【7】裏事情
猫の様に自分に甘える青年を抱き締めながら、地に転がる死体に目を遣る。
「一発で血抜きとはね。…これは頼らない方針はなさそうですね」
暗がりに響く哄笑がしばらく途絶えることは無かった――。
* * * * *
「てーんちょ!今日の獲物も狩り尽くしました!」
「おお、素晴らしい。がんばってくれましたね」
「いやぁ、初めて人殺すわけじゃありませんからね。これくらい今じゃ当然っす」
「ふふ、頼りになりますねえ」
「うー…、店長、店長」
「! …料理長、死体を血抜き部屋に入れてきてもらえますか?それから地下の様子も見てきてください」
「……了解……」
料理長が去った後、ギャルソンは腕を広げてこいこいと手招きした。
そこに新人が飛び込んで行く。
「俺、おれ、ぼく、今日もがんばったよ!」
「ええ、ええ、よくできました。はなまるです」
「えへへ、店長に褒められるの大好きっす!」
「いい子は褒められて当然なんですよ。君はとても良い子です。よしよし」
誰かを殺して、何かを殺して褒めてくれる人に初めて出会えた彼は、その人物に依存する。
子供よりは成長したが、こうして時折頭を撫でながら褒めてほしいときがあるらしい。一ケ月に一遍もないのだが、そんな時は甘やかすだけ甘やかす。
彼はもう、トラットリアには欠かせない人間なのだ。
現在の新人が出来上がるまで、何度甘やかして褒めただろう。
何度甘やかしてもらって褒めてもらっただろう。
新人の中でそんな記憶はほとんど消えている様で、普段の狩りの後腕を広げると首を傾げる。
まぁ、それはそれで良いのだが自分の財産を可愛がるのはギャルソンにとっても大事な事だ。
小日向透、二十代前半。男性。身長百七十七。体重軽い。
【死亡届】に記載した情報を思い出しながら、あの時の髪を破り捨ててよかったと思うのだった。
彼もまた一瞬でも捕食対象になっていたことは知らない方が幸せだ。
こうして天職を得た彼は、今日も夜の道で待っている。
――貴方が通りがかるのを、ゆっくりと。
人気トラットリアのこぼれ話 戮藤イツル @siLVerSaCriFice
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