四話 四人の召喚者たち・四
謁見の間だというその部屋は、何というか想像したよりも狭かった。
もっとこう体育館とか公民館みたいな、すごい広くて豪華な部屋に偉そうな人たちがずらぁって並ぶのかと思っていた。
「――つまり魔王とその率いる魔族は――」
実際は教室より少し広い程度の石造りの部屋の奥側が一段高くなっていて、そこにある玉座に腰かけたさっきの王様が身振りをしながら話している。
その左右に宰相と将軍だというおじさんが立っていて、段が低い所、つまりは僕ら側には数人の大臣や貴族っぽい人たちと、それらを守るように軽装の近衛騎士が五人。ここにきてから王様がずっと喋っているけど、別に僕らが直接発言することも止められてはいなかった。
「――そうして我ら人族の戦いは苦しい時を迎えておるのです」
王様が十分くらいかけて壮大な物語のように語ったことを要約すると……。
この世界には元から人類と動物、そして魔力変異した動物であるモンスターしかいなかった。
それが二年前に突如として魔族を名乗る人族によく似た種族が登場し、世界全てに宣戦を布告した。
数の少ない魔族を当初は甘く見ていたが、彼らは個の能力が圧倒的で、今はむしろ人族側が押されている。
二年の戦争で疲弊したテルタイ王国――今いるこの国――にはここから巻き返す余力がなく、追い込まれて王族に伝わる秘術に縋った。
何度も行われた儀式の結果として、ついに異世界の勇者を召喚することに成功した。
……ということらしかった。
話の通りであるなら、この世界の人族には同情するけれど、だからといって急に呼び出されても困るよね。まあ元の世界では死の運命にあったとかいう話だったから、その部分では命の恩人なのかもしれないけどさ。
「人族というのはぁ、ここテルタイ王国だけなのでしょうか?」
聞き終えてナデシコさんが質問を口にすると、居並ぶ大臣たちは少し表情を明るくする。この態度を勇者の使命への前向きなものと受け取ったようだ。
「世界の中央たる我がテルタイ王国を挟んで、北にドゥルガ北方帝国、そして南には野蛮なサナイがあります。西方未踏領域以外はこの三国の何れかに含まれます」
宰相が答えてくれた内容で、うっすらと世界地図がイメージできた。その“世界”が惑星なのか大陸を意味するのかは現状不明だけど。
それにその口ぶりからは何となくだけど、他国との関係性も垣間見えていた。
「未踏……? では魔族というのはぁ、そこから?」
ナデシコさんが質問を重ねる。
さっきは魔族が突然現れたような言い方だったけど、そうすると単に他国からの侵略だったのかな。
「西方未踏領域から……というのが現状での我らの見解には違いありません。しかし未踏領域は国を興すには不適というだけで暗黒の地ではなく、冒険者どもによる情報では遺跡と荒野くらいしかないということもわかっていたのです。……おそらくは勇者殿たちとはまた違う異世界からかの地に降り立ったということなのでしょう」
今度は王様を挟んで宰相とは反対側に立つ立派な髭の将軍が、低くて渋い声で説明をしてくれる。
侵略者は侵略者でも異世界からの侵略者だったのか。
「その言いぶりではぁ、つまりは倒せという敵の本拠地もわからない……ということですかぁ?」
「勇者殿たちにはその伝説の力で対処していただきたく……」
はぐらかすように答えになっていない言葉を続けた将軍だけど、その表情は苦い。ナデシコさんの言葉が煽っているように聞こえたんだろうけど、言い返す言葉もなかったようだ。
「詳しい戦略の話についてはこのガシャイ将軍と明日以降によく話し合ってくださればよろしい。戦以外のことであればアーメイ宰相が如才ない」
それだけ言って王様は立ち上がり、部屋から退室してしまう。
結局あの王様の名前すら聞いてはいないし、僕らの側が承諾するかどうかという話題にすらならなかった。
腹立たしい状況というか態度だけど、ナデシコさんに任せた以上は変に騒がない方がいいだろう。
そう思いながらもどちらかというと短気なイメージがあるサヤちゃんが気になって横を見るとばっちりと目が合った。
「あ、や……な、何でもないし」
「う、うん」
向こうも僕の反応が気になっていたのかな。
「……」
ついでに反対側を向くと、タロウさんは全く感情の読めない薄い笑顔で微動だにしていない。これが社畜とまで言われる一部の疲れ切ったサラリーマンが身に着ける会議スルースキルというやつなのかなぁ。
「それではぁ、明日にまたお願いします」
「はい、ではこれから――」
意外とすんなりと状況を受け入れたようにみえるナデシコさんに、アーメイ宰相がまずはさっきの部屋で待機して、その後に泊まる部屋が準備できたら案内すると説明をしている。
どこかへ放り出されたりはしないようで、安心した。一応、衣食住くらいは面倒を見てくれるようだ。
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