第2話 ガイさん!
あれは今から、六年以上前の話。
まだこのゲームを始めて四カ月位だったろうか、当時所属していた勢いのあったチームのメンバーの一人がチームオフ会の話を持ち出した。
メンバーには学生から社会人まで様々な人がいたが、夏休み直前と言う事もあり大半のメンバーが時間を合わせやすいからと賛同して夏休みにオフ会が開催され俺も参加したのだ。
集まったメンバーは二十人近くいて最年少で当時十五歳だった俺、最年長で子連れで来た四十歳前後の男の人、全体のうち半分は社会人、半分は大学生か専門校生、女性は意外にも多く全体で四割ほどだった記憶がある。
で、このオフ会が始めこそ和気あいあいと楽しかったが途中から最悪になった。結論を先に言っちゃえばオフ会メンバーの中にガチの詐欺師がいた。
それに気付いた子連れの最年長の人が止めさせようとしたのをきっかけに和気あいあいとしたオフ会は十五歳の俺にトラウマを植え付けるには十分なほど殺伐としたものとなった。
それをきっかけにそのチームは完全に瓦解、間もなく消滅した。
オフ会なんてするもんじゃないし、参加するものでもない。それ以来俺はすべてのオフ会を断った。
そんな俺が自らオフ会を誘う日が来るなんて思いもしなかった──
ガイさんとオフ会の約束をしてから数日、俺は行儀が悪いのは承知でスマホを操作しながら会社の食堂で弁当を食べていると、突然背中側から声がかかった。
「行儀悪いな、
そう言われ顔を上げ振り返ると、自分のいる部署の課長がいた。俺の名字は山下だが同じ課にもう一人山下がいて俺より先輩なので俺の方が下の名前で呼ばれている。ちなみに、ゲームなキャラの“ライ”と言う名前は秋頼の頼からきている。
「あ、新田課長、すみません」
慌ててスマホの画面を消してテーブルに置く。
「ははは、冗談だ。お客さんの前ならともかくこんな所だ気にするな。それよりやたらとニヤニヤしてスマホを見ていたが彼女でもできたか?」
「いやぁ、それだったら最高ですけどね。実は今度、ネットで知り合った友人と会う約束をしてて○○駅周辺で良い飲み屋でもないかって調べてたんです」
課長は俺の前の席に弁当を持って座りながら
「へぇ、ネットでか。そう言えば俺の同級生でもネットで知り合った人と結婚したのがいたな。少し怖い気もするがそういう時代なんだろうな」
「ええ、課長の年代でもそう言うのあったんですか?」
「おいおい、俺はまだ四十五だぞ? まだ電話回線の時代だったけどネットで知り合う人だって普通にいたさ。二十歳過ぎには携帯電話も普及し始めてたかな。今に比べたら圧倒的に少ないしトラブルも多かったけどな」
「トラブルですか?」
「ああ、まぁ、多いのは詐欺とか美人局だな。お前も気をつけろよ?」
そう言って課長は奥さん手作りと思われる弁当を開けて食べ始めた。
「は、はい」
ガイさんに限ってそんな事はないとは思うし信用もしているが、やはり一度も会ったことのない人と会うのはそれなりに不安はある。
俺にとって、やはりあの詐欺騒動があったオフ会はトラウマになっているのだ。
特に俺の場合オンラインゲームにかまけてリアルでのコミュニケーション能力をかなりおろそかにしてきたから、会ったところでまともに会話できるかというのも不安材料になるのだ。チャットみたいにちゃんと話せるだろうか……。
そんな不安を抱きながら遂にガイさんと会う約束の日を迎える、サービス終了まで残り二週間の土曜日、時間は十七時半、場所はお互いに似たような距離になる県内の県庁所在地である都市の駅前、そこの敷地内にある銅像がある広場。
スマホを取り出し時計を見ると十六時五十分だ。
「少し早く着きすぎたかな」
十一月中旬と言うこともあり日はほとんど沈み、街灯や華やかな看板が多い駅前の広場でなければ辺りは相当暗かっただろう。広場を取りあえず見渡すと、足早に駅のホームに向かうサラリーマンやOL、立ち話で盛り上がる高校生くらいのグループ、ベンチに座るお年寄り夫婦やスマホをぼんやり眺めている暇そうな若い女の人が目に入った。
確か、黒いコートを着て来るとか言ってたよな。さすがにまだいなさそうだ。まぁ、時間までこのまま待つか。
広場内の空いているベンチに座り、念のためガイさんからメールがないかを確認し、メールがないのを確認したらメールにすぐ気付けるようにそのままスマホを見ながら時間を潰した。
うーむ、いよいよガイさんとご対面かぁ、どんな顔してるんだろう。勝手なイメージだと髭の似合う三十代半ばの細身で高身長な人だけど。
などと、色々考えていたら時間は思ったより早くも過ぎていた。
そして、待ち合わせまで後五分を切った、そろそろ来てもおかしくないかとベンチから立ち上がり周辺を見渡すがやはり黒いコートを着たそれっぽい男性は見当たらない。
待ち合わせ時間にギリで来るタイプなのか、それとも急用? まさか、連絡なしでドタキャンはないよなぁ・・
そう思い、広場内をキョロキョロしながらうろついていたら、広場に到着したばかりの時に見かけたベンチに腰掛けスマホを眺める若い女の人を同じ場所で見かけた。
まだいた、この人も待ち合わせかな。
なんて思い見ていたら、その人がふっと視線を上げて女の人と目が合ってしまう。
あわてて目線を外して体の向きを変える、目線が合っただけでキョドる自分が情けない。こんなんではガイさんともまともに会話できるか不安になる。
ブーッブーッ……!
手に持つスマホが突然震える。ガイさんとは急用で来れない時にとメアドを交換している、これはもしかしたら来れなくなったと言うメールかと不安な気持ちでメールを見ると
差出人はガイさん、件名は無しで、本文には“確認”とだけ書かれていた。
確認・・? なんだこれ、書いてる途中で送ったのか?
するとまた、ブーッブーッ!、と震えメールが届く。差出人は同じくガイさんで件名には“おk確認した”とつけられ、本文には“後ろにいるよ”だった。
は? うしろ?
恐る恐る振り向くと、そこには俺が広場に着いた時からスマホを眺めていた女性がベンチから立ち上がり俺のすぐ後ろに立っていた。
「こんばんは、ライ」
「・・え?」
「あれ? 人違いだったらごめんなさい。私、ガイなんだけど・・?」
今目の前にいるのは、想像していたナイスミドルとはかけ離れた、と言うより180度違う。予想が斜め上どころか性別の壁まで超えた、かなりの小柄で可愛らしい恐らくは年下と思われるセミロングの似合う女性だった。
「ガイ・・さん?」
「そうだよ、ライでいいんだよね?」
いや、確かに言われてみれば黒いショートコートを着てるけど、あれ? だってガイさんて年上で男性でナイスミドルな・・あれ?
頭の処理が追いつかず言葉で返事すらできない、俺は自分がライであることを伝えるために首を縦に大きく振った。
「よかったぁ。流石に緊張したよぉ、メールの着信タイミングで確認したけど知らない人に話しかけるのってやっぱり怖いよねぇ」
「う、うん」
「あは、でも間違えなくて良かった。ライ、どうせ私のことを年上のおじさん位に思ってたんでしょう? ざんねーん、背のちっちゃな女の子でしたぁ」
「うっ……」
読まれてる……
「ま、そう思って元々私から声かける気でいたんだけどね! ライ、思っていたよりずっと背が立いし、年齢も私と近そうだね」
「え、ああうん。身長は百七十九センチで歳は二十二歳なんだけど・・・」
改めてガイさんを見る、年齢は二十歳前後? で身長は百五十センチくらいで胸が大きい、顔立ちも綺麗でとてもじゃないがゲーム内でのガイさんからは想像つかない、それに胸が、胸が大きい。これは大事なことです。
「なんか、歯切れがわるいなぁ。もっとチャットみたいにハキハキしゃべってよ」
「いや、そうは言っても。こっちはガイさんて男の人だと思ってたから、こんな女の人だなんて想像すらしてなかったから・・、もしかして騙されて……?」
「もう失礼しちゃう! 美人局とかじゃないし、間違いなくガイ本人! なんだったらここで今まで受けてきた相談全部話しちゃおうか?」
それを聞いて汗が吹き出て顔がカッと熱くなるのを感じる、ガイさんは男だと思っていたが故の普通なら女性にはしないような相談もたくさんしてきた。まさかそれが年下と思われる女性だったなんてあんまりだっ!
「あはは、冗談だよ。そんな顔しないで! それより早くご飯でも食べようよ、お腹空いてるんだ。良さそうなお店調べておいたから♪」
俺は目の前で起きた信じらんない状況にショックを隠せず半分うなだれたままガイさんに連れられ広場を後にした。
人をグイグイ引っ張る所や下調べの周到さから、見た目はどんなに可愛くて言葉使いもチャットと違う女の子であってもやはりこの人はガイさんなんだと心底感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます