第9話 思い出!
思春期の自由な時間の大半をゲームで費やし、共学の高校から女子も少なくない専門校だったにも関わらず彼女はもちろん、女友達すらまともにできず社会人にまでなった俺は、女性との交際経験が浅いどころか皆無と言い切れた。
それ故に、長年ゲーム内で親しかったガイさんが会ってみたら年齢の近い女性で、しかも可愛く、リアルで会ってからもなぜか俺を気にかけてくれるこの状況が恥ずかしくもすごく嬉しかった。
しかし、昔からどこか冷めた部分を持つ自分は、いおりさんのその態度を逆に違和感として感じ、先日のケンジの件でそれはより強くなった。
女性との交際経験が少ない俺が感じる違和感、電話をしたいと言い出したり、
─―なぜこんな俺を?一度しか会ってないような俺を。
と。
――――
いおりさんから出た答えは全く予想と違っていた。まだ一目惚れとか言われた方が納得いったかもしれない。
「一度じゃない?」
「うん、私と秋頼さんは他にも一度だけ会ってる、だいぶ前だけどね」
「え、いつ? どこで? 俺の人生でいおりさんみたいな人と出会う機会なかったと思うんだけど……」
いおりさんは右手の人差し指を顔の下に当てて天井を見上げるような仕草をしながら
「んー、思い出せるかなぁ?」
そう言ってフフッと笑った。
俺は頭の中の記憶を全部ひっくり返すくらいの勢いで、過去にいおりさんと出会った可能性のある記憶を漁ったがどれもヒットしない。頭の中はずっとロード中だ。
いおりさんが無言のまま思い出そうと頭を捻っている俺に仏心でも沸いたのかヒントをくれた
「1つだけヒント。六、七年前だよ」
六、七年前、その頃だとちょうどオンラインゲームを始めたばかりの頃だ。ん? ああ、そうか。いおりさんは俺とゲーム内キャラのライが同一人物であることを知っているからこうやって会ってるんだよな。と言う事は、ゲームを始めたばかりの頃に出会った?
冷め始めているコーヒーを口に運びながら、その頃のできるだけ条件に合う記憶を辿った、すると一つだけヒットした。
──まさか、あのオフ会・・?
「いおりさん、実は俺オフ会に一度だけ参加したことがあるんだ、あまりいい記憶じゃなくて話したことはないから知らないと思うんだけど……」
「うん、知ってるよ」
意外にもあっさり知っているとい言ういおりさんの言葉でやっぱりその時か、と記憶が繋が・・・らない。
─あの時のメンバーって確か最年少は俺だったよな、2つ年下の女子なんかいなかったはずだけど・・。
「いおりさん、あの時のオフ会参加してた?」
「どうだろうね、よーく思い出してみて」
思い出せと言われても・・、俺はあの日の記憶を思い返した。
──────
ゲームを始めて4か月。
当時所属していたチームで初めてのオフ会にお呼ばれされ緊張と同時に、普段一緒にオンラインゲームで盛り上がっている人たちがどんな人なのか単純に楽しみでもあった。
オフ会の会場となる、和洋折衷の食べ放題のお店に着いたのは約束の時間より三十分ほど早かったがすでに数人が来ていて、来た人から順に自己紹介をした記憶がある。思っていたよりと言うかまさかの全員年上でびっくりして、他のメンバーは俺が高校一年生の十五歳だと言う事にびっくりしていた。
元々子供受けする設定のゲームでは無かったし、月額課金制なのも驚かれた理由だろう。
そこからじわじわ人がそろい始め時間ギリギリに最後の一人が到着、最後だったのは一番の最年長だった男の人で四十歳と言っていたかな、その人は十歳の子供を急遽家の都合で連れてきたと紹介していた。元々参加予定ではなかったけど幹事もしていた主催者は快く受け入れて、オフ会が始まった。
始めの内は、改めての自己紹介から始まりありきたりにゲームの話などで盛り上がっていた。
一時間ほどした頃だったろうか、メンバーの1人がおかしなこと言い始めた。
絶対に儲かるからとか、他に勧誘できる人を呼べないかとか、とにかく色々言い出した。幹事や最年長の人が空気が悪くなるから止めろとやんわり言っても無視をして、徐々に空気が悪くなって結局最年長の人が怒りだしたんだよな……。
俺は、まだ十五歳と言う事もありその雰囲気にすっかり委縮してしまい、小さくなって椅子に座っていたのを覚えている。
しばらく言い争いが続き、女性の店員さんが慌てて飛んできて仲介に入った当たりで、大きな何かが割れる音と怒声と悲鳴が聞こえた。
その音にビックリして顔を上げたと同時に最年長の人が料理の並ぶテーブルに倒れこんで頭から血を出していた。当然、店内は他のお客さんも巻き込んで大騒ぎになった。
結局、後から聞いた話だと最年長の人が詐欺をしようとした人の持っていたパンフレットから巷では有名な詐欺だと気付き、警察に通報しようとした所をもう1人無言で静観していたオフ会メンバーが実は詐欺仲間で、通報をさせないように後頭部を瓶で殴ったと言う事だった。
あまりの状況に俺も気が動転しそうだったが、その時俺の目の前で取り乱し泣き叫けぶ女の子がいた。殴られ倒れた人の子供だ。その姿を見て俺がパニクってどうするんだと冷静になって、ずっとその子をなだめていたのを覚えている。
状況が状況だったこともあり、気を利かしてくれたメンバーの人がまだ十五歳の俺には刺激が強いからと俺を避難させるために、救急車でその親子と一緒に病院に付き添って行くことになった。
救急車に乗っている間、殴られた人が病院で処置されている間とその人の奥さんが到着するまでの間、俺はずっと泣き続けるその女の子のそばにいて声をかけていた。
俺が親子の付添いで病院に行った後のオフ会会場も相当修羅場だったようで、当日夜にゲームにログインした時にオフ会に参加していたメンバーの人が教えてくれた。
その騒動が原因でチームは徐々に瓦解し、そのオフ会から三週間ほどで解散となった。
俺自身はオフ会そのものがトラウマとなり、今後オフ会には関わらない参加しないそう決めた、そういう記憶だ。
────
「うーん、思い出してみたけど、いおりさんはいなかったぞ?」
再びコーヒーを飲もうとカップを手にしたが、すでに飲み終わっていた。どうやら思い出しながら無意識にチビチビ飲み続けていたらしい。
「うそ! そんだけ時間かけて思い出してたなら絶対いたよ~」
「そうは言っても、記憶に強く残ってるのは幹事だった人と詐欺師と被害者の最年長の人とその子供だよ?」
「思い出してるはずなんだけどなぁ」
「いやいや、オフ会メンバーは全員年上だし唯一の年下は十才の子供だったんだからいおりさんとは年齢合わないでしょ。もしかして他の人と勘違いしてない?」
俺がそう言うと、いおりさんは少し呆れたように「もういい」って呟きながら立ち上がった。
──あれ、怒った?
ヘタレな俺は心配になっていおりさんの様子を見ている少しだけ不機嫌そうな顔をしながら立ったまま窓から外を見ていて、一息ついたと思ったら、不機嫌な顔は消えていて俺の方に向いて言った。
「秋頼さん、飲み終わったなら少し外歩こうよ」
そう提案され、まだ答えがでていないけどと思いつつもこれ以上機嫌を損なうことを恐れた俺は素直に従うことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます