第3話「悪の秘密結社」

「最近の怪人共は皆クソばっかだ!特にエルピスの野郎......腑抜けにも程がある!!」


悪の秘密結社「イェルサレム」では大理石で造られたテーブルを囲って悪魔たちがわいわいと雑談をしていた。

最初に大声を挙げたのはいかにもゴリラと言い間違えるほどに筋肉質な悪魔、バアルだった。

ここ最近、人工怪人がまともな成績を挙げていないことに苛立っているのだ。

極めつけは自然発生した怪人をボコすか殴って人類を滅ぼそうとしないエルピスにはより激怒プンプン丸。



「まあ良いではありませんか。彼が活躍してくれるおかげで、我々は密やかに活動出来るのです。あまり苛立ってはお体に触りますよ」


激怒なバアルを諭すように声を掛けたのはワニ愛好家団体現会長のアガレス。

膝に乗せたアメリカワニを撫でながらエルピスをあまり責めないように言及する。


「あぁ!?貴様エルピスの野郎を庇い立てしやがるのか!!」


「フフ、バアルったら。そんなにエルピス様が羨ましいのね」


「あ!?。羨ましぃ?笑わせんなロリババァが!」


ロリババアと呼ばれたのは地獄に四十の軍団を従える悪魔、アスタロト。

その実力はルシファーに引けを取らないほどであり、彼女が全力で戦ったことがあるのは一度しかない。

年齢と合わない幼女な容姿のアスタロトにとって「ロリ」は禁句。

座席からゆっくりと立ち上がり、手のひらから暗黒の魔法陣を出した。


「死にたいの?坊や」


「まぁまぁ落ち着けって二人とも。アスタロトちゃん、綺麗な顔が皺だらけだぜ?」


それを楽しそうに宥めたのは蝿ではなくハエの方のハエの王、ベルゼブブだった。

彼は悪魔の中の悪魔、大悪魔に分類されるため実力は桁違いだ。

たった一言でアスタロトとバアルの戦意を消失させるほどに。


流石は蝿の王。ああ間違えた、糞の王だった。



「くそが.....それもこれも、全部アンタが甘やかすから悪いんだぞ!ソロモン様よぉ!」


テーブルの一番奥で座っている「女帝」へ言った。



「すまぬ、今ちょっと掲示板が胸熱だから後にしておくれ」


金髪褐色の目がキリッとした女性、ソロモンは悪の秘密結社「イェルサレム」の社長兼ボス悪魔の二つの役割を担う存在。

ソロモンの指示のもとで日夜怪人は造られており、世界を破滅させて再構築を望むとても悪い悪魔だ。


「ふぅ.....ネットとは恐ろしいものよな、一度入れば中々抜け出せん。して、なんの話をしていたのじゃ?」


「エルピスの野郎が腑抜けすぎる話だよ!!!!」


ピキピキとこめかみに血管を浮かせて叫ぶバアル。


話題の核を知ったソロモンは「そうかそうか!」と壁に設置していたテレビの電源ボタンを起動した。

ニュースではエルピスとエレキドゥス・オブ・サンダーの戦いを専門家が解説している。

どのチャンネルを回しても同じようなことばかり。



「焦ることはないバアル。見てみよ。どれもエルピスの事ばかりじゃ。人類にはまだしばらく希望を見せておけばよい。深い希望にこそ絶望が潜んでいるのじゃからな」


「だがよぉ.......俺は納得できないぜ。明らかに奴は優遇され過ぎてる。怪人になりたての頃はピーピー泣きやがったくせによ!」


「いやそれは仕方ねぇじゃん。あんときはまだ五歳だったろ?成長過程真っ只中の子供に俺達の細胞を取り込ませたんだからな。そりゃ誰だって泣くぜ?」


「今では立派な悪魔じゃ。バアルよ、同じ悪魔として少しは認めてやればどうじゃ?」


意地悪そうに言われたバアルは凶悪な顔をより激しく歪ませ、歯噛みした。


「悪魔でも人間でもねえ半端もんを信用なんか出来るか!阿呆らしい!」


「ハッハッハッハッハッハッ!ハウにも勝てぬ悪魔が何を言うとるのじゃ貴様は!気でも狂ったか?」


「.....そういうアンタは勝てるのかよ」


「あんな輩、一撃じゃ」




『居ました!視聴者の皆さん、やっと見つけました!あちらのイチゴ畑で座っているのはエルピスで間違いありません!』




全員が一気にテレビへ釘付けになった。画面には取材班がゆっくりとイチゴ畑へ近づいている様子が見られる。

マイクを持った女性が自分を映しているカメラに向かって訳の分からぬことをほざいていた。


『ゆっくり、気づかれないように近づいています。カメラ、あれズームして。どうしてイチゴ畑に?あ、食べてる』


カメラが映したのは幸せそうにイチゴを口いっぱいに頬張るエルピスの姿だった。

その隣には寄り添うようにルシファーが咀嚼するのを見つめている。


『ねぇルシファー。君も食べないの?』


食べ物の中で一番大好きなイチゴを食べているせいか口調が年相応なものへと戻っている。


『エルピス、口が汚れてるよ』


『んぅ?.....ありがとう!......ハッ!?い、いや、礼を言うぞ我が友よ!』


口調が変になっているのに気づいたエルピスは直ぐに怪人としての態度に切り替えた。

取材班は物陰に隠れてひっそりと様子を伺っている。


『君は本当にイチゴが好きだね』


『見た目が良い、味も良い、香りも良い。この三拍子が揃っているんだぞ?最高じゃね?』


『私はそういった食べ物は好まないから分からないな。おや、エルピス、どうやら渋谷に怪人が現れたみたいだ。ほら、見てみなよ』


『あ、本当だな。怪人ヘラヘラ?ちょっと行ってぶち殺して来るわ』


どうやら渋谷に自然発生した怪人が現れたらしい。

エルピスは立ち上がって軽く柔軟体操をした後に宙に浮遊した。

『私も着いていくよ』とルシファーも一緒に渋谷へ飛んでいってしまった。

一週間かけてやっとエルピスを見つけたのにまた見失う羽目になった取材班は口をポカーンと開けて佇んでいた。





「ふぉおおおお!エルピス!エルピス可愛いのぉ!そういえば暫く会えていなかったの!これを期に妾も渋谷に行くとするかの!」


「何言ってんだアンタは!まだ会議終わってねぇだろ!」


二年前に現れた「魔法少女」のことも話し合わなければならないのにこの女帝は何呑気なことを言ってやがんだとバアルはツッコむ。

するとソロモンは急に大理石のテーブルに拳を振り下ろして破壊した。


「妾がボスになったのはエルピスのおかげじゃ!甘やかして何が悪い!勝手させて何が悪い!結婚して何が悪いのじゃあワレェええ!!!!!」


「ぐぁあああああ!!!!!!!!」


なんか勝手にブチギレたソロモンは問答無用でバアルを殴り飛ばした。

その勢いのままに壁をも破壊して、渋谷へ先回りするために空間転移魔術を使用する。

ソロモンは一秒ほどして光の粒子となって消えた。



「ほんっとエルピスのことになったら情緒不安定になるよな」


「仕方なかろう。我が主が王となったのはエルピスが先代の王を木っ端微塵にしたおかげなのだからな。結婚はしておらぬが」


実は言うとソロモンは五年前まではちょっと強かった程度の悪魔でしかなかった。

悪の秘密結社は奈落の王アバドンが「好きな子に振り向いてもらう」ために組織したものだ。その好きな子は小さな子供が好きだったため、あらゆる悪魔の細胞を一人の少年にブチ込む計画を立てた。

で、生まれたのが後のエルピスとなる。



少年は五歳の誕生日に拉致られて肉体を改造された挙げ句、強制的に働かされた理由が色恋沙汰だったことに逆上し、ストライキを起こした。




五日に渡る壮絶な死闘の果てに、アバドンは敗北した。

奈落の王と称され、神に仕えたこともあるアバドンは決して弱くはない。

ただ相手が悪過ぎただけ。何故なら少年は人間でありながらも「悪魔」をその身に従えた者だからだ。




好きだった子に振られたことのショックで盲腸になったアバドンは自暴自棄になり、少年に再戦を挑んだが一撃で木っ端微塵にされて死ぬ。

ボスが居なくなった秘密結社はこのまま倒産するかに思えたが、ソロモンが二代目社長に就任したおかげで難を逃れる。







社長VS社員の命の奪い合いから少年のファンになった一部の悪魔からは伝説の戦いと称されている。













「ぐ.....く.....エルピスの野郎。俺の手でぶっ殺してやる」


頭から血をダボダボ流しつつもなんとか立ち上がろうとするバアル。


「おっ?殺れんの?バアルちゃん」


「エルピスを憎んでる奴はソロモン72柱で俺だけじゃねえはずだ......仲間を集めてぶち殺しに行く。止めるなよ貴様ら!!!!」


バアルはエルピスを殺す為に仲間を集めるべく帰宅した。


「バアルってもしかして......」


「言うなアスタロトよ。決して。憎まれているのはバアルの方だということは」


「本当におかしな野郎だ。アイツそんなに強くねぇよな?」


「少なくともルシファーよりかは弱い。エルピスと比べるのは.....彼に失礼だ」


「だな!俺も渋谷に行こっかな」






一方その頃渋谷では。




「いやぁぁあああ!!!!!!!止めてぇええ!!!来ないでええええええええ!!!!!!!!!」



「おら逃げんなヘラヘラ野郎!!!!その首もいでやるからよぉ!!!!!!!!!」




女子高生のパンツを覗いた怪人ヘラヘラはエルピスに追いかけ回されていた。

彼に恋い焦がれる魔法少女が近づいて来ていることを知らずに。


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