五話 召喚主の事情と召喚者の都合・一

 僕らには一人一室ずつが用意され、内装の豪華さからしても、優遇されていることは間違いがないようだった。

 それは露骨なご機嫌取りではあるかもしれないけど、粗雑に扱われるよりは余程いいと思える。

 そういえば、各部屋へと案内される前に、あの待機部屋では何かの検査をされた。といっても拳大のクリスタルに触れさせられただけだったけど。

 一人ずつに用意されたクリスタルは触れた状態で意識を集中すると淡く光るというもので、一日程度持続するその光を専門の魔術師が解析することで“力”を測定するそうだ。

 その“力”というのは魔術的な、こう、ファンタジーなものを指すのだろうけど、僕らに対してはどうなるんだろう。将軍がいたから軍人はいるのだろうし、冒険者っていう言葉も聞いたけど、魔術師や戦士、盗賊、みたいな、いわゆるゲーム的ファンタジー世界の概念でいいのだろうか。

 僕の知るそういう知識から考えて触れたクリスタルが爆発的な光を発して……! とか、壊れてしまって「そんなはずはっ!?」とか、そういうのを期待してたんだけどそうはならなかった。

 唯一、強めにかつ多色に光って、王宮魔術師の弟子だという人が驚いていたのはナデシコさんだけで、僕とサヤちゃん、そしてタロウさんはどう見てもそんなに凄くない雰囲気だった。

 現状では全てが想像でしかないけど、この状況に結び付くのは超常者か否か、だ。クリスタルの反応が芳しくなかったのは超常者、逆に一般人のナデシコさんは強く光った。

 こっちの世界に存在しない力である超能力を保持した者はそのままに、そうでない者は魔法的な力を付加されて連れてこられるのが王家の秘術ということなのかな。

 …………いや、考えるだけ無駄か。僕が考えるべきは一緒に連れてこられた三人を仲間として守ることで、異世界召喚の検証はもっと情報が出そろって状況も安定してからでいい。

 そうなると気になるのがモンスター、そして魔族だ。

 元の世界の感覚でいうと、いわゆる猛獣程度であれば超常者にとっては敵じゃない。能力発動状態の僕でいうと、その肌は拳銃の弾でも通さないのだから獣の牙で傷がつくはずもない。

 

 けどそこから魔力変異したというモンスターはどうなんだろう。さらにいえば、超能力はなくとも魔力が存在して魔術師がいるというこの世界で、人族を追い詰めている魔族はどの程度の力があるんだろうか。

 頑張って戦って勝負になる程度の相手ならいい。たとえ勝てなくても自分を鍛え直したり戦い方を工夫したりすれば何とでもなる。実際に僕は未熟ながらにヒーローとしてそうやって悪人と戦ってきた。

 でも何ともならない程に隔絶した実力差があった場合……、そうなっても僕に絶望はゆるされない。この状況で、正体もバレてしまったけど、僕はヒーローだから。

 最悪の場合でも、自分の命を引き換えにしてでも皆が逃げる時間は稼がないといけない。

 いや、本当はそうであっても何とかするべきなんだろうし、それこそが諦めないということだと思う。だけど僕はヒーローと名乗って犯罪者と対峙してきた短い経験の中で、どうにもならない理不尽も見せつけられてきた。

 崇高な理念を持った強いヒーローがあっさりと死ぬところに居合わせたこともあるし、私利私欲のために超能力を行使する悪人がその目的を達する場面だって一度ならず見てきた。

 だからこそ、最後まで諦めない決意と、もしもの時にはあっさりと自分を諦めて皆に後を託す用意をあわせ持っておこう。それがマンガやアニメじゃない、現実リアルのヒーローとしての僕の矜持だった。

 いつの間にか窓の外に見える月の位置が高くなっている。

 さすがに寝付けないこの状況、慣れない豪華な部屋の中で、それでも時間は経過して夜は更けていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る