第21話 鬼の娘 後編 激突
目の前の巨大な土蜘蛛が鋭く尖った複数の腕を動かし、怪しく光る赤い複数の目でギロリと
光沢のある黒地に黄色い
キキキイと金属を擦る様な金切り声をあげ近づいてくる魔物、小十郎は、太刀を構え土蜘蛛との間合いを計る。
その時、一陣の風が吹き抜けた・・・
土蜘蛛の後ろに
旅人はヒラリと土蜘蛛を飛び越える程に高く跳躍するとマントをひるがえす。
空中で腰に下げた黒く光る武器を抜くと、跳躍の回転で勢いをつけ土蜘蛛の頭上に力まかせにに振り下ろした。
「ガコンッ」
「キッイイイ」
いくつもの赤い目が付いた頭部が打撃でへこみ、悲鳴ともつかない奇声を発する。
地面に着地した旅人は、重心を少し落としたかと思うと、振り向きざま土蜘蛛に回し蹴りを放つ。
「ドゴンッ」
「・・・」
旅人は、古那たちへ向き直ると風で乱れたマントを勢いよく肩口にまくり上げた。
「・・・」
「み・つ・け・た」
まだ幼さが残る娘の声。
しかし声から闘気が
目の前の旅人は、先ほど土蜘蛛を打倒した黒く光る金棒を片手で持ち、先端をサッと向けると、闘う姿勢で構えた。
銀の飾りが
「
古那が独り言を
「古那っ・・・みつけた・・・」
目の前に立つ旅人は、かぶっていた
まだ幼さの残る娘だが、整った顔立ちは・・・
見覚えのある
「・・・」
「おまえ・・・大きくなったな・・・」
古那が声をかける。
◇◆◇◆ 羅刹の鬼娘
羅刹の鬼娘は、
チラリと
「古那。やっと見つけた・・・」
「勝負だ」
「・・・」
肩をスッと上げ首筋のゆっくりと筋肉を伸ばす。
「ふっ」
「おまえ・・・何を望む・・・」
「・・・」
鬼娘の瞳が輝く。
「古那の・・・竜髭糸・・・」
口元を緩めニヤリとする。
「ふっ・・・いいだろう」
キンッと二人の間の空気が一変し、闘気が肌に刺さる。
「待ってくれっ」
小十郎が張り詰めた二人の空気に割って入る様に声を発した。
「鬼なのか?」
小十郎の問いに鬼娘は無視し答えようとはしない。
「羅刹の女鬼だ」
古那が変わりに答える。
―――古那から話しを聞いていた羅刹の鬼
―――遠い昔、先祖が幾度も生涯をかけて闘った宿敵
―――今も語り継がれる英雄伝説・・・
―――幼少の頃より武術を叩き込まれ、先祖の武勇伝に
―――本当にこの日が訪れるとは・・・
小十郎の内から込み上げる
無意識の内に太刀の
「フンッ」
「人間ごときが私と闘うなど片腹痛いわ・・・」
と鼻を鳴らす。
「・・・」
「まあ・・・お前が負ければ・・・
切れ長の目が小十郎を
「・・・・・・」
古那が口を
「羅刹の鬼娘よ。この男、良い短刀を持っているぞ」
二人は、同時に古那を見る。
古那は、腕を組み・・・ニヤリと笑う。
「?・・・・・・」
小十郎は、腰に差した短刀を取り出すと持ち上げた。
そして、
「・・・」
羅刹の鬼娘の瞳が輝く・・・
「
「・・・」
「フフフッ」「ハハハッ」
「では・・・お前が負けても、その短刀で命は助けてやろう」
・・・何やら
◇◆◇◆ 激突
小十郎は太刀を中段に構えた。
対する羅刹の鬼娘は、黒い金棒を腹の前で自然体に構えた。
小十郎は、間合いを探る様に少しずつ右に回りながら移動する。
「・・・」
「ザンッ」
間合いの取り合いに
「
一言発すると身を沈め一気に前に出る。
金棒を振り上げると小十郎の頭上に振り下ろす。
「ヒュン」
風を斬る音。小十郎は紙一重で一撃をかわす。
鬼娘がすかさず、二撃、三撃と
辛うじてかわすが、
たまらず、小十郎は後ろに跳び退る。
が、鬼娘もザンッと地面を蹴り金棒で追撃する。
「キインー」
金属の擦れる音と一緒に火花が散る。
小十郎が逆手で斬り上げる。
今度は、鬼娘が大きく弧を描きながら後ろに跳躍する。
風の様にヒラリと地面に着地する。
「・・・」
―――ぬううう・・・一撃喰らっただけでこの衝撃。まだ腕がしびれる。
―――
―――この
鬼娘は小十郎を凝視するとニヤリと口元を上げる。
白い二本の牙が血の様に赤い唇から覗いた。
鬼娘は大きく深呼吸をすると、金棒を両手に握り左右に分ける様に
黒い金棒の中からキラリと光る両刃の古剣が現れる。
「フフフッ・・・お前を倒したら、次は古那だ!」
左手に金棒、右手に
「・・・」
古那が顎に手をやり剣を見つめる。
―――んっ!あれは・・・
―――
―――ふっ鬼族の娘が、面白い武器を持っている・・・
「・・・」
「ひゅうううう」
鬼娘の細く吐く息が漏れる。
「ザンッ」
鬼娘は体をゆらりと
鬼の持つ強靭な腕力に加え、素早い身のこなし、磨かれた刀術で左右の武器を器用に操る。
左で打っては右で斬る。右で斬っては左で打つ。
巧みに攻撃をかわしていた小十郎も、若い鬼娘の変幻自在の攻撃に後ろにさがる。
「がはっ」
鬼娘の
「キン」「キン」
グッと力で押し込まれ、
「・・・」
小十郎はたまらず横に逃げる。
「お前、なかなか強いな」
鬼娘の
小十郎は立ち上がり太刀を中段に構えると両足で地を踏みしめた。
そして頭の
「・・・」
「りゃああああ」
前にかがみ、一気に前に出る。
素早い突きを放つ。さらに左右に突く。
片手で
「ちっ」
鬼娘がクルリッと体を回転させる・・・瞬間・・・血しぶきが舞う。
小十郎の着物が、ざっくりと斬られ垂れた着物。
そこから血が
右逆手に持つ独鈷剣がキラリと光り、顔を
鬼娘は
素早い左手の突きと共に
どれほど打ち合ったか・・・
気を抜けない攻防に二人は正面で向き合った。
小十郎は上段。鬼娘は左右手上段で構えると微かに間合いを詰めながら静かに呼吸を読む。
「・・・」
「パチン」
何かが弾けた・・・
「しゃあああああ」
小十郎が右手を太刀の
鬼娘は一歩前に踏み込む。
「キン」
瞬間。短い金属音と共に一瞬早く鬼娘の剣が小十郎の振り下ろした太刀を弾いた。
二人は体がぶつかるほど交差し、ピタリと制止した。
鬼娘の剣が小十郎の首元で止まる。
小十郎の抜いた鬼切の短刀が鬼娘の
「・・・」
「ギシギシ」「キュキュ」
二人の切れ長の目が、見開かれ何かを言いたげに
「・・・」
「ぐっ古那っ!貴様っ!」
「・・・」
「今日は、ここまでだな!」
二人の間に割って入った古那の伸ばした両手から伸びた銀糸。
二人斬り合った刃に
「古那っ!」
鬼娘は小十郎の見開かれた瞳から目を離さず、白い牙を剥くと
◇◆◇◆ 愛称を贈る
古那、小十郎の、鬼娘の三人はまだ火種が
「小十郎も
「
「・・・」
「まだ・・・名は無い・・・」
「・・・」
「そうか・・・これから名が無いと呼びにくいな」
「・・・そうだな~」
古那が羅刹の鬼娘の肩に飛び乗る。
そして耳元で
「これから、おまえの名を・・・
鬼娘の肩がピクリッと上がる・・・そして何やらモジモジする。
「・・・」
「今度は・・・古那と・・・勝負だぞ」
鬼娘の切れ長の奥の深い
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