第33話 酒吞童子 4 鬼獣
古那を胸に抱いた於結は敵に見つからない様に身を隠しながら城の天守閣へと向かっていた。
途中、洞窟を探索したが、捕らわれた娘たちの姿は無い。
敵の姿も見当たらない。小十郎たちが敵を引き付けているのだろうか?
廊下や部屋に置かれた家具や飾られた品はどれも逸品ぞろい。
この高価な品々は、朝廷から奪った貢物かと思いつつ二人は先へ進む。
◇
今、二人は目の前には大きな扉があり、扉の前で耳をあて中の様子を
二人は身振り手振り無言のまま相づちを打つ。
於結が一声、目の前の大きな扉を開け放った。
「於結っ待てって」「…………」
予想通り、目の前には華やかな情景が広がっていた。
大きな柱、輝く灯りに照らされた煌びやかな装飾。着飾って行き交う女たち。
広間の中央に設けられた雛壇には、獣を枕にしながら寝そべり、酒を飲む男がいた。
突然、開いた扉の先に立つ一人に娘―――。
寝そべるその男は、切れ長な目で現れた娘を見た。
男は胸元を大きくはだけさせた着流しのゆるい姿。色白の肌に品にある整った顔立ち、黒髪を肩越しで束ね胸元に流している。赤みの無い薄い唇が高貴な気品を感じさせる。
「娘。何者だ?」
男は突然現れた娘に対して、興味無さげに冷たい口調で訪ねる。
止まった空気を押し返す様に於結の大きな声が響く。
「連れ去った娘さんたちを返してください!」
男はゆっくりと目を閉じ、そして目を見開いた。
「消え失せろ」
一瞬。手の平から赤い炎が現れた。
次の瞬間、炎の玉が於結を襲う。
「きゃあっ!」
於結の目の前で炎の玉が砕け散った。
パラパラと散った火の粉が床に落ち消えた。
男は少し興味が沸いた様子で体を乗り出す。
「貴様ら何者だ?」
銀槍で炎の玉を振り払いのけ、槍先を向ける小さな古那の姿に問うた。
「お前か。都の娘たちをさらっていると言う
「悪鬼。酒吞童子っ」
於結へ放たれた突然の炎玉攻撃に怒り露わな古那が叫ぶ。
「そうか……貴様たちが、椿の言っていた朝廷の捕り方か」
「よくここまで辿り着いたな」
「酒吞童子だと?」
「都の噂では、その様に言われているのか」
「しかし、その様な
「ふんっ」
「この城では、私の事を『
男は自分の名を
そして独り言の様に天井を見上げる。
「まあいい。私の邪魔する者はこの世から全て消えてもらう」
周りにいた女たちは、御影の言葉に不安そうに広間の隅にさがった。
◇◇◇鬼獣
「ガアァーァァァー」
御影の側らに寝そべっていた獣が大あくびをして立ち上がる。
四つ足で立つ獣は虎の様な大きな目で於結たちを見た。
「……於結。判ってる何も言うなよ」
目を丸くしていた於結が何か言いたげに古那の方を見る。
頭と体が同じぐらいの大きさの二頭身の鬼獣。
大きな顔、短い手足、全身を覆う長い毛を自分の足で踏みそうである。
その愛くるしい姿の妖獣が主人を護る様にノシノシと二人の間に歩み出た。
自分の足につまずく事なく歩み、二人の目の前に立ち塞がる。
ペロリと短い舌を出すと、耳まである大きな口を開いた。
愛くるしい体に似合わない尖った牙を剝いた。
妖獣は地鳴りの様な唸り声を上げ、大口を開けた。
すると部屋全体が揺れ、震動で調度品がガタガタと音を立てはじめる。
女たちは皆、耳を押さえ、お互い身を寄せ床や柱にしがみついた。
「ひいいいっ。ひゅううううう」
妖獣が発する妖力が風となり旋風の様に回転を起こす。
すると妖獣に向かってガタガタと物が引き付けら始めた。
妖獣が一声、
軽い古那の体が宙に浮いたかと思うと、次の瞬間。
鬼獣の大きな口の中に吸い込まれていく。
「古那あぁぁぁっ」
於結が吸い込まれていく古那に手を差し伸ばすが、胡麻粒の様に鬼獣の口の中に消えていった。
「げっふっ……」妖獣は喉を鳴らした。
鬼獣は主人からの
そして何事も無かった様に主人である御影のもとにゆっくりと戻っていく。
「…………」
辺りには調度品が嵐が過ぎた跡の様に散乱しコロコロと転がる。
「いやっあぁぁぁー」
床に座り込んだ於結が悲痛な声で叫ぶ。
「ふんっ。たわいもない」
「暗黒の闇に喰われおったぞ」
と御影が冷たい視線を向ける。
しかし突然。
妖獣の体が
「ガフッ」「ガフッ」「ガフゥゥゥッ」
妖獣は狂ったように自分自身の体を柱や床に打ちつけ始める。
「ガフッウゥゥゥ」
そして悲鳴をあげる様に異物を吐き出す為に鳴いた。
すると妖獣の口の中から、古那が勢いよく飛び出してくる。
スルリと床に着地すると全身を覆う光りが徐々に消え元の姿に戻った。
妖獣は助けを求める様に御影の後ろに隠れた。
「こっ古那っ!」
涙目の於結が歓喜の声をあげる。
「なっ何いっ」
御影が思わず立ち上がる。
「貴様っ何をしたっ」
驚きと怒り、切れ長な目を丸くして古那を見る。
「その鬼獣は、『
「暗黒の闇に呑まれる前にヤツの喉元で暴れてやったぞ」
「
古那は銀槍をクルリッと回転させると槍先を御影の喉元を指し示した。
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