十四話 召喚者たち、冒険者になる・四
「で、どうだった?」
ギルドへ戻った僕たちを出迎えたのは、なんとゾルさんだった。
厳つい顔で真剣な表情をしているから、なんというかプレッシャーを掛けられているようにも感じる。実際のところは、ゾルさんとしても心配してくれていたというところだろうか。
「ん、まあ良かった」
「っ!?」
一緒にここまで帰ってきたエッジさんの言葉に、その厳めしい顔が今度は驚愕に変化した。……というか「まあ良かった」って褒めてはいないよね? そのくらいの評価でここまで驚かれるって、もしかしてだけど僕らってゾルさんから全く期待されてなかった?
「こいつがそこまで褒めるってこたぁ、…………なるほどな?」
角ばった顎を撫でながらゾルさんは片目を見開いてなおも驚きを表情にだしている。あれ? もしかしてエッジさん的にはこれでもすごく高評価?
「おい……聞いたかよ」
「ああ、あの毒舌女が『良かった』……だと?」
「それほどかよ、あの特別扱いの新人たち」
「城で王族が呼び出したアレだって噂も……」
「おいっ! それは口に出すな!」
僕の考えを聞こえてきた噂話が肯定してる。それに僕らの素性についても漏れてるんだね……。あまり熱心には隠そうともしてなかったから仕方ないか。
「どしたセイちゃん?」
「ん、ああ何でもないよ」
「……そか」
離れた位置で小さな声で話す噂話は、流石に僕にしか聞き取れはしない。いちいち皆に報告するような内容でもなかったし、別に言わなくてもいいよね。
「お……!」
タロウさんはちょっと気にしているようでもあったけど、その空気はタロウさん自身が打ち消した。というのも、その視線を追えば理由はすぐに分かった。
「かいちょ!」
「お疲れ様ぁ、みんな」
特徴的な呼び方でサヤちゃんが声を掛けると、ちょうどギルドの奥から出てきたナデシコさんが、僕らに視線を巡らせながら労ってくれる。どうやら怪我とかしてないか、気にしているようだ。
「大丈夫、みんな無傷で仕事はこなしてきたよ」
安心させようと、二の腕の筋肉を強調する様なポーズでおどけてみせる。そしてその言葉にはナデシコさんより、別の人の方が反応するのは早かった。
「そのようだな……」
多分に感心する様な声はゾルさんから。その手にはエッジさんから受け取ったばかりの革袋。
あの中には今回エッジさんをお目付け役にして僕らがこなしてきた仕事の成果――ゴブリンとスモルウルフから剥ぎ取ってきた素材――が入っている。それは単純に今回の達成証明であるとともに、実力を推し測るための材料でもあるようだ。
というのも、袋から取り出したスモルウルフの牙やゴブリンの毛皮をためつすがめつしていたゾルさんは、目を鋭く細めてさっきの言葉をかけてきた。苦戦したのなら剥ぎ取った素材にも大量の小傷がつくはず、しかしそれがないことから僕らがモンスターをどんな風に討伐してきたかを読み取ったのだろう。
「かいちょは?」
「?」
「魔術の訓練の成果はどうだったんだ?」
サヤちゃんの言葉足らずな質問に首を傾げたナデシコさんだったけど、タロウさんからの補足を聞いて小さく頷く。
「まだまだ手探りですがぁ、順調ですよ」
満面の笑みを見る限り、強がっていたり大げさにいって安心させようということではなくて、本当に手ごたえがあったみたいだ。
「さすがナデシコさん!」
「まかせてくださぁい」
どこかほんわりと、というか殊更にふざけて僕らを安心させようとするようなナデシコさんの言い方に、頼もしさを感じる。
ヒーローとして悪人と対峙してきた僕に、超常者はびこる世界でケンカ最強を掲げたサヤちゃん、そして大人らしい頼もしさとどこか底の知れない超能力を持つタロウさん。この三人で物理的な問題には対処できると思っていたし、だからナデシコさんにはリーダー的な役割というかいわゆるブレーン役を期待していた。だけどそれに加えて、このファンタジーな世界特有の力である魔術も使えるようになるというのなら、それほど安心できる材料はなかった。
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