Aさんの場合
惰性でテレビを見続けていたが、各局ほとんど砂嵐になってしまっていた。最後の局の使命感に燃えていた男性アナウンサーも「こんなに悲しい事件ばかりお伝えするのは心苦しい。視聴者の皆さんの為にも、僕はこの仕事を終えたいと思います」と涙ながらに頭を下げ、とうとう画面が砂嵐に変わった。テレビから情報を得ることが出来なくなり、ネットニュースの記事の更新も減ってしまった。俺はベッドに横になり、スマホでいつもの掲示板を覗く。
昨日まであった余裕は完全に消えてしまったようで、地球滅亡説を信じている奴と信じていない奴で論争になっていた。どちらが何を言おうとも、どちらも折れることはない。比較的平和な別の掲示板を覗くと、外の治安がいかに悪いかということを皆でしきりに言い合っていた。
『血だらけで殴り合っている人達がいた』という書き込みをした人がいた。『一一〇番にも一一九番にも通報したけれど呼び出し音が鳴るばかりで繋がらなかった』と続く文字を見て、そうかもう両方機能していないのか、と思った。運営している人達も人間だもんな、と当たり前のことを実感する。俺だって、今日は普通に仕事なんてサボった。だけどなんの連絡もない。きっと偉そうな先輩も、息が臭い上司も、皆出勤なんてしていないのだ。
『「最後まで職務を全うしたい」と交番勤務をしていた警察官が知らない男に刺された』という書き込みに、俺は息を呑んだ。『自分はその人に憧れていて、一緒に働けることが幸せだった。なのに自分は、真っ赤に染まるその人とその人を刺した犯人を置いて逃げてきてしまった』のだという。『今は後悔しかしていない』と締めくくられていた。もしも俺が同じ立場だったら、やっぱり逃げているかも知れない。けどそうやって励ましたところで、この人の後悔はきっと死ぬまで付きまとうのだろう。胸がざわざわと落ち着かない。
『どう死のうが一緒だ』と書きこむ人もいた。同じIDで続けて『どうせみんな死ぬんだから』と書かれたその文字から、俺は何故か目が離せない。
『どうせみんな死ぬんだから』
だから、俺はどうしたらいいんだろう。
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