第6話 勘違い!
春姉ぇに話したことを少し後悔しながら俺は自室に戻った。
時間を見ると、すでに深夜0時を過ぎていて思っていたより長く姉と話していたことが分かる。ベットに転がりさっき春姉ぇと話したことを改めて考える。
オフ会はすべて避けてきたと言っていた
ふと、ベットボードに手を伸ばしスマホを探す仕草をするがいつも置いてある所にスマホがなく、体を起こして目で確認するが見当たらない。
―あれ? スマホが・・・あっ!!
慌ててベットから立ち上がり部屋の片隅に無造作に投げ置いてある今日持ち歩いていた鞄を手に取って、中を手探りで漁りスマホを見つけ出す。
「あったあった」
鞄から出しながら画面を見ると、通知ランプが点滅していた。
一瞬、まさか!? と思いもしたがさっき2度もダイレクトメールに騙された俺は、もう騙されないぞと画面を表示させ通知を確認した。
画面には、案の定アプリによる通知数種類とダイレクトメールで埋まっていたが、表示しきれていない物もあるようで一つ一つ処理をして後一つの所で指が止まった。
「!?」
差出人“ガイさん” 件名“今日はありがとう”
だった。すぐにメールアプリを立ち上げ本文を確認すると、ゲーム内での男言葉のガイさんではなく普通に女子のような絵文字がふんだんに使われた、今日会えたことに対する感想とお礼だった。
送信された時間を見ると、まさに俺が駅で鞄の奥にスマホをしまった直後ですでに2時間近く経過していた。
改めて時間を見ると0時半を過ぎていて、今返信をしていいものかどうか非常に悩みスマホを握りしめる。
寝ていたら起こしてしまうかもしれない、朝に返信するべきか? いや、返信がなくて怒っているかもしれない、やはり気付いた以上できるだけ早い方がいいか?
いや、むしろ返信しないで明日ゲーム内で何食わぬ顔で気付くのが遅かったからとか言っちゃうか?
悩み悩んでも答えなんか出せない、ヘタレな俺。そこでふと春姉ぇから言われた事を思い出した。
『昔から普段はバカみたいに決断が早い猛進タイプなのに・・』
『普段通り堂々としていればいいのよ』
そう言うことか春姉ぇ、わかったよ。
いつもの俺ならどうする? これがいおりさんではなくて、いつもの男友達だったら?
そう思ったら、俺の指はすぐに返信するべくスマホを自然と操作し始めていた。
こちらこそ今日はありがとうと、びっくりしたけど会えてうれしかった楽しかったと、そして可能ならまた会いませんかと、いった内容を書いた。
最後のまた会いませんかは正直悩んだ、意識していると思われたらもう会ってくれないかも知れないっていう恐怖は少なからずあった。
でも、これが今の俺の正直な感想だ、春姉ぇは色恋沙汰と言ったが実際にはまだそこにも到達していない、まだ可能性の芽が出たばかりでしかない。
それを摘み取られるのを恐れ、なにも出さずにいたら何も咲かないってことだ。
なんて俺らしくもない事を並べてみたけれど、実際にはただ単純に俺はもっとガイさんと会いたいって思った、それだけだ。
意を決して、送信ボタンを押し無事送信されたことを確認し、まるで一冊分の小説を書いたんじゃないかって位に気疲れして思わずため息をついたが、達成感もそれ相当だった。
さて、寝るか。時間的に
―え、うそだろ?
スマホを見ると、そのうそだった。
すぐに本文を見ようと思ったが、もしこれが会おうと言った事に対して、ガイさんからの拒絶だったらと一瞬よぎり見るのを躊躇ってしまう。
しかし見ないわけにもいかないと俺は意を決して本文を開いた、そこには
“返信ないから心配で起きてたよ、なんてね。うん、今度は秋頼さんが好きな湯葉の美味しいお店を探して行こうね!”
と、絵文字を混ぜて書かれていた。
って、あれ? 俺、湯葉が好きなんてガイさんに話したっけかな・・? 湯葉が好きって言っても年寄り臭いとか言われて理解されないからあまり他人に話さないんだけど、まぁ、ゲーム内で話したことがあったのかもしれないな。
改めて心配させたことへの謝罪と、おやすみなさいのメールを送信をする。すぐにいおりさんからおやすみなさいと返信が届く。こんななんて事のないメールでも思わずニヤニヤしてしまうのは女性と仲良くした経験の少なさからだと自分でもわかっている、わかっているが嬉しくて仕方ないのだ。
そのせいで結局ベットに入ってから寝入るまで一時間近くかかってしまった。
─────
翌日の日曜日は春姉ぇの用事に付き合わされ、ゲームにログインできたのは平日と変わらない夜になってからだった。
ソフィア「ライさん、チームリーダーなのに本当に来週のオフ会来てくれないんですか?」
チーム内チャットでそう俺に尋ねてきたのは、チーム内の
本人曰わく、聞かれたら本当の事を言っているし騙しているつもりもない、勝手に勘違いしている人がいるだけでネカマプレイではないとのこと。
俺は手早くキーボードを叩き返事をする
ライ「ごめん。そういうのには参加はしないって昔から決めてるから、行ける人だけでも気にせず楽しんできなよ」
ソフィア「そっかー、残念ですぅ」
お前、
そこで、ピロンと個人間チャットの通知音が鳴った。
ガイ「こんばんわ~」
─んん?
見るとガイさんだった。いつもならチャットに“w”を多用するタイプの人なのに今日は使っていない、そのため違和感が半端ない。
まぁ、俺だけでもいつも通り行くかとキーボードを叩く
ライ「こんばんは。ガイさん、昨日の夜はありがとう、すっごく楽しかったw」
変に意識してると思われてもアレなので、できるだけ当たり障りのない内容にした。
ガイ「うん、こちらこそありがとう」
やはり違和感がすごい。これじゃまるでガイさんが意識してるように見えるくらいだ。ま、そんなわけないだろうが。
ちなみに、ガイさんとはゲーム内での付き合いは長いし何度もパーティーを組んできたが所属しているチームは違う。俺がチームリーダーをしているのもあり何度か誘ったこともあるが、のらりくらりと躱され一度も同じチームになっことがない。
そのためガイさんとのやりとりは常に個人間チャットかパーティーを組んだときのパーティーチャットのみだ。
ライ「ガイさん、今日の予定は? どこか行く?w」
ガイ「ええ!? 今から? 行けないこともないけど……」
ん? なにか驚くようなこと言ったかな?パソコンの前でモニターに映し出されたガイさんのチャットログを見ながら少し考える。
ライ「あ、もしかして先客いた? それなら、仕方ないねw」
ガイ「え? 先客なんていないけど、でも今からだと時間が」
そう返事が来たので時計を見るが、まだ20時にもなっていない。いつもなら23時近くでも手が空いていたらノリノリで行こうってなる人なのになぁ。
ああ、そうか昨日寝るのが遅かったから早く寝たいのかな、それなら半分は俺のせいだし仕方ないか。
ライ「そっか、折角だから
そう返事すると、リズムよく帰ってきてた返信が止まった。数分待ったが返事がなかった。
またもや離席かな? どちらにせよ、行けないならチームメンバーとどこか行くかなぁ、なんてチームメンバーのログイン状況を確認しようとすると
ガイ「行く! 行きます!」
ガイさんからの返事がきた、さっきと打って変わって行くと言う返事だったが敬語がまじって違和感が強化されていた。
んん? なんだ、この変わり様は?
ライ「時間大丈夫なん?w」
ガイ「大丈夫!」
まぁ、そう言うなら良いけど。なんだろ、この・・あ。
ここで、ハッと一つの仮説が浮かんだが、でも、あれ? そんな勘違いある?
でも、もしこの仮説が当たってたらさっきのガイさんの反応も頷ける。
もしかして、ガイさん、俺が今からリアルで会ってどこか行こうって勘違いしてた?
キーボードを打つ手を止め思考を巡らせ、流石に都合よく考えすぎかと思いはしたが確かめる術もなく、少なくとも今日はこの件に触れないこととした。
ガイさん「現地で待ってるね~」
そうチャットを送ってきたガイさんになんとなく、昨日のことを絡めた返事をしてみた。
ライ「おK! でも、後ろから不意打ちのメールは無しねwww」
ガイ「しらない!」
怒った顔文字付きの返事がすぐに帰ってきた、たった四文字の言葉はいおりさんの声で脳内再生された。
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