リ・エピソード【ナデシコ・ゴトウ】 冷徹なる赫怒
一緒に巻き込まれた仲間たちには了承を取り、ナデシコは先頭に立って王だと宣った中年男性の言葉を聞いていた。
「(語り口は朗々とした典型的なナルシストタイプ……、周りの人間の表情を見るにそこまで完璧な人心掌握もできていないとみてよさそう)」
滑舌が甘いナデシコは、口に出して喋るとどうにもとぼけた印象を持たれることが多い。
しかしその思考は怜悧で的確に巡り、今も状況の把握に続いて相手の把握に努めていた。
「――そうして我ら人族の戦いは苦しい時を迎えておるのです」
王が一通りの説明を終えて、満足そうに息を吐く。
一見して熱心に耳を傾けている様子だったナデシコは、しかしここまでに誰が王の言葉に頷きを返し、誰が無反応で、そして何より誰が不満げに鼻を鳴らしたかをしっかりと確認した。
「(なるほど……)」
そして把握した相手側の人間関係からいくつかの状況予測をし、憂鬱な溜め息を噛み殺す。
種族間戦争による国家的な疲弊、王族にしか扱えないという秘術、そしてついに召喚を果たした異世界の勇者。それらの要素によって、このテルタイという王国の内部において問題が起こる可能性というのは、別に優れた頭脳が無くても予想のできることだった。
「(まずは足場固め、次に進む方向の見定め、かしらね……)」
ちらりと横目で現状の仲間――信頼できる友人で腕っぷしもあるサヤ、交流のなかった後輩ではあるがヒーローであるセイギ、全く面識がなく一見すると人畜無害なだけのタロウ――を確認するナデシコは、顔を俯かせて人知れずその両目を細める。日頃は口調と同じくどこか緩い印象のその顔は、そうするだけでひどく冷たく感じさせるものとなっていた。
「人族というのはぁ、ここテルタイ王国だけなのでしょうか?」
しかしすぐに顔を上げたナデシコがいつもの表情と口調で質問を投げたので、周囲は誰もそのことには気付かない。
「(今はまだ迂闊なことはできない、わたしはこの世界のことを何も知らないのだから。けれど……)」
ナデシコは確かに冷徹な思考をする人間ではあるが、決して悪辣ではない。むしろ仲間意識の強い、優しい性格であるとすらいえる。
だからこそ怒っていた。一方的にナデシコたちを戦争に巻き込もうとする連中に。そしてそんな連中の言いなりになるしかない状況に。
冷静で思慮深いからこそ、その怒りを表には出さず、心の奥の深いところでぐつぐつと煮え滾らせていたのだった。
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