第16話 引き寄せ合ったのか?

 ちょ、ちょっと寿志光さん!? 

 今何て言ったのかな!?


 俺の耳には『私のモノになって欲しい』と聞こえたんだが……恐らく俺の聞き間違いだよね? 1週間前にもこんな場面があったような気がするんだが……


 で、でもさ、いくらビッチだとしてもまさか、そんなハシタナイ事は言わないよな??


「布津野君お願い!! わ、私の『モノ』になってくれないと困るのよ!!」


 えぇ―――っ!? 

 

 聞き間違いじゃないのかよ―――っ!?

 君……マジでにその言葉を言ったのね……?


 それもさぁ、クラス中の皆に聞こえるくらいの大きな声で言ったんだよねぇ?

 マジで君、度胸あるね~? 感心するよ~って言ってる場合か!?


「ちょ、ちょっと待ってくれ寿志光さん!? 君の言ってる意味がよく分からないんだが……」


 ん? でも待てよ……


 俺もさっきまで頭の片隅に全く同じワードがあったような……

 も、もしかしてアレか!?


 でも、まさかなぁ『学校や会社で初めて出会った人をモノにしないとあなたは死ぬでしょう』……はっ!! 


 寿志光さんが初めて登校した日に初めて会ったのが俺……? ってことはまさに俺が寿志光さんにとって『モノ』ってことか!?


 いやいやいや~!!

 それは俺が考え過ぎなのでは?

 流石の俺もそこら辺はちゃんとわきまえてるぜ。


 で、でも……


「お願い布津野君!! 私の『モノ』になってくれないとホントに困るの!! わ、私、死にたくない!!」


 えぇ――――――――ッ!?


 やっぱりそうだったのか!?

 

 寿志光さんも俺と同じテレビの占いを観ていたんだな!?

 って言うか、俺と同じ蠍座だったのか!? 

 何だか運命を感じてしまう…… 

 って、そんな事思っている場合じゃないよな!?


「お、俺だって死にたくないよ!! 俺も蠍座なんだよ。俺が初めて出会った人だって寿志光さんなんだぞ!! う、占いなんて信用したくはないけど、なんか気になってきたし……だからさ、よく意味は分からないけど寿志光さんこそ俺の『モノ』になってくれよ!?」


 うわぁぁぁああ!!

 遂に言ってしまったぞ!!

 人生初の告白みたいじゃないか。 


 俺は思いがけず、なんて事を言ってしまったんだ!!

 

 ほら見てみろ!! 自分が言うのは良いけど、俺みたいな奴に言われると急に勢いが止まったじゃないか。そして我に返り、自分がどれだけバカな事を言ってたんだと気付くんだよ……


「布津野君、お願いだから私の『モノ』になって!?」


 え―――っ!?

 全然気付いてないよ、この子は!!


「わ、分かったから寿志光さん、少し落ち着こうよ? ここは一つ、お互い冷静になって話し合わないか?」


「そ、そうだね……私とした事が恥ずかしいわ……ゴ、ゴメンなさい……」




「あの~二人とも~ちょっとよろしいかな~?」


 ん? 


「なんだモブオか。何の用だよ? 今忙しいんだけど」


「あのさ~2人ともぉぉ……お互いに自分の『モノ』になれとか言い合ってるけどさ、それぜ〜んぶクラス全員が聞いちゃってるから、そこら辺覚悟よろしくね~?」


 うわぁぁああああ!!!!


 なんてこった!! そうだった!! ここは教室の中だというのを忘れていたぞ!!


 ヤ、ヤバイぞ……皆、俺達の事、絶対変な目で見てるよな!?

 

 寿志光さんの事はきっと、見た目通りの『ビッチ』だと思っているだろうし、俺の事はきっと『普通のクセに己を知らない無謀な奴』とでも思ってるんだろう!? 

 って普通は余計なんだよ!!


「モブオ……そ、そうだな。忠告感謝するよ。あのさぁ、寿志光さん? まだ俺達が死んでしまう?期限まで時間はあるからさ、話しの続きは放課後にしないか? その方がお互いに何かと都合が良いような気がするんだけど」


「そ、そうね。そうしましょう。私も今日が初登校で授業もちゃんと受けないと勉強についていけなくなるし……テストで赤点取るかもしれないし……そうなると留年するかもしれないし……最後に留年するのが嫌で中退するかもしれないし……今は授業に集中するわ」


 イヤイヤイヤ!!


 まだ入学して1週間しか経ってないんだから、今からそこまで心配をする必要はないだろ!?


 彼女もかなりのネガティブ女子だな!?

 

 あっ、そういえば彼女の名前は『すしこうまいな』だったな。

 彼女の名前を名前から苗字へ続けて読めば……


 まいなすしこう……マイナス思考ってか!?

 はぁ……この学園は変な名前しかいないのか? まぁ、俺も含めてだけど……


「よし、それじゃあ放課後に、中庭のベンチで『この件』についてゆっくり話そうか?」


――――――――――――――――――――――――

【放課後の中庭】 


 はぁぁ……今朝はマジで疲れたし、焦ったなぁ……

 っていうか、入学してからずっと疲れっぱなしだけどな。


 全然、心が落ち着く日がないぞ。


 しかし、寿志光さんもあの占い観ていたとはな。

 それも俺と同じ星座で、お互いに初めて出会った人を『モノ』にしないと死ぬなんて……


 あまりにも非情過ぎるじゃないかっ!!

 ってか、何で俺はあんな占いを信じているんだ!?


 ん? でも本当に非情なのか?

 もしかしたら俺は、遂に彼女が出来るビックチャンスが来たのではないのか?

 それも、あんなナイスバディの美少女と……ゴクリ……


 イヤイヤイヤッ!!

 期待なんかしてはダメだ!


 今までの俺の人生を振り返っても女子にモテた事なんか一度も無かったんだし……


 モテた事が無いっていうのは嘘になるのか?

 でも俺が人気があったのはいつも年下の子だぞ。それってモテたことになるのか?


 小学生の頃は幼児にモテて、中学の頃は小学生から告白のようなのをされたことはあったけど、この年頃って同級生にしか目がいっていないのに、年下に好かれても恥ずかしいだけなんだよ。

 

 だからモテたという感覚にはなれなかったんだよなぁ……


 何で俺は年下にだけモテるのだろうか??


 3日前も歩いていたら突然、中学生くらいの女の子にいきなり話しかけられそうになったから、ビックリして思わず逃げ帰ってしまったよな。

 

 という事は、俺は年下にはそこそこモテるが、同級生や年上からしたら全然恋愛対象にはならない魅力のない男ってことなのかぁ……


 はぁぁ……べ、別に良いけどさぁ……あっ?


 そうだ、来年だよ!! 来年に期待しよう!!


 高校生の後輩に好かれるのなら、さすがに恥ずかしいっていう気持ちにはならないからな。よし、今年は諦めて来年に期待することにしよう。



「布津野君、待たせちゃてゴメンね!」

「ひ、一矢君、こんにちは……」


「お、おう……えっ? おぉぉぉおおお―――っ!?」


 ビ、ビックリした―――っ!!


 な、何で美代部長が寿志光さんと一緒にいるんだ!?

 い、意味がわからんぞ!?


 でも、もしかしたら……


 性格が似た者同士、引き寄せ合ったってことなのか!!??

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