リ・エピソード【サヤ・アカシロ】 狂騒する乙女思考
「(もぅまぢ無理ィ……)」
一緒にこの事態へと巻き込まれた三人が真剣な顔で話し合う中、サヤはまったく別の方向性で精神の危機を迎えていた。
「(真剣な顔で話してんぢゃん……、教室だとそんなきりっとしないぢゃん……、ていうかヒーローってなにィ……)」
今はこの状況への推測のひとつとして、物語でよくある展開であるという“異世界召喚”についてセイギが熱心に説明していた。
自分の興味のある事柄であるからか、あるいは状況への危機感からか、その表情はいつになく真剣で、クラスでは気弱と認識されているセイギらしくないものに見える。
「(さっきは“さん”呼びとかちょっとな……って思っただけで気付いてくれたしィ……、てかもうサヤちゃんて、サヤちゃん……、んあぁぁ顔が勝手ににやにやってぇ)」
サヤは言わずもがな、セイギに惚れていた。それはもう近しい友人たちも呆れ返るほどの入れ込みぶりであったものの、この少女は同時に極度かつ限定的な恥ずかしがり屋でもあった。
基本は社交的で積極的な性格であるにもかかわらず、気になるセイギに対してだけはその性格を全く発揮できない。
中学では同じ学校であったというだけで何の接点もなかったのに一目惚れし、気弱でからかわれがちなセイギを守ると勝手に誓った結果なぜかケンカに明け暮れるという行動力を発揮しながらも、念願のクラスメイトになった今も友達と呼べるかも怪しい程度の関係性でしかないことが全てを物語っている。
「(っっ!!)」
そんな全くこの場の議題とは関係のない思考に溺れていたサヤは、話し終えたセイギが自分に視線を向けたことに身体を硬直させた。
「ならわたしとしても確信が持てましたぁ。魔王がどうとか言っていたのは、わたしたちを傭兵として彼らの戦争に参加させようということですね」
しかしナデシコの言葉にその視線は外れ、その事に若干の不満を感じつつもサヤは今そんな場合ではないことをようやく思い出す。
「(こんなワケわかんない場所で何があっても、セイちゃんが実はヒーローでめっちゃ強いんだとしても、あぁしが絶対に守ってみせるし!)」
口では議論に参加しつつも、内心の思考は相変わらず特定の一人へと向けられたまま、サヤはその熱情を元の世界にいた時以上に燃え上がらせていたのだった。
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