一話 四人の召喚者たち・一
ガランという音が足元から聞こえた。どうやら光に遅れてやってきた衝撃でヘルメットが落ちてしまったようだった。
さっきの戦いでは気付かない内に攻撃をくらっていたらしく、留め具が破損してしまって緩んでいたようだ。それよりも目が眩んでいる状態で顔をさらしてしまっているのが問題だ。
今近くにいた赤城さんたちに見られると正体がばれてしまう。
フラッシュラインさんは同業者だけど、その他は同級生に先輩に通りすがりの一般人だ。
「うぁ……目ぇ見えないって」
「何があったの……みんないるのぉ?」
「……へ?」
皆も目が眩んでいる様子だけど、やっぱり近くにいた。
若い女の人の声が二つに、どこか間抜けな男の人の声が一つ。どれもフラッシュラインさんではない。
というか、僕もようやく目が見えるようになってきた。
なんとか目を凝らして見ると、そこは体育館よりはやや狭いくらいの建物内で、窓は無いけど決して暗くない、どちらかというと豪華な内装をしている。
そして僕のすぐ近くには三人。よく知る制服を着た女の子二人と、くたびれたスーツ姿の三十路くらいに見える男の人。
というかフラッシュラインさんと気絶した犯人が見当たらないけど、あとはさっきから近くにいた三人で間違いない。
「あ? セイちゃんじゃんか」
「あら……あらぁ?」
先に声を掛けてきたのが同じクラスの赤城さん。浅黒い肌に金色の髪が良く似合う活発な印象の美少女、そして誰に対しても物怖じしない態度から生徒内での評判は割りといいけれど、他校の生徒とケンカが多いとかで先生たちからは不良少女と認識されている。
赤城さんは顔が見えている僕に、状況も忘れて普通に声を掛けてきた。
そしてもう一人はそんな赤城さんとはある意味で正反対の存在、学校では生徒会長として誰もが知っている。きれいに整えられた長くて艶のある黒髪がさらりと背を流れるスレンダーな立ち姿は、こんな状況でも思わずこちらの背筋が伸びる凛とした雰囲気。僕がこの状況でさえなければ、訳の分からない状況において頼りになる、清楚生徒会長さんだ。
「えっと、事件に巻き込まれそうになって……え? ……なにこれ?」
そしてこの混乱の極みにいるサラリーマン風男性はただの通りすがりで知らない人だけど、たぶん、まあ、サラリーマンなんだろう。そんな雰囲気をしている。その困惑っぷりには正直に言ってちょっと気持ちが和む。自分以上に混乱する人がいると落ち着くってこういうことか。
「セイちゃん……? そのカッコ……、え?」
赤城さんからすると、コスチューム姿で淡く光る今の僕の姿は、普段のクラスでも目立たない姿と一致しなさ過ぎて、遅ればせながらも混乱しているようだ。
一方で模試の成績も全国トップクラスだという頭脳明晰な生徒会長さんは、既に察しがついてしまっている様子。
「うちの生徒が怪しいとは思っていたけれどぉ、そう……あなたがレイジブラスターなのねぇ」
「は!? かいちょ何それ急に。それって最近よく聞くヒーローっしょ?」
あぁ、完全にばれて……。というか僕の知らない内に目星は付けられつつあったってこと?
「いやいや君たち、それより、さ」
助け船は思わぬところ、でもないのかな? とにかくサラリーマンが声を掛けてから身振りで周囲を示してくる。
うん、僕も気付いてはいたけどさ。なんなのだろうこの状況。
よくわからない屋内っていうのはさっきも確認した通りだけど、そこには僕たち四人だけじゃなかった。
豪華だけど何とも時代がかった、演劇で見るような衣装をやや簡素にした服装の人たちが僕らを囲んでいる。
殆どはおじさんだけど、おばさんや若い男女も少し混じっていた。改めて見てもフラッシュラインさんと犯人はいない。
そして一番近くに立っている、一番派手な服装のおじさん――白髪交じりの黒髪で四、五十歳くらいの彫りの深い顔をしている――は、両手を広げて表情を綻ばせた。
「よくぞこられた、異人にして偉人たる勇者殿たちよ!」
派手おじさんの向こうにいる人たちから、「おぉこれが王家の秘術」とか「人族にも希望が……っ」とか聞こえてくる。
そしてここまで来て僕の頭には“異世界召喚”というフィクションとしてなら心躍るキーワードが過ぎった。
「どうか我ら人族の救いとなり、魔王を打ち倒してくだされ!」
「え?」
「はぁ?」
「……」
現実味は無くても予想通りではあった続く言葉に僕はただ困惑し、赤城さんは心底から意味が分からないという表情をする。後藤さんも“こういう展開”には馴染みはなさそうだけど、その表情は戸惑いよりも思案に傾いている。
いきなり訳の分からない場所に召喚されて勇者と呼ばれ、そして魔王を倒せだなんて、繰り返すけどフィクションとしてなら心躍ることだ。
けどそんなの……
「拉致じゃねぇか!?」
一緒に巻き込まれたらしい三人の中で一番知らないサラリーマンが反射的に叫んだ言葉に、一番の共感を覚えたのだった。
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