第11話 モテ過ぎた結果

 菜弥美先輩による、しりゅう先輩の悲しい過去の出来事の説明は続く。


「同じクラスの女子の一人が私に近付いて来てこう言ったんだ。『さすが大石さんね? あんな超イケメンに声を簡単にかけられるなんて……私達はあの人がイケメン過ぎて、目が合っただけで気絶しそうなのにさ。本当は声をかけたいのに全然かけられないの。逆に彼から近付いて来るものなら、私なんかがお話するのもおこがましく思ってしまって体が勝手に逃げちゃうのよぉ』ってね……」


 はい~っ!? 


 何かもう答えが分かった様な気がするんだが……それにしりゅう先輩は自分がいるところでこんな話をされて恥ずかしくないんだろうか?


 顔を背けているから表情が全然、分からねぇ!!


「そう、しりゅうはイケメン過ぎたが故に女子が近づけなくなっちゃんだよ!!」


「分かってるよ!! って、しまった!!」


「えっ!? 今、分かてるって言ったの? それに一矢君、少し怒ってる?」


 ヤバいぞ。思わず口に出してしまった。うわぁ、あの元気で明るい表情が売りの、いや今日出会ったばかりで売りかどうかは定かではないけど、菜弥美先輩が泣きそうな顔をしているのはヤバイ!! どうにかして誤魔化さなければまたしても悩み事が増えちまう!!


「ち、違うんです!! 言う順番を間違えたんです!! しりゅう先輩の気持ちを分かってくれる菜弥美先輩が同じクラスにいて良かったなぁ……菜弥美先輩って昔から優しい人だったんだなぁって……」


 うーん、今の言い訳は無理があり過ぎだよな。さすがに菜弥美先輩は……


「えーっ!? 一矢君にそう言ってもらえて私、凄く嬉しいわ!! なんだか2、3個くらい悩み事が消えて無くなった感じだわ!!」


「え? そ、そうなんですか? そ、それは良かったです……」


 はぁ……菜弥美先輩が単純というか素直というか、いずれにしてもこんな人で助かったぞ。


「それでは話のまとめに入るわね?」


 え、もうまとめですか?


「彼女との会話でしりゅうが避けられている理由は分かったけど、しりゅう自身ではどうする事も出来ず、中学も、そして高校1年の時も状況は同じだったのよ。女子からは好かれ過ぎて避けられ、男子からは妬まれて避けられてさ。だから人と会話する機会が減っていくうちにしりゅう自身に異変が起きてしまったの」


「い、異変ですか?」


「うん、しりゅう自身も会話の仕方が分からなくなって、たまに誰かに声をかけられても上手く会話をする自信がないし恥ずかしいという思いもあって自分から顔を背けてしまうようになってしまった……」


 顔を背ける? もしかして今の状態も……


「相手の顔を見ようとしても恥ずかしさが勝ってしまってしまい、誰とも目を合わせる事も出来なくなったのよ。でも、そんなしりゅうに唯一会話が出来る場所ができた。そう、それがここ、『ネガティ部』なのよ。但し、私達とも会話はするけど目は合わせないけどね。ということで、めでたしめでたし~」


「さすが菜弥美ちゃん、説明がお上手です。私みたいな人間よりも菜弥美ちゃんが部長をされた方がいいかもしれませんね?」


 何が『めでたしめでたし』だよ? 全然、めでたくないしな!!

 それに美代部長も部長交代ってサラッと言っていますけど泣きそうな顔をしてますよ!!


 ただ、菜弥美先輩の説明で、よぉ~く分かった事がある……つまり……


「つまり、しりゅう先輩はあまりにもイケメン過ぎて、小学校高学年くらいから異性の事が気になりだす女子達からしたら先輩が超タイプだったけど、カッコ良く過ぎて目も合わせるのも恥ずかしく気持ちとは逆に避ける様な行動をとってしまっていたと。それが中学でも超イケメンがいきなり転校してきた事により女子達がお互いを牽制している中、何かの漫画で読んだ事のある『みんなのしりゅう君』みたいな密約が交わされてしまい誰もしりゅう先輩に近付かなくなり、先輩はまたしても避けられている、嫌われていると思ってしまう。そしてこの学園でも同じことが起こり、1年生の時は孤立していたので2年生になった先輩を心配した担任の先生が職員室に呼び出したってところですね?」


「おぉ~!! 一矢君凄いな! 君はどこかの名探偵少年みたいだなぁ!?」


 だっ、誰が名探偵少年だ!! 

 俺は小1じゃなくて高1だぞ。それに眼鏡もかけてないし……


 ただ名探偵とは言わないが俺はもう一つ分かった事がある。

 それは、菜弥美先輩もしりゅう先輩同様、当時から美人過ぎたが故にクラスの男子が話しかけられなかったんじゃないのか!? 


 菜弥美先輩は常に自分の綺麗な顔を見慣れているからたとえイケメンを前にしても他の女子みたいにときめかなかったからしりゅう先輩に簡単に話かける事ができたんだろうなぁ……


 しりゅう先輩の事はよく分かっていても自分の事は全然分かっていないなんて鈍感にも程があるというか……いやでも、そういう鈍感なところも可愛いと思います!!


「あの~しりゅう先輩、一つだけ、聞いても良いですか?」


「な、何だい? 出来れば手短に頼むよ……」


「はい、では手短に。しりゅう先輩の名前って『趙雲子龍』の『子龍』ですか?」


「え、よく分かったね!? もしかして君も三国志好きなのかい?」


 声だけ聞けば俺に食いついて来た感じがするけど相変わらず顔は横向きなんだよなぁ……どうしても子龍先輩の顔を俺に向けたいんだ。よし、とっておきのやつを聞いてやるぞ!!


「それじゃぁ、苗字はもしかして、『ひとみ』じゃないですか?」


「……!! なっ、何で分かったんだい!? そうだよ。君の言う通り、僕の苗字は『仁見ひとみ』……仁見子龍ひとみしりゅうっていうんだ……」


「や、やはりそうですか……」


 苗字まで当てたのに、顔はやっぱり横向きなんですね?


「一矢君、凄いです!! 何故、子龍君の苗字が分かったんですか!?」


「だ、だって今までの流れで分かりますよ。『これでもか!?』っていうくらい名前オチですからね」


「ん? 名前オチ? それはどういう事かな??」


 美代部長と菜弥美先輩が不思議そうな顔をしている。

 さっきまで寝ていたテルマ先輩も起きたみたいだな?


 よし、それでは解説しよう。


『仁見子龍』だろ……平仮名に変えると『ひとみしりゅう』になるだろう?


 って事はだよ、無理矢理言うとだな……子龍先輩は極度の…………


 ひとみしりゅう……ひとみしり……


「人見知りって事じゃないですかぁ――――――――――――――ッッ!!!!」

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