第10話 イケメンの悲しい過去

「昔々、あるところに……」


 ちょっと待って菜弥美先輩!?

 何で昔話風で説明するんですかね!?


「大阪の青葉第六小学校に4年生のしりゅう君が通っていました」


 『あるところ』じゃないじゃん!! 

 ん? 青葉第六小学校?


 どこかで聞いたことのある小学校だぞ。

 うーん、見たか、それとも読んだか……あっ、昔、読んだことのある全然売れていない作家の本に出ていた小学校の名前が確か『青葉第六小学校』だったような……まぁそんな事ははどうでもいいか……


「しりゅう君は4年生までは普通の子というよりも、とても明るくてクラスの人気者でした。しかし、5年生になった頃から急にクラスの女子達に避けられる様になりました」


 えっ、何でだろ?


「そして6年生になった頃から、遂に全学年の女子から避けられるようになり、まだ明るい性格が残っていたしりゅう君は頑張って女子に近づき話しかけようとしましたが、話しかけられた女子は一瞬、しりゅう君の顔を見てはくれたんですが、すぐにその場を逃げる様にして立ち去って行きました」


 うわぁ、しりゅう先輩めっちゃ可哀想じゃん。辛かっただろうなぁ……


「子龍君は、何故自分が女子達に避けられているのか理解出来ず男子の友人達に相談しましたが、何故か友人たちは揃って「し、知らねぇよ!!」と言って、あまり相談に乗ってはくれませんでした」


 ほほぉ~!!

 これは男子達は絶対何か知ってるな!

 俺にはそんな気がするぜ!!


「そして時が経ち、しりゅう君、中学1年の夏。父『こうめい』の仕事の都合で東京に引っ越しする事になりました」


 父『こうめい』って、『孔明』のことか!?

 それって『三国志』に登場する軍師の名前じゃないか!!

 

 あっ、でも親父が『孔明』で三国志繋がりだとしたら、もしかしてしりゅう先輩の名前って『子龍』って漢字じゃないのか?


 めちゃくちゃ強いと言われていた武将、『趙雲子龍』の子龍では……?


 そんでもって、お爺ちゃんは『玄徳』だったりしてな……ハハハ、そこまではないか。


「東京の中学に転校してきたしりゅう君は心機一転、少し暗くなりかけた性格を何とか変えようとクラスメイト達に明るく接したが、またしてもクラスの女子達はしりゅう君を避ける行動をとる様になりました。一人を除いて……」


 え―――っ!?


 あまりにもしりゅう先輩が可哀想過ぎるけど……一人を除いて?


「菜弥美先輩、一人を除いてというのは?」


「そう、一人を除いて!! 何を隠そう、その一人とは、この私であったのだ!!」


「えーっ!? 菜弥美先輩がその一人ですか!? という事は、子龍先輩と菜弥美先輩は中学からの同級生って事ですよね?」


「一矢君、そうなんです!! しりゅう君を『ネガティ部』に誘ってくれたのは何を隠そう、菜弥美ちゃんなんですよ……」


 うわぁ。美代部長、涙目だけど凄く嬉しそうだぁ。ようやく話に入る事ができたから嬉しかったんじゃないですか? さっきから凄くソワソワしている感じだったし。


 ずっと菜弥美先輩がしりゅう先輩の説明を流調にしているから、部長としての自分の立場を危うく感じて不安で不安で仕方がなかったんでしょう?


 報告があります。


 俺、この数時間で美代部長の心の中が分かる様になりました。

 ほらっ、今すっごく凄い嬉しそうな顔をして……


 ほんと、美代部長は基本、表情が暗いからたまに見せる笑顔はギャップがあって、めっちゃ可愛い過ぎるぞ!!


「一矢君、私の話、聞いてるかな?」


「え? ええ、聞いていますよ!! 続きをお願いします!!」


「うん、それでは続きを……ここからは普通に説明するわね?」


 最初から普通に説明してくださいよ?


「何故、私は他の女子達と違って、しりゅうを避けなかったのか……」


「そう、そこですよ!! そこが気になります。何で菜弥美先輩だけがしりゅう先輩を避けなかったんですか?」


「それはね、私もクラスの男子から何故か避けられていたから、しりゅうの気持ちがよく理解出来たっていうかなぁ……一人ぼっちって寂しいからねぇ……」


「おぉ~なるほど!! って、何で菜弥美先輩はクラスの男子から避けられてたんですか? 何か避けられる理由があるんですか?」


 俺がクラスメイトなら真っ先にお近づきになるのにさ……


「いや~、それがよく分からないんだよ。私が男子に声をかけると、皆すぐに逃げ出してしまうんだ。当時は私も辛かったからしりゅうの気持ちが良く分かってさ……うぅっ……」


「な、菜弥美先輩、当時を思い出して涙ぐまないで下さいよ? 今は我慢してしりゅう先輩の説明の続きをお願いします」


「あ、ああ……そうだったね、ゴメンゴメン。それでは気を取り直して……そして私がしりゅうに声をかけた時、何故しりゅうが女子達に避けられているのか、ようやく分かったんだ!!」


 おーっ!!

 それはめっちゃ気になる~!!


 ……ってよく見たらテルマ先輩はいつの間にか寝ちゃってるし…!!

 そんなに面白くない話ですか?

 でもテルマ先輩はこの話は知っていて聞き飽きているだろうから眠たくなってしまったのかもな?


 それよりもだ。菜弥美先輩が説明しているのに子龍先輩は相変わら顔が横向いてるし!!

 

 どういう事だっ!? 

 マジで首痛くないのかよっ!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る