第14話 遅咲きの中年男 その9

「……海山。お前自身でも分かっているだろ?」


 僕は静かな口調で、海山に問う。


「……彼奴の親にでも頼まれたのか?」


(やっと、自覚したか……)


「なら、話は早い!」

「そう言う事だ。海山!!」

「お前位の体型なら、1週間位水と塩分で十分だろう!」


 僕は改めて、海山に説明する気は更々無かったし海山も自覚した。

 太陽が海面から昇り掛けており、これ以上無人島とは言え、この辺を航海中の船に見られる恐れが有るので長居は出来ない。


 海山の両手はロープで縛ったままだったので、此処でロープを解く。

 両手を縛ったままでは、少し可哀想だからな。


「徳丸さん!」

「海山も理解した様ですし、大丈夫です!」


「……そうか」

「なら、帰るか。山本!!」


 徳丸さんとその舎弟、僕と漁師の助手が漁船に戻る準備を始めると、海山が足を引きずるように歩きながら、僕達の方に近付いてきた。


「まっ、待て……俺も連れて行け!」


「……」


 すると、徳丸さんは無言で海山の腹部を蹴り上げる!!


『ドッゴオォォーー』


「グハアァァーー」


「お前は……1週間、ここで留守番だ」


「……」


 海山からの返事は無い。

 さっきの一撃で気絶したようだ。


「この時期だから、凍えて死ぬ事は無い」

「彼奴が目覚める前に、さっさとずらかるぞ。舎弟、山本!!」


『はい。徳丸の兄貴!!』


 舎弟と僕の声が同時に発せられる。

 漁師の助手は、それを見て怯えながら作業をしていた。


 数分でゴムボートは無人島から離れる。

 ボートを漕いでいるのは、徳丸さんの舎弟と漁師の助手で有る。


「なぁ、山本……1週間後。彼奴の生死に賭けるか?」


 徳丸さんは突然、笑顔で僕に向けて言い出す!


「ちなみに、徳丸さんはどっちなんですか……?」


「そりゃあ、山本。勿論生きている方だよ!!」

「死んでいたら面倒くさいからな。あはは!!」


(それでは賭けに成らないよ……)


「山本!」

「お前は勿論、死んでいる方だよな!!」


「……いえ、徳丸さん。僕も生きている方です」


「何でぇー、詰まんねぇな!」

「それじゃあ賭けに成らないだろうが!!」


 徳丸さんは僕に向けて、不満そうに言う。


「徳丸さん…。僕の仕事はお仕置き屋ですよ…」

「殺す事が目的は無いですが……」


 すると徳丸さんは態とらしく言う。


「あぁ、そうだったな!」

「殺しは駄目だったな。あ~~、残念!!」

「一儲けしようしたのに!!」


(やれやれ……)

(兄貴とは言え、時々無理を言う時が有るからな…)


 ため息をつくと、徳丸の兄貴に何か言われかれないので、僕は心の中でため息をついた。


 ……


 ゴムボートは問題無く漁船に戻り、その後は鄙びた漁港に戻る。

 帰りは徳丸さんと、徳丸さんの舎弟が運転する車に同乗させて貰い、僕の住んでいる町に戻って、一旦海山に対するお仕置きは終了だ。


 その間に海山に対する最後の仕上げをしつつ、1週間後を待つで有った。

 もし、その間に海山が死んでしまったら、今回のお仕置きは実質失敗で有る。

 彼の生き地獄は……無人島生活が終わってからが本番だから……


 ……

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