第3話 いおり!
駅前にあるビルの二階にあるファミリーレストランで、彼女はそう自己紹介してくれた。
明るい店内で見る彼女は薄暗い外で見るよりさらに可愛くて、自分の正面にそんな人座っている事が自分自身信じられないでいた。
てか、この状況はなんだ!?
俺は確かさっきまで年上の男友達と初対面ってつもりのはずだったのに、なんでこんな年下の可愛い娘が俺の前に座ってるんだ!?
ゲームの話はもちろん、今まで色々相談に乗ってもらったお礼とか、今後もたまにでいいから相談に乗ってほしいとか思ってたのに、こんな状況じゃなにを話せばいいかまったく浮かばないっ!!
そんな俺をよそに、ガイさんこと加賀いおりさんは色々話しかけてくれる。
「――でね、気付いてると思うけど“ガイ”は名前の一部から取ったんだ。そこはライと同じだね」
「あ、ああ、そうか。かがいおりさんだから、ガイさんか、なるほどなるほど……」
ガイさんは色々と話しかけてくれるが、情けない事に俺はいつまでも緊張が解けずにいた。十五歳から今に至るまでオンラインゲームに没頭しリアル友人とのコミュニケーションを相当におろそかにしてきたツケだ。もちろん、彼女なんかいた試しはない。
そんな俺が、実際に会うまで年上の頼れそうな男の人だと思い込んでいたのにいざ来たのは年下の可愛い小柄な女の人なんていうサプライズに対応できるわけがない。
しかし、チャットならガイさんが女性と分かってももう少し上手く話せたのだろうか? 実際にはそれすら自信がないのが本音だけど。
俺の中でガイさんはやはり、頼りがいのある兄貴なのだ。
「ライ? ごめんね、私ばかり話しちゃって……つまらない?」
は? え?
思いがけないガイさんからの言葉にびっくりして、慌てて首を大きく横に何度か振った。
「な、な、なんで!?」
「雰囲気かな、さっきからあまり話してもくれないし。もしかして体調悪い?」
笑ってはいるものの少し残念そうな顔をしているガイさんを見て言葉に詰まる、いくら想定外なことがあったとは言え俺が誘っておきながらごめんなんて言わせてダメダメだな、とにかく俺も少しは何かと言わないと。
「いや体調とかじゃなく、まだ緊張がとれてないんだ。元々コミュニケーション能力が低い方な所に、ガイさんみたいな可愛い女の人じゃ尚更・・、正直ガイさんの言う通り、会うまでは年上のおじさんって思ってたし」
ははは、と自分の不甲斐なさを誤魔化すよう笑いながらチラッとガイさんの顔を見ると、少し驚いたような顔をしていたが少し頬が赤い気がした。
「ま、まぁ。会うまで性別を隠してたのは私だし、驚かれるだろうなとは思ってたからいいけど、やっぱりガイなのはガイなんだから気にしないでいつも通り話して欲しいな」
「そうは、言ってもな……、ガイさんが楽しめるような気の利いた話なんか浮かばないし……」
「ゲームの話とか、相談とか色々あるでしょ? 私はこうやって、こういうお店で食事をしながらお話しする事がこんなに楽しい事だったんだ、って思ってるよ? だから話してくれるならなんでもいいよ」
―うーん、随分と大袈裟に言うな
ガイさんの言葉にそう感じた。七年間オンラインゲームに没頭した俺にだってリアル友人くらいはいるし、夜明けまでファミレスで話し明かしたことくらいはある。
まぁ、ガイさんの性格なら普通に友達多いと思うしそんな事は珍しい事でもないだろう、やっぱり俺に気を使ってくれているんだろうな。
「それじゃ、一つ聞いていいかな?ゲームでの事なんだけど」
「どうしてネナベプレイしてたかって話?」
ぴったり当てられた、恐らくこの質問がいつかはされると想定していたんだろう。
「そうそれ、大体理由は想像つくんだけど五年も一緒にプレイしてて中身が女の人って気付けない位だから余程徹底してるなって思って」
「想像している理由で当たってると思う。出会い目的の人に引っかからないようにするため」
やはりそうか。出会い目的でゲームをしている人がどれだけいるかなんてわからないけど、結果的に相手のプレイヤーが異性だと分かると途端に態度を変えて、最終的にはリアルで会おうと言い出す人がいるのは事実。
実際、俺が五年以上リーダーを務めているチームでもそういう人間関係のこじれで辞めて行った人が数人いる。
と、そこでもう一つ疑問が浮かんだ。
「そ、それならなんで俺とは会ってくれたの?」
「え? えっと……、そ、それはライが私のことを完全に男の人と思い込んでるって知ってたからね。出会い目的じゃないってわかってたし」
ああ、なるほど、そう言うことか。
「たしかに、ゲームからリアル関係を求めるのは困りものだね」
と、言ってハッとして慌てる、これ俺が言って良いセリフじゃなかった!
「うんだよね、でも今日私を誘ったのって誰だっけ?」
「う……。いや、だってそれは、ガイさんが話の合う男友達と思っていたからで……」
これは本音だ。会おうと提案する前に女性と知っていたらきっと会おうなんて言う勇気はなかった。そもそもはじめから女性と知っていたらこれまで色々と相談することもなかったろうし、きっと会おう提案できるほど仲も良くなれなかっただろう、そう考えるととても複雑だ。
その後は、ガイさんに会話のリードをほとんどしてもらいながらなんだかんだゲームの話などで楽しみつつ、食事を済ましてお店から出ることになった。
会計を済まして時間をみると十九時を過ぎた所で、予定通りならこんな健全な食事ではなくて、気の合う年上のおっさんに説教でも食らいながらお酒を飲んでいたはずなのだが……。
さすがに若いましてや初対面の女性を連れて遅くまで遊べないしな、これでお開きかな――
そう考えながら外に出ると少し冷たい風が吹いていて、季節的に寒さ対策はしっかりして来たつもりだったけどかなり寒く感じる。
ガイさんを見ると膝下まであるとはいえスカートから見える足が俺より寒そうに見えた。
「あ、あのガイさん、寒くない?」
「うん、今日は寒いよねぇ。早く次行こうよ」
「次!? ど、ど、どこに!?」
なんとなくお開きだと思い込んでいた所に突然“つぎ”と言われ思わずキョドって、動揺丸出しの返答をしてしまう情けなすぎる俺。
そもそも彼女がいた事のない俺は母親と姉以外で女の人と一緒にでかけた事などないのだ、冷静でいろって方が無理がある。
そんな俺をよそにガイさんはスマホを取り出しいじり始めた。
メールかな?なんて思っていたら、スマホをいじりながら
「ねぇ、
なんて言ってきた。
秋頼さんいただきましたーっ!!
って、なんで急に名前!? そんな心の準備もできていないのに!!!
「え、あ、ごくたまに友達と行くかな、ははは。えっとガイさんはよく行くの……かな?」
と引き続き動揺丸出しで返答すると、スマホから俺の方に顔を向けてジト目で俺を見てきた。
「そこは、ガイさんじゃなくて“いおりさん”か最低でも“加賀さん”じゃないかなぁ」
「う、ごめん。その……、加賀さんは……」
と言ったところで俺の言葉を止めるように
「もう! なんで最低の方を選ぶかな! そこはそっちじゃないでしょ!?」
半分怒られてしょんぼりとしてなんだか覚悟を決めるぐらいの心境で言った
「い、いおりさんは……、カラオケするん……だ?」
「うん、たまにね。あ、近くにあったよ」
と、俺にスマホの画面を見せてきた。
見ると、全国展開してる有名なカラオケ店の場所が拡大された現在地近辺の地図だった。これを探していたのか……。
「ここのカラオケなら会員カードと割引券あるんだ、秋頼さんが良ければどう?」
まさかの展開。
俺はもうここでお開きだと思っていたのに、ガイ・・いおりさんからカラオケのお誘いとは! 女友達すらまともにいたことのない俺にはレベル高すぎなイベントじゃありませんか?
例えるなら、初心者クエをこなしている最中に、ベテラン勢から上級者御用達のダンジョンに連行される気分ですよ……?
「秋頼さん、なんだか無茶ぶりされた初心者みたいな顔してるけど……」
「あ! いや! そんなことないっすよ? カラオケね! 行こうか、行こうカラオケ!」
心読まれたー!?
恐るべし女子!
「うん、行こうか」
なんて、さりげない笑顔で返されて俺は心臓が馬鹿みたいに跳ねたのを感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます