第7話 着信!
長らくお世話になったオンラインゲームのサービス終了までついに残り十日を切った。サービス終了の発表があってからは、昔から共にプレイしてきた仲間達と遅くまでひたすらチャットで語り合ったり、懐かしのダンジョンツアーとか、未だに攻略の難しい強敵を倒すラストチャンスツアーなんかをして過ごしている。
───
(注)チャットの送信先を間違える事
───
そのかわり。
「秋頼さんお疲れさま、今日は勝てた?」
「いやぁ勝てない勝てない、うちのメンバーだと主力だけで行ってもギリギリだから6人のうち2人が中級者以下になるとやっぱり厳しいな」
「そっか、明日私で良ければ手伝う?」
「いや、大丈夫だよ。いおりさんのチームもサービス終了間近で忙しいだろうし」
「遠慮しなくてもいいのに」
そう、俺といおりさんはゲームをログアウト後に寝る前の10分ほどだけ電話をするようになったのだ。言い出しっぺは情けないことに俺ではなくいおりさんで、そう提案された時は驚きのあまり情けない声を上げた。
こう電話をするとチャットとはやはり違うと痛感する、文字と言葉でこんなにも発信も捉え方も密度も違うものかと驚く。
まだ10分程度の電話を数回程度だけど、すでに丸一日分のチャットをしてたんじゃないかって位の気分になれるし、逆に文字ならもっと伝えられるのになんて事もある。
まあ俺の場合、いおりさんの声が聞けるだけで嬉しいのだが。
────
さらに数日、初めて
俺はなぜか、ゲーム内で有名なトッププレイヤーの1人である、“ケンジ”さんに呼び出され2人だけでパーティーを組んでいる。
─え? なにこれ、いきなり声かけられてパーティーに勧誘されて、あまり意味もないと思うがプレイヤーの少ない過疎った町に連れてこられて……え? え?
俺自身、全体から見れば上級者になるとは思うがトッププレイヤーと比べたらお手伝い的な事なんかまず出来ないだろうし、呼び出される程のトラブルを起こしたつもりもない。チームメンバーの誰かがなにかやらかしたかと思いもしたが、今のメンバーでそんな事をするような人は検討もつかない。
─ああ、こういう日に限って
そう思った矢先、会話ウインドウにケンジさんのチャットが表示された。
ケンジ「おい、お前」
ライ「はい、何ですか?」
いきなりお前呼ばわり、やはり穏やかではない。あまりヘタなことば言わない方が良いと判断し、当たり障りのない返事をする。
ケンジ「お前さ、ガイに随分馴れ馴れしくしてるけど、あいつのなんなんだよ?」
「へ?」
思わずパソコンのディスプレイの前で変な声が出てしまった。想定外も想定外。まさか、ここで
あれ、でももしかして、こんな言い方するって事は
でも、
ケンジ「おい、聞いてんだよ」
すぐに返事をしない、と言うかできない俺に苛ついているようだ。チャット故に声のトーンはわからなくても文面からそう感じる。
返事をしないのはビックリして思考が止まっただけだからすぐにキーボードを叩き返事をする。
ライ「いや馴れ馴れしいと言われても、もう何年も前から知人ですしたまにパーティー組んでいる程度ですけど」
ケンジ「ああ!? お前ガイに手を出すような真似してんじゃねぇだろうな!」
ライ「手なんか出してませんよ」
ケンジ「本当か? 適当な嘘を言っても全部わかるんだからな!?」
ライ「わかるって、そんなことしてませんから」
これ、チャットでのやりとりだから多少落ち着いて対応できるけど、実際に対面して言われていたらパニクって何も言い返せない気がするぞ……。実際今でも心臓バクバクだ。
それに、やっぱりこの人は
確かに思い返せば、
嘘を言っても全部わかるって事は俺と
──はぁ、女の子と仲良くなれて少し浮かれすぎてたか……。
ふと、ケンジのステータスを覗き見て所属チームを見ると
なるほど、俺がこれまで何度もチームに誘っても移籍してこなかった理由はたぶんこの人なんだな……。
ケンジ「おい、何とか言えよ」
ケンジにせっつかれ、なかばやけになって返事をうつ。
ライ「わかりました。ご迷惑をお掛けしたみたいですみません。もうガイさんとは一切関わらないようにしますので。それでは失礼します」
そう言って俺はコマンドメニューを開きログアウトを選択しエンターキーを押した。すぐにゲーム内の自キャラの頭の上にログアウトまでのカウントダウンが表示される。
会話ログには
ケンジ「おいまて」
と慌てたように打たれたケンジからのチャットが表示され、直後画面は暗転、ログアウトした。
タイトル画面に戻ったパソコンの前で長いため息をついて、椅子の背もたれに体重をあずけ部屋の天井をあおぐ。
「やっぱり俺ってオフ会はダメなんだなぁ……」
五年以上ゲーム内で親しい知人だったとは言え、実際に会うまではずっと男性と思い込みさらに実際に会ったことがあるには一度だけ。
だから、縁がこれで切れたからって恐らくは俺の今後の生活には大きな支障が出るとは思えない、むしろゲームそのものがサービス終了する方が影響するだろう。
いおりさんとはもっと仲良くなりたかったけどこれでいい、諦めよう。会おうなんて提案しなければよかった。
これ以上ゲームをする気にはなれない俺は、一階のキッチンに向かった。なんだか無性に喉が渇いたからだ。
冷蔵庫から缶ビールを取り出しその場で一気に飲み干した。キッチンにいる母親からは「どういう飲み方してるの、悪酔いするよ!」なんて小言を言われたけど、適当に返事をしてリビングのソファーに雑に座った。
そのまま何も考えず無気力で缶ビールをさらに二本ほど飲みながらしばらくテレビを見ていたら、二階からドスドスと人が下りてくるわざとらしい大きな音がした。なんだようるせーなと、リビングの入口の方に顔を向けると春姉ぇが不機嫌そうに立っていて、手には着信中のメロディが鳴りっぱなしのスマホを持っていた。
「春姉ぇ、階段静かにおりろよな、それとうるさいからさっさと電話でろよ」
そう文句を言ったら
「お前の電話だバカたれっ! 私は寝てたんだ! アホ! マナーモードにしておけ!」
と、俺に着信音が鳴りっぱなしのスマホをオーバースローでぶん投げてきた。おいまじか!そこは優しく投げる所じゃないのか!
辛うじてキャッチしたがキャッチした手は痛いし、キャッチできてなかったら割れていたかもしれない、さすがにムッとして
「おい、そんな投げ方すんなよ!」
「うるさい! その電話相手にも言っておけ! 30分も連続でひっきりなしに電話かけてくるなって!」
そう言ってドアを強く締めて春姉ぇは出て行った。その様子をキッチンで眺めていた母親は
「春佳ったら、あいかわらず重いのねぇ。仕事が忙しいのも重なって酷い不機嫌ねぇ」
なんて呑気に言っているが、俺は受け取った未だに鳴り続けているスマホの画面に表示されている名前を見て少し焦っていた。
─―いおりさん!?それも、春姉ぇが言う通りなら三十分も電話を何度もかけ直してるって・・
俺はそのままスマホを持ちリビングを出た、自室までの階段を上がりながら鳴り続けているスマホの画面を眺め電話に出るかどうか迷っている。
ただ俺がゲームにログインしていないと言うだけで電話をしてくるとは思えない、仮にそうだとしても三十分も連続で、電話を掛けつづけるとは考えにくいだろう。
と言う事は、やっぱりケンジの件そう考えるのがいおりさんがどういうつもりかは分からないが妥当だ思う。そしてそれはさっきのケンジとのやり取りを知っていると言う事だ。
それは嘘をついてもすぐわかるってケンジが言っていた事の裏付けとも言えるな。
自室に入ってすぐ、大きくため息をつき未だにコールを続けるスマホを見て、意を決し通話ボタンを押した。
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