Bさんの場合

 朝起きて、普通に朝食を摂って、着替えようとしたところでふと「あ、もう学校とか行かなくていいんじゃない?」と気付いた。当たり前のように大学に行く気でいた自分に呆れて、途端に肩の力が抜けた。

 友達に『起きてる?』とメッセージを送ったらすぐに『起きてる』と返事がきた。何度か文字でやり取りしていたら、電話がかかってきた。

「ねえ本当に滅びるのかな?」から始まった電話は、気付けば通話時間が二時間を越していた。「本当に滅びるんだったら」って話ばっかりだった。私は明日美容室で人生初のショートカットに挑戦するはずだったし、友達は明後日発売の雑誌に載ってる推しの男性アイドルのインタビューを読むのをすごく楽しみにしていた。そんなことも、もう出来なくなってしまう。

 二人ともきゃあきゃあと下らない事でたくさん笑った。いつも通りの会話なのに、やたらと友達の言い回しや台詞の端々が可笑しく感じる。笑い終えたとき、ふと一瞬の沈黙があった。その沈黙が怖くて私は急いで言葉を発した。

「全然実感が湧かないね」

 少し寂しく聞こえてしまったことに、私は焦った。けれど友達も寂しそうな声で「来世でもまた、友達になろうね」と言った。私は「約束だよ」と返した。

「生まれ変わったら、他の惑星ほしでね」と言い合って電話を切った。

 座っていた椅子を少し引いて、自分の足元を見た。

 ああ、この惑星ほしがなくなっちゃうんだ、と思ったら急にぞっとした。

 電話を切ったばかりの友達のことを思い出す。

「私は後悔したくないから、好きな人に告白してから死のうかな」

 そう言っていた彼女は、バイト先の先輩にもう電話しただろうか。それともまだ、勇気を振り絞っているところだろうか。

 私はスマホをじっと見つめた。

 私は、誰に何を伝えたら後悔しないで死ねるだろう。

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