三話 四人の召喚者たち・三
「それでこの状況と、これからのことだけどぉ……」
このよく分からない状況下での一応の結束を固めたところで、ナデシコさんは切り出した。
ここからが本題だ。
「やっぱり異世界召喚だよね、これって……」
「たぶんな」
「「――?」」
僕が口にした推測にタロウさんが頷き、女の子二人は不思議そうな表情を浮かべた。
「つまり――」
この状況がそうなのかは一旦置いておいて、僕はまず小説やマンガでよくみる異世界と転移や召喚について語る。間々にタロウさんが補足をいれてくれるから、短い時間で二人には伝わったようだ。
……あるいは単にこの二人の理解力が高いだけかもしれないけど。生徒会長であるナデシコさんはもちろん、一見勉強とか苦手そうなサヤちゃんも、真面目にやっていないだけで明らかに地頭はよさそう。
現にサヤちゃんは今もこっちを真剣な顔で見ていた。不良少女という印象もあるけど、少なくとも僕は理不尽なことをしている姿は見たことがないし、校則からははみだしがちかもしれないけどいい子には違いないのだろう。
「ならわたしとしても確信が持てましたぁ。魔王がどうとか言っていたのは、わたしたちを傭兵として彼らの戦争に参加させようということですね」
傭兵とか戦争とか、ナデシコさんが口にしたなんというか生々しい言葉にどこか浮かれていた思考が現実的なところへと軌道修正されたのを自覚する。
「よくわかんないけど、あぁしらをわざわざ喚んで頼むってことは、ここの人らはそんなに弱い感じ?」
「あるいはセイギ君とタロウさんの話からするとぉ、召喚されたことで何かを付加されているのかもしれませんが」
その言葉を聞いて、自分の腕や脚を見回してみる。そんなことをして何が分かる訳でもないけれど、それでもやっぱり元通りだと感じる。
バヂッ
「かわりないよ、何も」
乾いた音を立てて指先で電光を弾けさせたサヤちゃんも、僕と同じ結論を口にする。超能力も含めて実際に強くも弱くもなった感じはしていない。
「僕もたぶん……」
「オレもだね、能力にも変化はなさそうだ」
あ、タロウさんも超常者だったんだ。外見からごく平凡という印象だったけど、人は見かけによらないな。
とすると……
「わたしは超常者ではないですよぉ」
僕の頭に一瞬浮かんだ推測はナデシコさんからすぐに否定される。そういう人間を選んで召喚したってことでもないのか。あるいはそうではあるけど、その場に居合わせたナデシコさんは巻き込まれたっていうパターンかもしれない。
「この後はきっと協力を要請、というか強要されるかと思いますがぁ……」
強さや能力の話は一旦脇において、ナデシコさんは今後の展開について話を続ける。
それこそ物語でのよくある展開からすると、素直に従うのはまずいのかな。ここはきっぱりと拒絶して追放されて、どこか遠方から建て直してざまぁ……みたいな?
「一旦は素直に従おうかと思いますぅ」
「「え……?」」
僕の内心を見事に全否定する方針に、僕だけでなくタロウさんの疑問の声も重なった。
「都合の良い様に利用されたくはないという気持ちは理解できますがぁ、まだ何もわかっていないので迂闊なことはできませんよ」
苦笑を浮かべたナデシコさんに諭されてしまった。
けどそうだよね、あのおじさんは王様で、ここは国だというなら、それだけで強大な存在だ。その規模感すら把握できない内に、なんとなくの反発心で逆らうのは無謀だよね。
「もちろん相手の出方というか、状況によってですけれどぉ、細かいところはわたしに任せていただけませんか?」
「あ、うん」
「もちろんだし」
「はい」
どう見てもこの場で一番頼りになりそうなナデシコさんの言葉に、僕、サヤちゃん、タロウさんが順に了承を示した。
こうして僕らの直近の行動方針は固まり、程なくして謁見の間へと案内する声が掛かるのだった。
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