サービス終了!

ラー油

第1話 サービス終了!

 飽き性でなにをやっても続かない俺が一つだけ七年以上ほぼ毎日続けてきた事がある。

 決して自慢できる事ではないし、自分自身を磨くことに繋がるようなご立派な事でもない。ただそれは、俺にとってこの7年間生活の一部となり、喜び、悲しみ、怒り、笑い、苦しみとたくさんの仲間を与えてくれた。


 十五歳の時、何気なしに始めた大規模MMOと言われるオンラインRPG。


 そこから七年以上ハマりにハマった、人生の三分の一近くプレイし続けた俺にとってなくてはならなかったゲーム。


 それが、もう間もなくサービスを終了する。


 パソコンの画面の向こうには、現実では絶対に体験することができない、冒険、スリル、友情、激闘に溢れ、それを共にする友人もたくさんいた。

 現実で嫌なことがあっても、ゲームで繋がる友人が励ましてくれた。

 悩み事があっても嫌な顔一つせずに相談に乗ってくれた友人たち、現実というしがらみのないネット上だけの友人は俺にとっては間違いなくかけがえのない友人達だった。


 その友人達との縁がサービス終了と共に消滅する。


「はぁ……、まぁそろそろゲームばかりなのもどうかと思っていたから丁度いいのかもしれないけどなぁ……」


 自室のパソコンの前で、ボソッと呟きながらパソコンのモニターを見る。

 モニターにはオンラインゲームのタイトル画面が表示されていて、いつでも旅慣れた冒険の世界にログインできるようになっていた。


「あと、三週間か……」


 チラッと部屋にかけてあるカレンダーの見てサービス終了までのタイムリミットを確認する。まだ三週間もあるように思えるが、終わればきっとあっという間なのだろう。月をまたぎ十二月になればこの七年間通い続けた世界には行けなくなる。


「少し早いけど、みんなに挨拶して回るか……」


 七年間ほぼ毎日、一日数時間とは言え休むことなく続けた俺は、トッププレイヤーにはなれないもののそれなりの上位に食い込んでいたし、フレンド一覧も上限まで埋まるほどにいた。

 まぁ、本当に仲が良かった友人はその中でも十人程度、さらにその中でも本音で相談できるような人はほぼ一人だったけど。


 ゲームパッドを手に持ち、決定ボタンを連打していつものキャラでログインした俺は、ログインと同時に強制的に参加する仲間内のグループチャットで迫るサービス終了でお別れになると皆に挨拶をした。


 仲間たちからは他のオンラインゲームへのお誘いを受けたりもしたが、それは丁重にお断りした。恐らくこのゲーム程ハマれるオンラインゲームはないだろうと言う思いと、内心これでオンラインゲームの呪縛から離れられると言う思いもあったからだ。


 多かれ少なかれリアルを犠牲にしてまでプレイすることもあった、社会人となりそれの限界も感じていた。


 いつかは辞めないと─―


 ここ1年は常々思ったいたのだ。


 ピロンと音がなった、この7年間幾度となく聞いた、個人間チャットの通知音だ。

 画面のチャットウインドウを見ると


 ガイ「こんw今日は早いなw」


 おっ、ガイさんか―


 この人は、このゲームで一番お世話になった人だ。ゲーム攻略はもちろん、ゲーム内で5年以上になる付き合いで今では俺のリアル事情の相談まで受けてくれるナイスガイだ。

 ちなみに所属しているチームが違うので仲間内のチームチャットではなく、この人とのやり取りはパーティーを組んでいない限りこうやって個人間チャットを使っている。


 ライ「こんちゃwガイさんも早いじゃんw」


 俺も挨拶をチャットで返す。


 ガイ「サービス終了だし、今月いっぱいは無理にでも時間作ろうと思ってさwどうせライもそうなんだろ?www」


 ライ「まぁねw少し早いけど仲間にはお別れ挨拶してたりw俺涙目w」


 ガイ「まだ3週間あるのにwやっぱり他のゲームには行かないのかwww」


 ライ「まーね、これでオンラインゲームは完全引退かなwガイさんも他のゲームは興味ないって言ってたじゃんw」


 ガイ「おお、そうだ。俺も引退かなwww寂しくなるなw」


 ふっとチャットをする手が止まった。

 ネットでましてやこのゲームだけでしか接点のなかった人なのに、寂しくなるって言ってくれるのが無性に嬉しくてやはりどこか俺も寂しかった。


 ふぅ……


 と小さく息を吐いてからキーボードを叩く


 ライ「ガイさんには色々相談してお世話になったから、これから悩んだときはどうしようか本気で悩むよw」


 ガイ「ライは何だかんだで自力でこなせるって、俺はただありきたりのアドバイスをしてきただけさ。なんてなwww」


 ライ「それがありがたかったんだけどねwww」


 ガイさんとのチャットで、俺は改めてこの人に助けられたと思い出した。

 まさか、ゲーム内の顔も知らない人に恋愛相談までするとは思わなかったけど、この人のアドバイスはいつも的確で安心できるものだった。

 口は悪いけどノリは良いし、それでいて人生経験からなのか常に物事を冷静に判断する尊敬に値する人。


 ガイさんはリアルだとどんな人何だろうか? 住んでいるところは確かそんなに遠くない感じだったけど、年齢の話は聞いたことがないし、イメージだと三十代前半から四十代前半くらいかな?


 と、その時ガイさんとの個人チャットではなく仲間の方からグループチャットで突然オフ会の話が持ち上がってきた。

 当然、俺にも声が掛かったが、俺は悩むこともなく断った。今までも何度もオフ会の話を持ちかけられたが断ってきている。


 リアルとゲームの区別をしっかりわけたいと言う信念を以前から伝えていて、仲間達もそれを知っているから口々に最後くらいリアルで会いたかったと言ってくれた。

 それはそれなりに嬉しかったが、断る理由は2つある。

 一つ目は、1オフ会に参加したことがあり。その時の思い出が良いものでもなくそれ以来、そういうものには参加しないことに決めたのだ。

 二つ目は、チームのリーダー兼メインアタッカーとしてゲーム内で活躍する俺が、リアルでは冴えないコミュニケーション能力の低い凡人であることを皆に知られるのがなんとなく怖かいからだ。


 ピロンと、またチャットの通知音が鳴った。


 ガイ「もうこうやって話せるのもあと三週間しかないけどサービス終了しても元気でな。一緒に遊べて楽しかったわ」


 あと3週間、あと3週間でガイさんとは縁が切れる、そうかそうだよな。ゲーム内だけの友人だったしな。顔も知らない人だしそうなるよな。

 受験、就職、恋愛、人間関係色々な事に深夜まで相談に乗ってくれた人なのにこうも簡単に縁が切れちゃうんだな……。


 なんだかもったいねぇなぁ──


 そう思った瞬間俺の指を無意識にキーボードを叩いていた


 ライ「ガイさん、もしよかったらリアルで会ってみませんか?」


 過去の経験からオフ会には行かないと決めていた、ましてや自分から誘ったり音頭をとったりするなんてありえない思っていた。それはサービス終了確定となったこれからもそのつもりだった。

 でもガイさんなら会ってみたい。きっとこの人ならリアル知人としてもうまくやっていける。


 しかし、二、三分してもガイさんからの返事がない。


──やっぱりだめか、そうだよな。ガイさんもオフ会は避けてきたって言ってたしな。


 俺は続けてキーボードを叩いた。


 ライ「ガイさん、すみません。無理なら大丈夫です。確か同じ県内住まいだったって聞いてたから折角だからって思ったんですけど」


 それでも返事が無く、不安になりフレンド一覧からガイさんを確認すると、ログアウトをしているわけではなくプレイヤーが多く集まる町にいることはわかった。


 うーむ、離席か?


 そう思った矢先、チャット着信の音がピロンと鳴った。


 ガイ「なんで敬語wいいよ、俺も本当はオフ会とか全部避けて来てたんだけどライなら会ってみようかな、あれだけ赤裸々に相談されたら恥ずかしいもなにもないだろうしw」


 俺は思わずパソコンの前でガッツポーズをしていた。


 七年以上もゲームにプライベートタイムをつぎ込んできた俺は、正直リアルの友達は多くない。サービス終了後一番不安だったのはリアル友人の少なさから来るものもあると薄々感じていたのも事実。

 うまく行けばガイさんとならリアル友人として長く付き合えるかもしれない、例え予想以上の年上に人だとしてもガイさんなら仲良くなれる!


 その後、俺はガイさんと今後の予定を話し合った、どこで会うか、いつ会うか、どんな服装で来るかなどを軽く決め、当日にお互い急用で来れなくなった時の為にメールアドレスの交換も済ました。


 まさか自分からゲーム内知人をオフ会に誘う日が来るなんて思いもせず、当日の打ち合わせの最中から、ベッドに入り睡魔に襲われるまでドキドキが止まらなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る