第88話 恐竜みたいな人

「 「 「キャ―――――――――ッ!!!! 」 」 」


「子龍君の顔面にボールが当たったわよ!! 子龍君、大丈夫かしらっ!?」

「あっ!! でも子龍君が起き上がったわ!!」

「ほんとだ!! 鼻から血が流れているけど大丈夫そうよ!!」

「あぁ、良かったわ……」

「でも、鼻から血を流している子龍君も素敵よね♡」


 『鼻血ブー野郎』の、どこが素敵なんだよ!?

 お前等、勝手に言ってやがれっ!!


「ひ、一矢君……ご、ごめんよ……いきなり脱落してしまって……」


「ほんと頼みますよぉ!! 何で開始早々、空を見上げていたんですか!? まぁ今更そんな事を言っても仕方ないですし、試合は始まったばかりですから……それよりも顔は大丈夫なんですか? さっきから鼻血が止らないみたいですけど……」


「こ、これくらい大丈夫だよ。一矢君、心配してくれて有難う」


「心配なんてしてねぇよ!! 大丈夫なら、サッサと前妻木先輩のいる外野に行ってくれ!! 俺は早くボール投げたいんですよ!!」


「クァ―――ッ!! 優しい言葉からのこの冷たさっ!! たっ、たまらないねぇっ!!」


「うるせぇっ!! サッサと行けよ!!」


 はぁ……子龍先輩、日に日に相手するのが嫌になってきたぞ。



「なっ、何なのあの子は!?」

「『普通の子』のクセに超イケメンの子龍君に対して偉そうに!!」

「ほんとうよねぇ!? 『普通の子』のクセに生意気だわ!!」

「子龍君と話が出来るだけでも幸せなのにさ!!」


 チッ、外野の奴等、普通、普通ってうるせぇよ!!


 でも今はそんな事を気にしている場合じゃ無いよな。早くボールを投げなければ……特に俺は球技はからっきしだから、とりあえず外野担当の前妻木先輩にボールを投げてお任せしよう……


「そぉらよっと!!」


 ヒュンッ


 ボトッ……コロコロ……ピタ


「あれっ?」


「何あの子!? ほとんどボール、前に行かなかったわよ!!」

「子龍君にあれだけ偉そうにしてたクセに一体何なの!? めちゃくちゃ下手くそじゃないのよ!!」


 カ―――ッ!!


 め、めちゃくちゃ恥ずかしい……

 穴があったら入りたいよぉぉ……



「よしっ! チャンスよ贅太ぜいた君! 越智子美代の顔面めがけて思いっきりボールを投げてやりなさい!! ってか、あんたサングラスをしているけどちゃんと前、見えてるの!?」


 しまったっ!!


 エグゼクティ部で長身の見た目が一番チャラそうな『グラサン野郎』にボールを取らせてしまったぞ!!


「オッケー、サングラスは問題無い。俺にまかせろって!! 越智子ちゃんゴメンね。俺、本気で投げちゃうから~」(顔には絶対当てないけどね~)


 ゴゥッ!!


 グラサン野郎が美代部長めがけてもの凄い早いボールを投げてきたぞ!!

 でも……


 ヒュッ


「 「えっ、交わされた!!??」 」


「な、何今のは!? 越智子美代のールを避けるスピード……じ、尋常じゃ無いスピードだったんじゃない!?」


「あれぇ~おかしいなぁ……俺、結構本気で投げたんだけどなぁ……」


「贅太君!! あんた、ちゃんと越智子美代を狙って投げたの!? それとも元からあんたはコントロールが悪いのかしら!?」


「そ、そんな事ねぇよ!! 俺は昔からコントロールには自信があるんだぜ!!」


「お~っとぉ~っ!! 越智子部長にボールを当てれなかった3年の『斬麻伊贅太ざんまいぜいた』さんが花持部長に怒られているぞ―――っ!! 亀羅馬部長、今のはどう思われましたか!? 斬麻伊さんのボールは悪くない様に見えましたが」


「あぁ、たしかに斬麻伊ざんまいのボールのスピードもコントロールも文句なしだった。だがしかし、越智子君のボールを交わすスピードの方が速かったのか……たまたま上手く交わせただけなのかもしれんし……今のプレーだけでは何とも言えないな」


「ですよねぇ? それでは引き続き彼等の戦いを注目しましょう!!」


 よし、まだ誰も気付いていないみたいだな……




「うーん、こうなったら……士仙しせん君!! 外から越智子美代を狙いなさい!!」


「分かりました……」


 ウゲッ!!


 エグゼクティ部外野担当の身長が2メートルはあるんじゃないかっていう恐竜みたいな人が獲物を見るような目で美代部長を狙っているぞっ!! 


 ボールも鷲摑みだし……亀羅馬部長以上に世紀末覇者感がある人だよな!?


「さぁ、今度は2年の上空兄妹双子の兄『士仙しせん』君が巨漢を活かして思いっきりボールを投げようとしているぞ―――っ!!」


 双子の兄!?


 それも妹はあのテルマ先輩と同じくらいに小柄な女子だと!?

 本当に双子なのか!? それとも母親のお腹の中で士仙先輩がほとんどの栄養を吸収してしまったとかなのか!?


 って、そんな事どうでもいいよな!?


 それよりもこれはヤバイぞ!! 2階からボールを投げてくる様な感じだし、さっきの斬麻伊先輩以上のボールスピードがあるんじゃないのか!?


 ブンッ!!


 ギューーーンッ!!


「うわぁぁああ!! ボールが唸っているぞ!!」


 ササッ!!


「何だと……」


「 「 「え―――――――――っ、嘘でしょう!!??」 」 」


 美代部長が今の剛速球もあっさりかわしたぞっ!!

 よし、やはり……」


 ドンッ!!


「え?」


「いっ、いったーいっ!!」


「あ~菜弥美先輩!?」


「お~っとォ~っ!! 越智子部長が今回もボールを簡単に交わしましたが、後ろにいた大石さんの『お尻』にっ……『お尻』にボールが当たってしまいました―――っ!!」


 何で今、『お尻』を2回も言ったんだ?

 っていうか、そんな事より……


「なっ、菜弥美先輩、『お尻』は大丈夫ですかっ!? ―――あっ」


(ギロッ)「ひ、一矢君まで『お尻』を強調しないでよ!! わ、私もお尻も大丈夫だし……でも子龍に続いて私までボールに当たってしまってゴメンなさい……」


「菜弥美ちゃん申し訳ありません。私が急に避けてしまったばっかりに……やはり私はドジでノロマで……」


「いえいえ、大丈夫ですから!! 美代部長は何も気にしないで引き続きこの調子でボールを避けてください!! それが一矢君の考えた、私達が勝てるかもしれない唯一の『作戦』なんですから……」


「あ、ありがとうございます……菜弥美ちゃん、私……ボールが当たらない様に死ぬ気で頑張りますので……」


 美代部長、死ぬ気までは求めていませんから……


「一矢っ、私にそのボールを渡してちょうだい!! どうせ、あんたが投げても向こうにいる前妻木先輩達のところまでボールは届かないんだから!!」


「ままま舞奈、お前、なんて失礼なことを大勢の前で……」


「 「 「キャハハハ!! ほんとあのピンク髪の子の言う通りだわ!!」 」 」


 クソッ、ほら見ろ。また『子龍親衛隊』の奴等が俺をバカに……今、勝手に命名したんだけどな……それに俺だって男のプライドってやつがあるんだぞ……


 でも……う~ん……またボールを投げて恥の上塗りをするかもだし……それだけは避けたいし……ここは大人しく舞奈の言う通りにするしかないよな。


「舞奈、悪いけど頼む!!」


「ウフ♡ 素直でよろしい」


「何が素直でよろしいだよ!?」


「フフフ……気にしない、気にしない……たまには私を頼ってくれていいんだよぉ」


「ううっ……」


 あの舞奈に頼るなんてなぁ……なんか悔しい気分だ。


 はぁ……だから俺はスポーツなんてやりたくなかったんだよ……

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