戦いたくない勇者は魔王のものとなるのか?

鬼雨とゐふ者

戦いたくない勇者は魔王のとなるのか?

僕は勇者になった。


勇者と言ったら響きは良いだろうけど僕は嫌だった。


魔物は確かに僕らにとっては敵だ。


でも無駄に倒すのはよくない。


でも魔王を倒さないと僕も社会的に殺される。


それが勇者に課される責任であり縛りだった。


今日も今日とで魔王のいる魔王城にいく。


道には強そうな敵もいるけど何とか倒す。


倒しては手を合わせる。


こんな暮らしをしてもう2年半くらいだろう。


多分今の国民は僕のことなんて忘れてのうのうと暮らしてるのだろう。


自分が何でこんなことをしているのかわからなくなっちゃうよ。


敵がまた見えた。


可愛い敵もいた。


見えるたびに「戦わないで...お願い...」と呟く。


でも彼らには届かない。


心が締め付けられる。


力は人一倍強くて技だってたくさん使える。


でも心はまた別だ。


メンタルがズタボロになりながら魔王城へ足を進める。


「あ...あぁ...ここが魔王城か...」


おとぎ話ではボロボロでなんかオーラに包まれている感じがしているが本当の魔王城は普通の城と大して変わらない。


「行きたくないよ...お父さん...お母さん...」


この世にはもういない両親のことを思い出す。


『辛いなら逃げればいい』


『どんなに周りから冷たい視線を浴びようがお前はお前らしく生きろ』


言葉だけでは意味がないかもしれない。


でも僕が今生きているのはこの言葉があってのことだ。


とりあえず気持ちを改めて魔王の方に向かう。



______________________


周りにいるモンスターを全員倒して魔王がいるであろう部屋に着く。


中に入って


「ま、魔王...お、お前を倒しに来た!」


そういうと


「よく来たね...勇者...疲れたからゆっくりしな」


そこには通常の3倍くらい大きい椅子に座っている可愛らしい少女がいた。


「えっ?」


「長い旅路で疲れたろう。そこのソファーに座りなされ」


そういわれて少し悩んだが歩き疲れて足が痛いため座ってしまった。


別に今この瞬間に不意打ちされても魔王にやられるならそれでもいい。


「旅路を見ていたが君はとてもつらそうな顔をしていた。村に大切な人がいて...とかではなさそうだったし旅路の途中で仲間が倒れたわけでもない...あまつさえ仲間さえ連れてこなかった...どういうことだ?」


...もうすべてを伝えよう。


もう楽になりたい。


「魔王...僕を...僕を殺してくれないか?」


・・・・・・


無音が部屋を支配する。


先に口を開けたのは魔王だった。


「ば、バカな...どうして?!...そなた狂ったか?」


すごく心配そうにこちらを見てきた。


「魔王のくせに心配してくれるんだな...その言葉の通りだよ。ほら...見たらわかるでしょ?僕には戦う気はない。」


「ど、どうして?」


「僕は勇者になんてなりたくなかったんだよ。強いからって勝手に勇者にさせられて民衆からはおだてられ何もしないくせに魔王を倒した気分でいる。僕がここに来るまでにどんなにつらくて苦しい思いをしているのかを知らずに...だ。」


「し、しかし...そなたは強いじゃないか...戦うといっても苦戦してなかったはずじゃ...」


「じゃあ魔王に聞くね?...僕が今から君を倒したとして僕に残るものはなんだ?」


「え...えぇ~と...金か?」


「違う」


「え...名誉?」


「そんなものじゃない」


「じゃ、じゃあなんじゃ?」


「罪悪感だ。」


「ざ、罪悪感?」


「そうだよ。君たちだって自然とともに生きている生物であり自然あって生きているもとは兄弟みたいなものだ...誰が見ても化け物だと思うやつだってもとは兄弟。化け物と言って倒す人間や君たちこそが立派な化け物だよ。」


「......」


「僕もとっくにその化け物の一人さ。」


「...君は頑張ったね...化け物だって更生はできる。」


「更生?」


「われらは君たち人間のことは救いようのない生物だと思っていた...だが君は違う。君はもう戦わなくていいんだ。」


「どういうこと?」


「私だって戦いたくはないさ。でもこの国民たちを倒す奴らは許せない...だから倒す。そうして魔王と呼ばれる。わたしは君たち人間の一人芝居になんてもうこりごりなんだよ。」


「確かに昔をたどればそうなのかもしれない...でも僕が戦わない理由にはならないね。」


「もし君が戦わなければ?」


「え?」


「もし私に仕えてくれれば?」


「そ、それは...」


「今まで数多くの勇者を破った私も見たことがないくらい君は強い...多分二度と君みたいな強さの人間なんて出ないほどにね」


「...」


「そんな君が私に仕えたら...君の強さを使わなかったら争いなんて起きないはずだ。」


「?!」


「私は君が来るまでは戦いたくなかった。君から自分を殺してと言ったときはびっくりしたが本当は君とは戦いたくなかった。」


「どうして?」


「君が...その...」


「僕が?」


「むー...私をここまで弱らせるとはさすがだな...」


「えぇ...」


「私は君のことが好きなのかもしれない。」


「ええ?!」


「君に倒されてもいい思い出にはなるんだが...もし君がほかの女のところに行ってしまったときには多分悔やんでも悔やみきれないと思う。」


「どうして?」


「人間やそれ以外の種族...例えばエルフ族などに優しくしていた君を見ると今までの人間とは違ってみえて...そんな優しそうな君に一目ぼれしてしまったんだよ」


少女ははにかんで笑った。


本当に魔王なのかを疑いたくなるほどきれいで...でも無邪気っぽくて...」


「そ、そっか...」


「君と付き合いたい...いいか?」


「...む、無理なのかもしれない」


「...どうして?」


「僕は魔王のところに行くとまた争いが生まれてしまうのかもしれない...」


「...そっか、君はそこまで優しいのか...人間にも私たち魔族にも...」


「僕はもう...わからないんだよ......」


目から大粒の涙がこぼれた。


「わかった...君に一つ約束しよう...私はこの世界を乗っ取る」


「?!」


「だがしかし。皆が自由に生きれるような...そんな世界にすると」


「ほ...本当?」


「この国の王に誓って約束しよう。」


「...ありがとう」


「だがしかし...君のその人間らしさが残っているのが私には無理だ...」


「えっ...」


「君は私のものになってくれないか?」


「...ごめんそれは嫌かな...」


「そうか...なら私のものになりたくさせればいいのか...」


「えっ?!」


気づくと魔王はすぐそこにいて


「だって...私魔王だしぃ?...私が欲しいと思ったら手に入れないとねぇ」


しまった...という前には魔王に魔法をかけられた。


「眠りな...じっくりと君を私好みにしていってあげる...君の意志にそった事はしないさ...ただ君が私のことが大好きになってくれればそれでいい。」


そのまま魔王の体にもたれこんだ。



__________________


「んン...」


辺りを見渡す。


「やぁ...


「さ、三年?!」


「あぁ...その間に人間の国をわが領地にした。」


「?!」


「大丈夫だ。誰一人殺してはない...皆を洗脳して誰も争いを好まぬようにした。」


「ほ、ほんと?!」


「本当だよ...これで戦争は起こらぬはずだ。」


「そっか...よかった...」


「あとは君を手に入れるだけ...」


「...そっか」


「どうだい?君は私のものになる気になったかい?」


「...わかった僕は君のものになろう...僕は君に忠誠を誓うよ」


「...ふぁあ...うれしい!!」


そういうと彼女は僕を抱きしめると光が僕の中に入って行く。


「君も私と一緒になるね」


「そうだね...でも僕はうれしいな...君と一緒になれて」


「?!」


「僕さ...魔族も人間も変わらないものだと思ったの。自分のことだけを優先して...欲望に従順になって...でも君は僕のためかもしれないけど世界が平和になるようにすこしでも頑張ってくれた...そんな人がいるとは思わなかった...君の気持ちが少しわかった気がする。」


「それって...」


「僕も君のことが好きだよ」


「えっ?!」


「君とずっと一緒にいたい...いい?」


「もちろん!!愛してるよ...勇者様❤」


そうして彼らはどんな種族も平和に暮らせる...そんな世界を作るために一緒になって力を合わせていくのであった。


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