十一話 召喚者たち、冒険者になる・一
城から出たその足で、僕らはさっそく冒険者ギルドなる建物を目指していた。性急かもしれないけど、まずは最低限でも情報収集しないことにはなにも始められない。宿とか食事の予算とかも決めようがないしね。
ちなみにガシャイ将軍を通してテルタイ王国から支給された当面の資金だけど、ルッタというこの国の通貨で支給されたその額は贅沢をしなければしばらくは生活の心配はしなくていいくらいの金額だったそうだ。厄介払いという扱いを受けたということを考えると、温情的な措置といえた。
この金銭感覚もそうだし、街中での冒険者ギルドの位置なんかはナデシコさんが教えてくれた。どうも僕らも気付かない間に、城内で侍女の人とかに聞いていたらしい。“そつがない”という言葉がこれほど似合う人もいないよね。
ガシャイ将軍から上から目線で冒険者になるようにいわれた当初は腹立たしかったし、正直にいうと大人しく従うのは癪だという気持ちもあった。だけど、その前は城に囲い込まれることに「素直に従うのはまずい」とか考えてたのだから僕も都合がいい。要は単なる反発心だよね。
……僕以外の三人もそれぞれに考えることがあったのかしばらく無言だった。そして気付くと視線の先には立派な建物が見えてきている。今歩いているのは王都テルト――今いるこの街であり、あの王城の城下町――の中でも城から街門までを繋ぐメインストリート。そして片側三車線の国道くらいに道幅があるこの大通りでも目立つくらいに立派なのが、件のギルドらしい。
暖かみのあるオレンジ色のレンガが積み上げられた外壁は、威圧感よりも頼りがいを感じさせる。三人くらいが余裕で通れそうな大きな入り口は両開きの扉になっていて、ひっきりなしに人々が出入りしている。
「だ、大丈夫かな……?」
「どしたセイちゃん。あぁしがいるし問題なんて……」
「ああ、やっぱり気になるよね。いや、期待なのか?」
思わず僕が漏らした不安の呟きに、サヤちゃんとタロウさんが反応した。城の中庭での時にサヤちゃんの想像以上の身のこなしを目の当たりにしたし、その実力者からこういわれるのは心強い。だけど、ここはタロウさんの方が僕の心境を言い当てている。
いや、要するに、不安とか言いながら確かに期待かもね? だって、異世界に来て冒険者ギルドな訳だし……。
「あはは、タロウさんの言う通りなんだよね。ほら、冒険者ギルドに登録しようってことだし、怖い先輩冒険者が『お前らみたいなのが冒険者だとう!?』みたいなさ」
ちょっと照れながらそんなことを言うと、三人からは予想通りの表情が返ってきた。つまりタロウさんはにやり、サヤちゃんとナデシコさんはきょとん、だ。
「まあこんな、街の人も大勢出入りしているような施設だから、わかってるけど、ね」
照れ隠しにそんなことをいいながら、両開きの右側の扉を開ける。見た目の重厚さとは全く違う軽い手応えに驚く間もなく、僕は別のことに息を呑んだ。
「わ、すごい」
「賑わっているのねぇ」
「ファンタジーって感じがするな」
目に飛び込んできたまさしく“盛況”といった光景に感心したのは僕だけじゃない。そしてその賑わいを構成するのは武装した冒険者とか傭兵っぽい雰囲気の人は三分の一くらいで、残りは街の人たち――多くは中流くらいに見える――だった。
そして賑わっている空気は単に人数の多さによるものじゃなく、行き交う人の表情とか振る舞いによるものと思われる。というのも、クリスマスの商店街みたいに活気にあふれていたからだ。
「あそこにいけばぁ、いいのかしら?」
「――はっ」
しばらく見とれていたら、ナデシコさんの確認する声にハッとした。隣でタロウさんが同じようにびくりとするのが視界の端に入ったから、僕らはこの“いかにも”な内部の雰囲気に酔いかけていたらしい。
とはいえ、こんなゲームやマンガでしか見たことがなかったような冒険者ギルドなる建物に足を踏み入れたんだ。このくらい呆然となるのは大目に見て欲しい……。
「と、そういえばサヤちゃんは……?」
なんて言い訳を内心で言い募っていたら違和感を抱いて見渡した。すぐ隣には僕と同じようにそわそわするタロウさん、そして一歩前には冒険者向けと思われる窓口を探していたナデシコさんがそれぞれいる。だけど、仲間想いで何だかんだと気付けば隣にいて気を配るサヤちゃんの姿が見えなかった。さっきギルドの扉を開けた時には一緒にいたよね……?
「外にも……」
「あらぁ」
そう思ってさっき入ってきた扉をちらっと開けて外を見てもサヤちゃんの姿はなく、もう一度中へ戻ると、きょろきょろと首を振るナデシコさんが不思議そうにしている。
「あん? ……ああ、ごめん探させちゃった? あぁしも色々気になって見に行ってたんよね」
と、可愛らしくも張りのある声に振り向くと、サヤちゃんが僕らの方へと歩いてくるところだった。建物の中にはいたようで、僕らが見失っていただけみたいだ。
色々と気になって……というのは、サヤちゃんが今歩いてきた方を見ると納得できた。そっちには冒険者向けらしい飲食スペース――ミニ酒場といった風情の情報交換場――があって、そこを見てきたようだった。
「……? まぁとにかくぅ、ギルドの人に話を聞きに行きましょうか」
ナデシコさんが一瞬首を傾げてから、さっき目星をつけたらしい受付カウンターへと進みだす。サヤちゃんはすっとそれについて歩き出したから、僕とタロウさんもそれ以上に何か疑問を挟むこともなく続いたのだった。
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