをクリアした者だけが辿り着ける意味ありげなこの村は、ただこの世界の最北にあるというだけの残念な村だ。
そして、その意味ありげな残念な村をダンジョンを抜けて期待に満ちた目で訪れる冒険者に紹介するのが俺の仕事だ。
これでも元は大きな街の門番をしていたんだ。まあ、ただ体が丈夫だからと言う理由からやらせてもらえてただなんだが。でもよ、体が丈夫だからってこんな寒いところに赴任させるかよ。しかも俺一人って。さすがにどうかと思うぞ。
まあ、赴任しちまったからにはやらないとしょうがない。だから俺は訪れる冒険者に村を案内し続ける。
ここを訪れる者は誰もがこの意味ありげな村を隅から隅まで調べ尽くす。
持ってるアイテムを片っ端から使おうとする奴。一歩ごとに数分立ち止まって調べる奴。延々と俺に話しかけて来る奴もいる。
しかし、この村に何日いようが何をしようがあるのは壺の中の薬草1つだけ。もちろん俺に何度話しかけても俺のセリフが変わることはない。
訪れる者全てが長い時間を掛けて絶望していく。その姿を俺は背中で感じ取る。
そして、訪れた者すべてが何も得られずに立ち去っていく。時に生気をなくし俺を死んだ魚のような目で、時に幾重にも重ねた怨嗟の込もった目で見つめながら。
だが、それも致し方ないのだろう。なぜなら戻っていく奴らの先にあるのは戻りの一本道、そう、あの地獄のダンジョンなのだから。
俺はそんな奴らの絶望を全て受け止める。それが俺の役割だと思うから。お前たちの心の重荷は俺が全て受け止めてやる。だから生きて帰ってくれ。
この北の大地で俺は紹介する。
「ここは名もなき(何もなき)最北の村だ」と。
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