第13話 遅咲きの中年男 その8

「……海山。この数ヶ月の間に、何か心を痛める事件は無かったか?」


 僕は海山に質問をする。

 漁師の助手と徳丸さんの舎弟は海山を離し、それぞれの立ち位置に戻っていた。


「こっ、心を痛める事件…!」

「そんなの有る訳無いじゃ……あーー、陽愛ひよりの同級生が自殺したとか聞いたな」


(陽愛……息子をそそのかした、同級生の女の事か…)


「あの馬鹿が自殺した所為で、俺は陽愛と別れる事に成っちまった!」

「俺が陽愛に、どれだけつぎ込んだと思うんだ!!」

「少しだけで、直ぐに死にやがって!!」


 海山自身が、依頼者の息子を追い込んだ事を自覚していない感じだ。


(反省の色……全く無し)

(両膝だけのつもりだったが、両肩も潰すか……)

(けど、やり過ぎると……この後のお仕置きで死んでしまう場合も有る…)


 僕はそう考えていた時、徳丸さんが海山に向けて、静かな口調で話し掛ける。


「……お前は、責任を感じないのか…?」


「はっ!?」

「お前誰だよ!!」

「それに何で、こんな場所に行き成り連れて来られて、知らない奴に尋問を受けなければ成らないのだよ!!」


「そうか……責任を感じないのか!」

「お前は遊び感覚で、1人の青年を自殺に追い込んだ……」


 徳丸さんは左手を顎に持って行きながら、海山に話している。

 そして、僕の方に顔を向けると……


「……山本!」

「それ貸せ!!」


「はっ!」


 徳丸さんは僕から角材を引ったくる様に取ると、角材で海山を滅多打ちを始めた!?


「おらぁ!」

「この屑が!!」

「死にやがれ!!!」


「ぎゃあぁぁーーー」

「やっ、止めろーーー」


『ドカ、ボカ、ボキッ、―――』


 角材で海山を殴る音と海山の悲鳴が、小さい島中に響く。

 海山は身を丸くして防御態勢に入って居るが、徳丸さんは容赦なしに海山を角材で殴り続ける。


『バキィ!』


 徳丸さんが力加減無しで叩くから、角材が途中で割れる!!


「ぐあぁぁぁーーー」

「うあぁぁぁーーー」


 海山当然、砂浜を転げ回っている。

 あの感じだと……確実に肋骨の数本は折れているだろう。

 その海山に、徳丸さんは怒鳴りつける様に言う。


「未来有る、青年の命を、貴様の私利私欲で台無しにしやがって!」

「お前に自殺する奴の気持ちが分かるか! なぁ!!」

「親の遺産で“ぬくぬく”暮らす貴様に、この世に生きる資格は無い!!」


「お前のハッピーライフも此処までだ!」

「今から貴様には、天国から地獄に突き落としてやる!!」


(あーー、今回は徳丸の兄貴に良い所全部持って行かれた)

(兄貴と一緒にお仕置きをするのは初めてだし、意外に兄貴も純粋ピュアなんだな……)


「おい! 山本!!」

「例のバッグ出せ!!」


「はい!!」


 僕はダッシュでゴムボートに戻り、ゴムボートに乗せて有った、リュックサックを持って、徳丸さんの元に戻る。


「山本!」

「海山にそれを奴にくれてやれ!!」


「はっ!!」


 僕はうずくまっている海山の元に、リュックサックを放り投げる。

 海山はまだ転げ回っているが、徳丸さんは海山に向けて言う。


「……今から、1週間!」

「お前には此処で生活をして貰う!!」

「流石に何も無しでは可愛そうだから……少しの食料と、水だけは約1週間入れて置いた。塩分に関しては、海水でも舐めておけ!!」


 痛みが少し落ち着いたのか、海山は転げ回るのを止めて徳丸さんに聞く。


「なっ、何言ってんだ…。あんた!?」

「どうして、俺がこんな島で1週間も居なくてはならないのだ!!」


「それはな……山本!」

「お前が説明してやれ!!」


「……分かりました」


(説明するまでも無いのだがな…)

(徳丸の兄貴が全て喋っちまったし、海山も己がした事に幾ら何でも気付いて居るはずだ)


 僕は心の中でため息をついてから、海山に説明を始めた……


 ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る